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トヨタとホンダが「EVシフト」に乗らず全方位体制を貫く理由

2017年11月01日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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GR HV SPORTS concept Photo by Takeshi Shigeishi

11月5日まで東京・有明の東京ビッグサイトで開かれている東京モーターショーでは、各社が電気自動車(EV)シフトを打ち出している。その一方で、ハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)などを含めた全方位体制を貫く姿勢を示したメーカーもある。トヨタ自動車とホンダだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)

 流線形で漆黒のボディは、まるで黒豹のようだ。その姿をカメラに収めようと、周りを何重にも囲む来場客がシャッターを切る。スポットライトとカメラのフラッシュを浴び、その車は恍惚としているようにさえ見えた。

 東京モーターショーの一般公開で初の日曜日を迎えた10月29日。トヨタが世界初公開したコンセプトカー「GR HV SPORTS concept」の周囲には多くの人だかりがあった。GRとは、トヨタが世界ラリー選手権などに参戦するモータースポーツ活動「GAZOO(ガズー)レーシング」の頭文字から名付けられたスポーツカーブランドだ。

トヨタ・センチュリー Photo by T.S.

 電気自動車(EV)シフトが加速するこの時代、他の自動車メーカーならEVタイプのスポーツカーを展示しそうなものだが、GR HV SPORTS conceptは「スポーツカーと環境技術を融合した新たなクルマの楽しさを提案する」狙いの下に開発されたハイブリッド車(HV)だ。

 その隣に展示されているのは、これまた漆黒のボディの新型「センチュリー」だ。センチュリーといえば、皇室や政治家、財界トップ御用達として知られるトヨタの最高級車。2018年半ばの発売を前に、20年ぶりにフルモデルチェンジされた3代目となる。このセンチュリーもまたHVだ。

燃料電池バス Photo by T.S.

 トヨタが「究極のエコカー」と位置付け、莫大な開発資金を注ぐ燃料電池車(FCV)のバスも展示されている。この燃料電池バスは、燃料となる水素を車載の高圧タンクから燃料電池に供給し、そこで空気中の酸素と化学反応させて作った電気でモーターを駆動させ走行する。世界初の量産FCV「MIRAI」向けに開発したものと同じシステムで、外部への電力供給能力を備えているため、災害などの停電時に避難所や家電の電源としての利用も可能だ。

 すでに今年、トヨタは東京都交通局へ2台の燃料電池バスを納車しており、今年3月から東京駅丸の内南口~東京ビッグサイト間を運行。さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、100台以上導入予定といい、トヨタの開発担当者は「東京都だけでなく、多くの自治体から引き合いがある」と話す。

TOYOTA Concept-愛i Photo by T.S.

 一方、トヨタは今回、EVコンセプトカーも出展している。それが「TOYOTA Concept-愛i」だ。今年1月に米国ラスベガスで初公開した4輪モデルに加え、今回のモーターショーで小型モビリティ「Concept-愛i RIDE」と、セグウェイ風の3輪電動スクーター「Concept-愛i WALK」を新たに追加した。

 実は、このシリーズの開発を進めているのは、EV開発部隊として昨年12月にトヨタが発足させたEV事業企画室だ。だが、開発の主眼を置いているのはEV技術そのものというよりも、人工知能(AI)技術にある。

 車がドライバーの表情や動作、疲労度や覚醒状態などを分析し、感情や好みを理解する。状況次第で自動運転モードに切り替わったり、話し掛けたりする。コンセプトは「人を理解し、共に成長するパートナー」を目指すことにある。

Honda Urban EV Concept Photo by T.S.

 こうしたトヨタの出展車両から見える戦略は、決してEVに傾斜することはなく、HVやFCVなどにウイングを広げ、市場がどう振れても対応できる全方位体制を築き上げることだ。EVの領域はあくまで近距離コミューターなどで、HVとプラグインハイブリッド車(PHV)が乗用車、FCVは路線バスや宅配トラックに棲み分ける。その方針にブレがないことを、東京モーターショーで改めて示した形だ。

 こうした全方位戦略を貫く自動車メーカーは何もトヨタだけではない。

 ホンダも今回、EVコンセプトカー「Honda Urban EV Concept」を日本初披露し、このモデルをベースとしたEVの市販化を2019年に欧州で、2020年には日本で開始する方針を明らかにした。ホンダは2030年までに販売総数の3分の2を電動化することをすでに発表しており、EVの発売はその戦略の一貫だ。

『週刊ダイヤモンド』10月21日号は「パナソニック・トヨタが挑むEV覇権」を特集

 だが、ホンダもHVを90年代から市販化し、累計販売台数は200万台を超える。八郷隆弘社長が「電動化の中心はあくまでHVとPHV」と明言している通り、EVが収益の主力になるとは考えていない。事実、モーターショーでは「CR-V」や「ステップワゴン」などHVのラインナップ拡充のPRも怠っていない。

 トヨタとホンダに共通するのは、他社の追随を許さないHVの高い技術を持つがゆえに、その先行者利益を長く享受したい思惑だ。ゆえにEVへの本気度は相対的に低くなる。

 今、自動車産業は100年に一度の大変革の時代を迎える。欧州や中国は一気にEVへシフトし、HV技術で先行するトヨタやホンダの追撃にかかる。全方位戦略はその攻勢に耐えられるのか。勝負の趨勢はそう遠くない未来に見えてくる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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