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ビッグデータのリスクから子どもたちをどう守るべきか

2017年11月10日 23時10分更新

文● Emerging Technology from the arXiv

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子どもたちにとって、ビックデータを活用したデータサイエンスには未知のリスクが隠されている。なぜなら、これから将来にわたってデータが収集され、しかもそのデータの使い道が予想できないからだ。今こそ子どもたちの権利についてきちんと議論すべきだと、ユニセフの研究者は指摘している。

プライバシー保護運動家は2015年、Wi-Fiを利用した新しいおもちゃに憂慮すべき問題があることに気がついた。問題になったのは「おしゃべりバービー」という、子どもと交互に会話を交わすことができる音声認識技術を使った人形だ。

子どもたちの会話がクラウド・サーバーに保存され、玩具メーカーのマテル(Matte)がさまざまな方法でその会話を利用できることが分かると、親たちはプライバシーの侵害を心配した。当時のフォーブス誌は、このおもちゃの利用規約が「音声を録音し、音声認識を支援する第三者と共有することを許可している」と報じている。

おしゃべりバービーの音声認識システムは、純真な心を持つ子どもたちがどういったことに疑問を抱くのかを知り、共有できる可能性があった。だが同時に、倫理的なさまざまな問題も投げかけることになった。例えば「大人になったら何になったらいいの?」という質問に、どう答えればいいのか?

そしてこのエピソードは、もっと大きな課題を突き付けた。ビッグデータとプライバシーに関する議論の中で、子どもたちをどう守ればよいのか? という課題である。

イタリア・フィレンツェにあるユニセフ研究所の研究者であるガブリエル・バーマンとケリー・オルブライトは、ビッグデータとプライバシーをめぐる議論において、子どもたちの権利保護が不十分だと主張している。「長期的に影響を与え、子どもたちに重大な格差を生み出す可能性があります。子どもたちの権利問題は、倫理とデータ・サイエンスに関する世界的な議論の中できちんと考えていくべきです」。

The widespread collection, processing and usage of data gathered online poses special risks for children, say researchers.
オンラインで集められたデータの幅広い収集、処理、使用は、子どもたちに特別なリスクをもたらすと研究者らは指摘している。

本来、プライバシーに関する問題は常に複雑だ。だが、子どもたちにとってはもっと大きな問題になる可能性がある。かつては想像もできなかったスケールでデータが収集、処理されており、今後も拡大していく。「これまで以上に多くのデータが子どもたちの生涯に渡って収集されることを意味します」とバーマンとオルブライトは述べる。

確かにデータを収集することには利点がある。例えば医療の専門家は、ビッグデータを利用してより個人に適応させた診療や治療を実現しようとしている。ほかにも、より正確に各人のニーズに合わせた質の良いサービスを提供したいと考えている人たちもいる。子どもたちの世代は、ビッグデータから大きな恩恵を受けることができるはずだ。

しかし、欠点もある。問題の1つはデータの永続性だ。子どもやティーンエージャーから収集された情報は、第三者によって生涯に渡って本人と関連付けられる可能性がある。

ヨーロッパでは、自分の履歴情報を特定の状況で削除できる「忘れられる権利」で、こうした問題に取り組んでいる。実際にヨーロッパではこの権利を子どもに関する情報に当てはめる、特別な規定が定められている。

もう1つの問題は、データが収集した当事者以外にも拡散することだ。匿名化技術によって特定の個人に紐づけられていないデータが出回ることがよくあるが、匿名データから個人を特定するさまざまな方法も存在している。

さらに将来、データ処理技術がどのように進化していくのかは不透明だ。現在集められているデータが将来どのように使用されるのかは、誰にもわからないのだ。

例えば、ニュージーランドや米国では、社会福祉サービスとして、家族に関するデータが、子どもの将来への影響を予測するために使われている。ある教育機関では将来の進路について判断を下すために、生徒に関して収集されたデータが使用されている。

データが収集される際には、どのような目的で使用されるかは全く明らかにされない。重要な問題は、こうしたデータによって判断された行動が望ましくない結果を生み出すのではないか、ということなのだ。

インフォームド・コンセントの問題もある。ヨーロッパでは13歳未満の子どものデータを収集するには、両親の同意が必要だ。しかし、それ以上の年齢の子どもに対する保護は少ない。子どもたちがデータの利用規約に同意するかどうかを決断するために必要な情報をどう提示するのか。年齢が上がっていくとそれがどのように変化していくのか。データが将来どのように使用されるかがわからなければ、特に難しい問題となる。

バーマンとオルブライトは、特に世界の一部の子どもたちが保護されていない状況において、子どもたちの利益を主張するには大きな努力が必要だと述べている。「データサイエンスとビッグデータへの依存度が高まっている時代では、一部の声、すなわち世界の子どもたちの保護を主張している人の声はほとんど無視されています」と指摘する。

そのことが問題であり、今見直す努力をするべきだとして、バーマンとアルブライトは「世界中の子どもたちの生活を改善するために、子どもの権利とデータサイエンス・コミュニティの間でより大きな議論と対話を促進するのは今しかありません」と結論付けている。

(参照:arxiv.org/abs/1710.06881 : 子どもとデータサイクル: ビッグデータの世界の権利と倫理)


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