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10泊しても2万円!東京「1泊1980円ホテル」に行ってみた

2017年11月04日 06時00分更新

文● 秋山謙一郎(ダイヤモンド・オンライン

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ビジネスホテルはもちろん、一般のカプセルホテルや日雇い労働者が泊まる「ドヤ」よりも安い。東京・鴬谷にある「1泊1980円ホテル」は労働者や就活生、長期出張者などが注目する人気ホテルである。その安さの秘密と実際の使い勝手を覗いてみた。(取材・文・撮影/フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

ウィークリーマンションも
ビジネスホテルも高すぎる!

東京の場合、1泊1万円以下のビジネスホテルは少なくなった。カプセルホテルや、日雇い労働者御用達の「ドヤ」も3000~5000円くらいはする。そんななか誕生したカプセルホテル「1泊1980円ホテル」は、東京の長期滞在を安く上げたい人たちの希望の星だ

 就活中の学生、バッグパッカー、そして出張を余儀なくされるビジネスパーソン――彼、彼女らにとって、もっとも削りたいコストが「宿泊費」だろう。

 1~2泊程度ならいざ知らず、5日以上の長期滞在は多くの人を悩ませる。ウィークリーマンションを借りるほどでもないが、ホテルに連泊となれば、その費用は高くつく。

 東京・大阪間を頻繁に行き来している自営業者は、その都内宿泊費の内訳を次のように語った。

「2ヵ月か3ヵ月に一度、2週間程度都内に滞在する必要があります。私が東京で利用するウィークリーマンションは1泊当たり4000円程度、1週間だと2万7000円。2週間だと5万4000円の宿泊費なのですが、これだけでは済まないことがほとんどなのです」

 というのもウィークリーマンションの場合、ホテル宿泊とは異なり、日割りで光熱費もかかる。その額、1日当たり約800円だ。他にも、管理費・共益費が1日当たり1000円から1500円程度加算される。

 仮に管理費・共益費を1500円とすると2週間の滞在で2万1000円、光熱費は1万1200円となる。宿泊費と合わせると8万7200円だ。しかし、まだ、これだけでは済まない。前出・自営業者が溜息交じりに語る。

「退去の際、清掃費も支払わなければなりません。1万円から2万円程度です」

 布団のレンタルなども含めると、都内でウィークリーマンションに約2週間滞在するとなると、その宿泊費合計は約10万円程度というのが、今の相場だ。1週間の滞在でも約7、8万円といったところだ。

 かといってビジネスホテル利用だと、1週間から2週間程度の都内滞在ならウィークリーマンションよりも割高となることもある。

「1泊1万円以内というビジネスホテルは今、東京都心では少なくなってきました。そうすると、プライベート空間が保たれて、格安で宿泊できるのは、山谷の簡易宿泊所という選択肢しか残っていません」(前出・自営業者)

連泊に不向きなカプセルホテル業界で
注目集める「1980円ホテル」とは

 かつては日雇い労働者しか宿泊客がいなかったといわれる簡易宿泊所、通称「ドヤ」の宿泊客に近頃、ビジネスパーソンや就活生の宿泊が目立ってきたといわれるのは、こうした事情からである。

 その「ドヤ」は今、大阪・西成のあいりん地区、東京・山谷、横浜・寿町といった地域に存在するが、宿泊費は1泊当たり、低価格帯のところで3000円程度と、思ったほどは安くない。最近では5000円弱というところも増えてきた。

「なかには3000円弱のところもありますよ。でも、そういうところは馴染み客がいるのか、まず空いていることはありません。なので、どうしても5000円程度のところに泊まらざるを得ないのです」(同)

 東京・山谷や大阪・西成住民たちの話によると、低価格帯の「ドヤ」の多くは今、“福祉アパート”を兼ねており、生活保護受給をしている人の「住居」として機能していることから宿泊客を受け入れるキャパシティがないという。

 またビジネスホテルよりも安価とされるカプセルホテルも、都心では1泊3000~5000円程度と、決して“格安”とは言い難い。中には連泊ができず、毎日チェックアウト・チェックインの手続きを行わなければならないなど利便性に課題があるところもある。

鴬谷駅から徒歩15分。極限までサービスを削ぎ落とし、超低価格を実現したホテルだ

 連泊ができるところでも荷物を置くスペースが限られている。荷物置き場として共有スペースもあるが、盗難の危険も大きい。荷物も多い長期滞在には不向きだ。

 こうした事情から、「ドヤ」にもカプセルホテルにも宿泊できないビジネスパーソンや就活生の間で今、深く静かに注目されているのがカプセルホテルの「1泊1980円ホテル」である。

 この「1泊1980円ホテル」は東京駅から山手線で約10分、鶯谷駅で降りて根岸方面に約15分ほど歩いた立地にある。銀座駅からだと東京・メトロ日比谷線で約20分、入谷駅で降りて、三ノ輪方面に歩いて約5分の立地だ。

 省けるコストをすべて省き、最低限、宿泊に必要なサービスしか提供しないことで低価格化を実現したというだけあって、ここで提供されるサービスは他のカプセルホテルと比べると驚くほど簡素である。

 まず、寝具は、枕カバーやシーツは客が自分で替えなければならない。ただし、毎日でも、「替え」は用意してくれる。フェイスタオルは1日1枚まで無料提供、シャワーも無料で1日何度でも使える。ドライヤーも備え付けのものが用意されていた。

Wi-Fi無料でロッカーも完備
それでも「ドヤよりきつい」

 記者も出張時に約2週間、この「1泊1980円ホテル」に宿泊したが、都心から近い立地でもあり、ただ宿泊だけの目的なら使い勝手はいいかもしれない。

 例えば、約半畳程度のロッカーが宿泊客一人ひとりに用意されている。ゴルフバックが4つ程度入る大きさだ。長期滞在の荷物にも十分対応できる。鍵がかけられるので貴重品も保管できる。

ベッドルームは、ほかのカプセルホテルに比べてやや狭め。男性だと、寝返りを打つのがやっとで、「ドヤよりも住環境は厳しい」との声も

 ただ、プライベートスペースであるベッドルームは、都内にあるカプセルホテルに比べてやや狭い。身長175センチ・体重80キロの記者が寝ると、寝返りは打てるが、起きると頭を打つか打たないか…といった感じだ。狭いところが苦手な人には向かないかもしれない。

 Wi-Fi完備で使用料も取られない。年代を問わずベッドルーム内でオンラインゲームに興じている向きが多かった。

 宿泊客で岩手県から3週間の滞在予定で東京にやって来た建設作業員だという50代男性が語る。

「正直、ドヤよりも住環境は厳しい。でも、安さには代えられない。いくら都内での滞在費は会社負担だといっても、あまり高額だと、また次の機会に使ってもらえるかどうか、わからないからね」

 たしかに、記者よりも一回り大柄に見えたこの50代男性にとっては、寝返りひとつ打つのがやっとというベッドルームは、ややキツいだろう。しかし、小柄な女性にとっては、さほど苦にならないようだ。就活のために九州からやって来たという20代女性が語る。

「寝るだけならそんなにキツくはないです。ベッドで座りながらパソコンを広げて作業もできます。1泊1980円(税抜き)ですが、連泊すれば割引もあります。ポイントサイトも使ったので、10日間で実質1万5000円で済みました」

 男性と女性は、それぞれ専用フロアに分かれており、それぞれのフロアでは男女が鉢合わせになることはない。前出・20代就活中女性は言う。

「他の人と話す機会はまずありません。屋上にでも行かない限りはないですね」

 喫煙所兼ロビーとしても利用されているこの屋上には自動販売機が置かれており、缶ジュースや缶ビール、カップラーメンも買える。

足を伸ばせるだけ
漫画喫茶よりマシ

 屋上利用の際は一度、1階のフロントまで降りて、利用する旨を申告、サインをしなければならない。「1泊1980円ホテル」のフロントはその理由をこう語った。

「屋上で騒ぐお客様がいらして、近隣から苦情が来たからです。せっかく旅に来られているんだから、あまりうるさいことは言いたくないのですが…」

 その屋上に夜行くと、前出の就活中女性が言うように、日によっては年代、男女を問わず宿泊客が缶ビールやジュースを片手に歓談していることもある。

 宿泊客たち曰く、「若い就活生の話を聞いて自分も頑張ろうと思った」(50代男性)、「バッグパッカーの人から旅話を聞いて元気をもらった」(30代女性)、「人生の先輩から社会の現実を聞き勉強になった」(20代男性)――ビジネスホテルやカプセルホテルにはない宿泊客同士の交流も、宿泊客自身が望めば可能といったところだ。

 この屋上での宿泊客同士での交流で記者が出会った40代後半男性は、「十分に働ける体力あり」という理由から、東京都、横浜市、大阪市で生活保護受給申請したものの門前払いを食らったため、全国の建設現場や工場での住み込み勤務、漫画喫茶などを転々とし、最近はこの「1泊1980円ホテル」に時々、宿泊しているという。

「ベッドで眠れるのが有難いね…。同じ価格でも漫画喫茶だとベッドで足を伸ばして眠ることはできないから」

「1泊1980円ホテル」には、長期宿泊客も少なくない。1週間の滞在予定だという徳島県からやって来た50代会社員男性は言う。

「都内の大学に進学した娘の監視を兼ねてやって来ました。娘は大学の寮に住んでいるので、そこに泊まるという訳にはいきません。ここは長期間宿泊するには便利です。ちょっと狭いのが難点ですが、この価格なので気になりません」

 実際、「1泊1980円ホテル」によると、長期宿泊者は少なくないという。

「荷物も宅配便で受け取れます。なかにはアマゾンで注文した品をここで受け取るお客様もいらっしゃいますから」(1泊1980円ホテル)

 荷物の受け取りは可能だが、ホテルフロントからの荷物発送は受け付けていないという。ただし、近隣にコンビニエンスストアや宅配便の荷受所があるから、利便性は悪くない。

 とはいえ長期滞在者にとってネックなのがコインランドリーの設置数が少ないことか。もっともこれは近隣のコインランドリー利用で対応できる。しかしホテルという性質上、自炊設備がないので、宿泊中、ずっと外食、もしくは近隣コンビニで購入した弁当などを食べている人がほとんどだった。近いうちにバーの開店を準備しているというが、食事ができるようになると、さらに利便性が増して宿泊客人気が高まるかもしれない。

 2020年の東京オリンピック開催で、都内のホテル需要が高まるなか、10日間滞在で約2万円というこの“激安”ホテルの出現は、ホテル業界の新たなる台風の目として、今、業界関係者の間で注目されている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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