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性犯罪を女性が告発するSNSキャンペーン「#me too」世界に拡大中

2017年10月20日 06時00分更新

文● 福原麻希(ダイヤモンド・オンライン

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ハリウッドの大物映画プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタイン氏 Photo:Shutterstock/AFLO

アメリカ市民に“衝撃”をもたらした事件が、ちょうど先週末に起こった。10月14日、ハリウッドの大物映画プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタイン氏の性的スキャンダルが暴露され、映画芸術科学アカデミー(*)から追放されたニュースは、日本でもすでに多くの媒体で報道された。今週、SNSを通じてその余波が大きなうねりとなって、世界を駆け巡っている。(医療ジャーナリスト 福原麻希、取材協力・英語翻訳/西田匡吾)

ハリウッドの有名女優たちの
告白がSNSで全米に拡大

 ワインスタイン氏の長年のセクシャルハラスメントやレイプに関する証言を次々と伝えたのはニューヨークタイムズ紙と、ニューヨーカー誌。ほぼ同時期だった。

 ニューヨーカー誌では、1990年代から2015年までに、ワインスタイン氏から性的嫌がらせやレイプを受けたとする13人の女性からの証言が報道されている。記事では詳細が赤裸々に語られ、女優たちが「(仕事を盾にした権威によって)キャリアを失うのがとても怖かった」と告白している。

 だが、スキャンダル爆弾は、これだけで終わらなかった。

 15日日曜、アメリカでは、さらにSNS上に大きなムーブメントが起こった。日本でも2001年からNHKのBS2放送されたテレビドラマシリーズ「チャームド」に出演していた女優のアリッサ・ミラノがツイッターで、こんな投稿をしたからだ。

 “If you've been sexually harassed or assaulted write 'me too' as a reply to this tweet,”(「もし、あなたが性的な嫌がらせを受けたり、暴行を受けたりしたことがあるなら、このツイートに『私も』と書いて返信して」)

 数時間後、「悲しくつらい経験をしたことがある女性が、こんなに多くいたのか」と驚くほど、SNS上は「#me too(#Me Too)」(私も)の文字であふれかえった。ツイッターも、フェイスブックも。インスタグラムには写真も並んだ。

 例えば、アメリカ人女性らは、こうツイートしている。

「2012年の選挙速報を祝った後、家までつけられて。医者の最初の質問は、“酔ってたの?”」

「2度目にレイプされたのは大学院最終年。報告なんてしなかったし、ケガは隠したし、次の日の朝は普通に学校へ行った」

 日本でよく知られる女優たちも、すぐ#me tooと声を上げた。映画「ピアノ・レッスン」に出演したアンナ・パキン、クェンティン・タランティーノ脚本の映画「トゥルー・ロマンス」に出演したパトリシア・アークェット、エヴァン・レイチェル・ウッド……。先日、線維筋痛症の痛みと闘う姿が話題になったレディガガも声を上げた。

 映画「サーティーン あの頃欲しかった愛のこと(原題:Thirteen)」でセックスやドラッグに溺れる13歳役で衝撃を与えた女優エヴァン・レイチェル・ウッドはツイッターでこうつぶやいた。

「恥ずかしい気持ちと、パーティー人間って思われてたから、仕方ないと。あの場所にいなければよかった。(でも)自分が悪いって思うべきではなかった #metoo 」

CNNは「翌日の16日月曜には、ツイッターに#me too(#Me tooも含めて)が50万回以上ツイートされたことを確認した」と報道している。

複数のメディアによると、アリッサはワインスタインの悪癖の報道以降、批判的な発言を繰り返していたという。このソーシャルメディア(SNS)を利用するというアイデアは、友人から「性被害(嫌がらせや暴行等)に遭った人が、ただ“me too”と書くだけで自分も言いやすくなる。社会にこの問題の重大さを伝えることができるかもしれない」と提案されたことがきっかけになったそうだ。

*映画芸術科学アカデミー:アメリカを中心とする映画業界の関係者で結成されている団体で、アカデミー賞の選考や授与を主催している。

アメリカのつぶやきが世界に飛び火
フランスでは政府が法整備に向けて動き出した

 SNSへの#me tooの書き込みには、性的な嫌がらせ、痴漢、および強制わいせつや強姦・未遂も含めた自分自身の経験(エピソード)から、このキャンペーンを支持している人まで見られる。#me tooは瞬く間に女性の心をつかみ、世界中の大きなムーブメントへと広がりつつある。

 フランスを代表する日刊紙ル・モンドでは16日、マルレーヌ・シアパ男女平等(公式発表では「女男平等」と記載されている)担当副大臣が「性差別や性暴力に対する法整備」に向けて動きだしたと発表した。特に、未成年に対する性行為の合意と、公共の場でのハラスメントが対象となっている。

 さらに、フランス人女性たちはSNS上でアリッサの呼びかけに対して#Balancetonporc(「あの豚野郎を炙り出せ」という意味)と返信し、セクハラや性的暴行を受けた経験を語った。

 イギリスでの#me tooは、「数年前に発覚したジミー・サビル事件の影響やカトリック教会による児童虐待に対してのデモ抗議などの背景もある」と現地在住の日本人女性は言う。ジミー・サビル事件とは、2011年に亡くなったBBC(英国放送協会)の人気司会者が、死後、5~75歳まで100人以上の男女に性的暴行を加えていたことが発覚したニュースのこと。

 イギリスでは、2010年にもカトリック教会における性的虐待の一連の事件に抗議するデモがあり、「事件当時、被害者が話すことができない権威による関係に置かれていたため、より深刻さと周りの理解が共感を呼び、今回の#me tooにつながったのではないか」と前述の女性は説明する。

 アメリカをはじめ、グローバルで展開する日本企業にも影響が出ている。トヨタ自動車は17日、ワインスタイン氏による今回のセクハラ問題を受けて、ワインスタイン氏が弟と設立した映画会社ワインスタイン・カンパニーと高級車「レクサス」との契約関係を見直すと発表している。

 この一連の現象は、日常で身近に起こるセクハラ、あるいは、誰にも言えなかったレイプ(強制わいせつや強姦)を、実は、テレビや映画に出てくる憧れの人たちも体験していたと知ることで、急にソーシャルでリアルな問題となりつつある。

 最初に声を上げた人の気持ちと呼応した女性の心の動きについて、心理士の栗原幸江さんはこう説明する。

「これまで自分の心の中に封印されてきたものを最初にSNSへ書いた人には、それなりの覚悟があったことでしょう。不特定多数への発信には個人攻撃される可能性もあるというリスクがともなうからです。でも、腹をくくった上で『発信せねば』『社会に知らしめなければ』という動機に突き動かされて、その体験をカミングアウトしたとき、その語りには『力』が込められます」

 その力(パワー)と勇気に心動かされる人たちが#me tooと発信したり、応援メッセージを送ったりすることで、時には今回のように「社会が動く・変わる」「人々の意識が変わる」という動きにつながる。「保育園落ちた、日本死ね!!!」などと同じような現象だろう。

 このうねりは、過去に数々のセクハラ疑惑が尽きない日本や韓国などでの芸能界をはじめ、一般の日本人女性の間でも急速に広がる可能性がある。

日本では#me tooが
どう受け止められるか

 実際、日本でも17日火曜には「#me too」と書き込む人だけでなく、過去のつらい記憶を語る一般女性の投稿も見られるようになった。

 18日水曜、東京都内で複数の女性に#me tooについてインタビューしたところ、「私にも経験がある」と次々と語り始めた。20代女性は2年前に強制わいせつ未遂に遭ったことを話し、自分も被害に遭ったとき、すぐ周囲の友人に向けて「こういうことがあったから注意して」とSNSへ書き込んだという。

 30代女性は小学生の頃、性被害に遭ったとき「誰にも言うな」と口止めされたことで、できごとが心のシコリとして残っていた。だが、「こんなふうに話すことで、主観的な出来事に距離を置くことができ、客観的なストーリーとなっていく感じがしました。今回の#me tooはいいきっかけになった」と言う。

 ネガティブなストーリーに価値が付いたことでポジティブに変わり、自分自身で肯定できるようになったといえる。

「これまで“封印されてきた何か”が語れるようになるということは、語りを分かち合う相手やその場に、ある程度の信頼を寄せられるということです。その支えのもと、自分なりの言葉で体験を語るとき、それまでモヤモヤとしていたものが形となり、自分自身の気付きへとつながります」と前述の栗原さんは説明する。

 だが、SNSに限らず、メッセージの読み手はそれぞれ自分が読みたいように解釈する。つまり、伝えたいことが伝わらず失望することになったり、顔が見えないことで読み手が書き手の気持ちをまったく無視して揶揄され傷ついたりすることもある。

 すでに、アメリカでも大衆紙のイラストやフェイスブックのグループページで、そんな悲しい絵や文字も並んでいる。

 SNSに書き込むときの注意として、前述の心理士の栗原さんはこう助言する。

「自分の体験を書くか書かないかは個人の選択ですが、読み手には様々な考え方の人がいることを認識したうえで、『自分は何を伝えたいのか』『何のために書き込むのか』を意識してほしい」

 カミングアウトすることで、二次的な傷をつくってしまうことだけは避けたい。

 今回はアメリカの社会の暗部を改めて浮き彫りにしたで出来事だったが、その内容は日本でも、どんな職場でも同じ。だからこそ、世界で共感が集まった。

 このムーブメントを17日、いち早くフェイスブックで伝えた、ミモザの森法律事務所代表で、NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の弁護士の伊藤和子さんはこう言う。

「相手を拒絶できなかったことや沈黙を守ってきたことを責める人がいますが、そうではなく責められるべきは権力や腕力を行使して性的ハラスメントをする側なのだということを、今、女性たちは語り合い、共感し合っています。それが#me tooの連鎖です」

 日本では女性に限らず、被害に遭っても自分が悪かったと語りたがらず、そのできごとを忘れようとして生きている。また、被害者が告発しても孤立しがちなところもある。

「でも、私たちも誰かがカミングアウトしたら『私たちも同じ経験をしてきた』と呼応し、不当な現実を変える社会に変わってほしいですよね」とも伊藤さんは言う。

 セクハラや性的暴行だけでなく、どんなことにも、その気持ちと行動はあてはまる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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