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東京モーターショーでスバルとマツダがにぎわう理由

2017年11月03日 06時00分更新

文● 中尾真二(ダイヤモンド・オンライン

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 10月28日から東京モーターショーの一般公開が始まり、11月5日に閉幕を迎える。2017年の東京モーターショーは、一般公開日初日の来場者数が台風の影響もある中で8万6000人とまずまず。一方で、展示内容や参加メーカー数の減少などから東京モーターショーの凋落を嘆く声も、メディアを中心に少なからず聞こえてきた。

 そもそも、モーターショーの位置づけや役割は、世界的に変化を遂げている。3大モーターショー(ドイツ、北米、日本)、5大モーターショー(+フランス、スイス)といった枠組みはすでに過去のもので、どのモーターショーもローカル市場や各メーカーの戦略によって出展を調整するのが常識だ。

 その中で昔ながらのモーターショーを色濃く残している、というより引き継いでいるのが中国上海モーターショーだろう。主要メーカーがこぞって参加し、コンパニオンの露出度もバブル期の東京モーターショーを彷彿とさせる。

「BEYOND」に込めた自工会の意図

 2017年のモーターショーのテーマは「BEYOND THE MOTOR」。ホームページにはその意味が「自動車産業の枠を超えて、さまざまなアイディアやテクノロジーを取り入れ、『これまでのモビリティの価値を拡張していく』というビジョン」と説明されている。これまでのモータリゼーションを超えるという意味が込められている。

 自動車そのものの価値が大きかった過去から、自動車が移動手段として新しい意味を持ち始めた。今こそモビリティ時代への跳躍が求められている、といったところだろう。クルマであればその基本性能で売れる時代ではないので、移動や運転という体験をサービスとして提供することを考えないとダメ、という自工会の業界に対するメッセージでもある。もっと言えば、EV、自動運転、シェアカー、コネクテッドなどをやらないと生き残れない、という警鐘とも取ることができる。

 EVやコネクテッドカーの流れはおそらく止められない。ビジネスにとってスピードが重要な現在、旧来のままでも「まだ大丈夫だろう」では、確実に世界に置いていかれる。将来必ず当たるビジネスを見通すことは不可能なのだから、未来を見据えたトライアンドエラーに慣れていくことが生き残りの手段になるというわけだ。

 このように「BEYOND」というワードには、未来を見据えることの重要性を、モーターショー参加企業や来場者に意識してもらいたいという願いが込められているのだろう。

業界の思惑と消費者ニーズのミスマッチ

 とはいうものの、これは自動車業界への戒めを込めたメッセージであり、現状の消費者の想いと必ずしも一致していない可能性がある。

 それを痛感するのは、会場でひと際人気を集めているのがマツダのデザインコンセプトカー、VISION COUPEとKAI。そしてスバルブースのVIZIV PERFORMANCE CONCEPTを筆頭とするBRZ、S208、XVなどの車種たちであるという事実だ。

 マツダにおいては、前回2015年のモーターショーでもRX-VISIONの展示だけ絶大なにぎわいを見せていた。このときも各社はEVや自動運転などをベースに、ハンドルがなかったり、外装がイルミネーションディスプレイになっていたりと、斬新な未来カー推しだった。他方で人々の注目を集めたのがロータリーエンジンを搭載したスポーツコンセプトだ。

 マツダ、スバルといえば個性的なクルマづくりに定評があり、コアなファンが多いメーカーでもある。マツダのSKYACTIV-XやGベクタリングコントロール技術、スバルのボクサーエンジン+AWDにアイサイトなど、技術的な注目ポイントもたくさんあるが、自工会がEVや自動運転の打ち出しを「BEYOND」という言葉を使いながらある意味推奨している中で、若干方向性の異なる「BEYOND」を打ち出している。

 こうした独自方向への「BEYOND」が、来場者に大いに受けた。ブースの賑わいを見れば一目瞭然。世界の潮流や業界の危機感とは別の次元で盛り上がる。来場者の表情を見れば「楽しんでいる」「喜んでいる」し、何よりマツダもスバルも2017年度上半期の決算ではグローバルでの出荷台数を増やしているという事実がある。

独自路線を貫く2社のポリシー

 誤解のないようにしておきたいのだが、マツダもスバルも、EVや自動運転を考えていないわけではない。マツダは過去に、小型のロータリーエンジンをレンジエクステンダーとしてEVデミオなどに搭載した車両を発表している。スバルのアイサイト・ツーリングアシストは、他社に先駆け、高速道路や渋滞時の追従走行を実現している。

 この2社はどのような背景で今回のモーターショーに臨んだのだろうか。会場でそれぞれの広報担当者に「自工会のテーマは、EVや自動運転、コネクテッドを強く意識したものだと思うが、会社としてどう考えるか」という質問をしてみた。

 マツダは「CO2の排出量に関してWell to Wheel(燃料の製造からCO2消費を考える)という考え方があるが、インフラ整備のコストやエネルギー消費を考えると、既存の内燃機関でもできることはあると思っている。EVや自動運転で価格が上がるより、多くの人に手の届く製品であること、ソリューションであることが重要だと考える」と答えた。

 スバルは「まずドライバーあってのクルマという考え方。その安心や安全を追求するうえでパワートレーンや運転支援システムを考えている。また、走行性能を追求していくと安全なクルマになっていく。EVや自動運転(支援)はその延長で考えるもの」とする。

 どちらも、EVや自動運転など特定技術ありきではクルマ作りを考えておらず、それぞれの目標・目的のために必要または使える手段としてそれらの技術があるという点で一致している。

 世界の名だたる自動車メーカーがひしめいている日本。トヨタ、ホンダ、日産に比べ、企業規模に差があるマツダやスバルだからこその戦略。つまりは消去法であり、EVや自動運転を「やらない」のではなく「できない」のだろう、と考えるのは素直だが、そこをもう少し深く考察してみたい。

大手には大手の事情がある

 今回の東京モーターショーでマツダ・スバルのように明確なポリシー、わかりやすい筋を通せるのは、企業規模やグローバル市場への依存度が関係している。

 東京モーターショーがローカルモーターショーとなったのは事実だ。背景には世界における「日本市場規模の低下」と、「日本の自動車メーカーのグローバル化」という2つの要素が関係している。

 トヨタ・ホンダ・日産の規模になると、まずはグローバルでのシェア、売上の維持、拡大が重要。日本市場における、自工会の意向、自動車業界の事情、そして消費者ニーズは、あくまでグローバル市場におけるワンオブゼムだ。とすると、東京モーターショーでのアプローチは、グローバルで優先順位を落としている日本市場という意味で、どうしても総花的になってしまう。

 もちろん、巨大な中国市場やアジア各国といった成長市場で、大手メーカーがどのようなプレゼンスを構築していくかの戦略は、各社とも具体的なプロダクトまで落とし込んだブランド作りでしのぎを削る。例えばインドネシア市場は日本でいうところのミニバンやその派生車種へのニーズが高いため、トヨタなどは現地でミニバンを積極展開している。ルノー・日産連合は、中国でかねてから関係性の深い東風汽車集団と、合弁会社を設立することを今夏発表。EVを共同開発する目的だ。

 マツダやスバルもグローバル展開はしているが、企業体力では大手に劣るため、既存の延長にある資産をフル活用して「ニッチ」を狙う。結果ブランドの色や狙いが大手に比べはっきりしてくることで、消費者のニーズに深く刺さる。今回、ローカルショーという位置付けがより明確になってきた東京モーターショーで、大手メーカーよりもマツダやスバルの打ち出し方がわかりやすく、来場者の心を掴んだのはこうした背景があろう。

 モーターショーにおいて、次世代パワートレインや自動運転機能に考え方の差があるのは、メーカーごとのカラーや規模、戦略の差による。消費者は従来のように排気量や走りを追求した車が並ぶ「モーターショー」を求めているのか、新しいテクノロジーなどを楽しむ「モビリティショー」を求めているのか。それに対してメーカーはどちらを提案したのか、という話だ。

 モビリティ革命は過渡期。したがって枠組みのブレはある意味避けられない。が、次回は東京オリンピックの関係で、会場がどうなるかわからない。であれば逆に試験的な取り組みをしたらどうだろうか。例えば、パワートレイン別に内燃機関と電気モーターで会場を分けるといったものや、無人カーと有人カーというくくりでもいいかもしれない。

(ITジャーナリスト・ライター 中尾真二)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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