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自民大勝でも2018年の政治が視界不良の理由

2017年11月01日 06時00分更新

文● 森田京平(ダイヤモンド・オンライン

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出所:各種報道よりクレディ・アグリコル証券作成 拡大画像表示

 10月22日に投開票された第48回衆議院選挙では、自民党の大勝と立憲民主党の躍進が確認された。連立与党(自民党+公明党)も313議席を得て、衆院定数465の3分の2(310議席)を超えた(図表1参照)。一見、2018年の憲法改正の国会発議は十分可能であり、政治の視界は良好と言いたくなる。しかし、ことはそう単純ではない。

 (1)憲法改正の国会発議、(2)景気と政局の関係、(3)膨れ上がった無党派層の存在の3点から、2018年の政治を展望すると、自民党が大勝した今回の総選挙を経ても、2018年の政治の視界は悪い。

2018年を占う重要イベント
政治の視界は悪い

 2018年には政権運営や経済政策で重要なイベントが少なくとも4つある。

出所:クレディ・アグリコル証券作成 拡大画像表示

 第1に黒田東彦日銀総裁の任期満了(4月8日)、第2に憲法改正の国会発議(夏ごろ?)、第3に安倍自民党総裁の任期満了とそれを受けた自民党総裁選(9月)、第4に2019年10月の消費税率引き上げについての最終的な判断(10月頃までに)だ(図表2参照)。

 これらのうち2018年の政治のあり方を展望する上で、最も重要なのが憲法改正の国会発議だろう。

憲法改正の国会発議が
新たな政治の火種となる可能性

 上述したように、連立与党は今回の衆院選で定数の3分の2を超える議席を獲得した。一見、2018年の憲法改正の国会発議が十分可能となり、いよいよ日本の憲政史上、初となる国民投票が視野に入る。

 しかし、道のりはおよそ平坦とは言い難い。

 いわゆる「改憲派」とされる自民党、希望の党、日本維新の会、および「加憲」を謳う公明党も、具体的な改正項目については一致点よりも差異の方が目立つからだ。

 ●自民党…(1)自衛隊の明記、(2)教育の無償化・充実強化、(3)緊急事態対応、(4)参議院の合区解消

 ●希望の党…(1)地方自治の分権、(2)衆議院と参議院の対等統合による一院制の導入、(3)国民の知る権利の明確化、(4)幼児教育から高校までの教育無償化、(5)原発ゼロの憲法での明記、なお自民党が主張する自衛隊の憲法での明記については「国民の理解が得られるかどうか見極めた上で判断する」と玉虫色

 ●日本維新の会…(1)教育の無償化、(2)道州制の実現を含む統治機構改革、(3)憲法裁判所の設置、(4)9条改正

 ●公明党…加憲議論(改憲ではない)の対象項目として、(1)環境の保護を憲法上の権利ないし義務と位置付けるべきか、(2)自治体の課税自主権の拡大などを認めるべきか、(3)緊急事態に国会議員の任期の特例などを設けるべきか、の3点を主張(なお憲法9条については、自衛隊はすでに憲法違反の存在とは考えられていないとして、9条を改正することの必要性を強調せず)

 これまで「改憲派」という一つの括りで議論することができたのは、皮肉にも改憲論が具体性を帯びていなかったからだ。

 ところが2018年になれば、憲法改正の国会発議に向けて、改憲論は一気に具体性を増す。それに伴って、改憲派の中での姿勢の違いが鮮明となるはずだ。

財政のプライマリーバランス
黒字化は視野に入らず

 財政の観点から、今回の衆院選結果の意味合いを見ておこう。

 第1に、現行法制で2019年10月とされる消費税率の引き上げ(現行8%→10%)は、ほぼ確定したと言える。

 今回の選挙で、自民党は、消費税率を引き上げた上でその財源の一部を、教育の無償化(幼児教育のすべて、高等教育の一部)に充てることを公約に掲げて、大勝した。

 第2に、教育の無償化など「人づくり革命」を具体化するため、安倍内閣は、2017年末までに2兆円(年間GDP比0.4%)規模の政策パッケージを取りまとめる。

 ただし、同パッケージは(1)恐らく複数年にわたる政策となる、(2)公共投資のような需要の注入ではなく、事実上の所得移転ないし教育の現物支給となるため、景気(GDP)押し上げ効果は見通し難い。

 第3に、政府が掲げる財政健全化目標、2020年度までに国・地方のプライマリーバランス(基礎的収支)が黒字する可能性は、経済成長率の高低にかかわらず低い(図表3参照)。

出所:内閣府『国民経済計算』、内閣府『経済・財政の中長期試算(2017年7月)』よりクレディ・アグリコル証券作成 拡大画像表示

 ただし、そのような場合でも、日銀によるイールドカーブコントロール(長期金利操作、YCC)により名目長期金利が名目GDP成長率よりも低く抑えられているため、政府の債務残高/GDP比率が発散する事態は避けられよう(図表4参照)。

出所:内閣府『国民経済計算』、内閣府『経済・財政の中長期試算(2017年7月)』よりクレディ・アグリコル証券作成 拡大画像表示

景気が後退すると政局になりやすい
消費増税、教育無償化が頓挫すれば…

 上記の財政問題を考えると、今回の選挙は、仮に2018年に景気が後退すると、それが政局につながりやすいという環境を作り上げることにもなった。

 なぜならば、実際に消費税率が引き上げられるのは2019年10月であるが、それに向けてまだ2年もあるこのタイミングで、早くも消費増税にコミットしたからだ。

 その結果、2018年中に景気が後退すると、消費増税自体が難しくなり、その結果、自民党が公約で主張した教育無償化の財源が得られなくなり、再び衆院を解散する大義ができてしまう。

 ただし、筆者は2018年中に日本が景気後退に陥る可能性は低いと見ている。それは皮肉にも、アベノミクス下の経済成長率があまりにも低く、内生的な景気後退の引き金(エネルギー)となる過剰設備、過剰雇用、過剰在庫が未だに蓄積されていないからである。

 実際、アベノミクスが始まった2012年10~12月期を起点とする今回の回復期における経済成長率は年率1.3%であるが、これは回復期としては過去最低の成長率である(図表5参照)。

出所:内閣府『景気基準日付』、同『国民経済計算』よりクレディ・アグリコル証券作成 拡大画像表示

 しかもこの「1.3%」という成長率は、過去の景気後退期の平均成長率に相当する(図表6参照)。

出所:内閣府『景気基準日付』、同『国民経済計算』よりクレディ・アグリコル証券作成 拡大画像表示

 このように成長率が低いからこそ、景気後退のための3つのエネルギー(過剰設備、過剰雇用、過剰在庫)が未だに蓄積されておらず、景気は2018年も、“後退したくても後退できない”という状況だろう。

無党派層の多さが安倍政権の特徴
実は不安定な支持基盤

 2018年の政治を不安定化させかねない要素として、無党派層の多さも挙げられる。

 日経世論調査を見ると、そのことが歴然だ。同調査は電話による世論調査としては日本初のもので、1987年9月に第1回の調査がなされて以降、すでに30年間のデータが蓄積されている。

 その30年にわたる支持率の歴史を振り返ると、安倍政権のみに当てはまる一つの特徴が浮かび上がる。 それが無党派層の多さだ(図表7参照)。

出所:日経新聞『日経世論調査』よりクレディ・アグリコル証券作成 拡大画像表示

 ここでは、世論調査において「支持政党なし」あるいは「分からない」と回答した者を無党派と定義している。

 第2次安倍政権が発足したのが2012年12月だが、2014年5月には日経世論調査が始まって初めて無党派層が40%に達した。無党派層が40%に達した政権は過去30年間で安倍政権(第2次、第3次)のみである。

 安倍政権下の支持率の特徴は、内閣支持率の高さでもなければ、自民党支持率の高さでもない。無党派層の多さこそが特徴である。

 したがって、どんなに内閣支持率や自民党支持率に言及したとしても、安倍政権の特徴に触れたことにならない。

 この無党派層の存在ゆえに、自民党が大勝した今回の総選挙を経ても、「政治は一寸先は闇」という時間帯が2018年も続く。

(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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