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1400度の液体金属を運ぶポンプ、再生可能エネの課題解決へ前進

2017年10月20日 23時10分更新

文● James Temple

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最高1400度でも稼動可能なポンプにより、蓄熱に液体金属が利用できる可能性が広がった。再生可能エネルギーによる安定的な電力供給ができる日も近いかもしれない。

既存の熱伝達システムよりも数百度高い、1400度もの高温に耐えられるセラミック製のポンプを科学者グループが開発した。新たなエネルギー貯蔵の可能性を大いに広げるものだ。

最新の研究は10月11日発売のネイチャー誌に掲載された。研究者によると、セラミック製ポンプは、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを天然ガスプラントと同程度の費用で同等の信頼性を持つものに変える、高効率な送電網向け蓄電システムの開発に応用できそうだ(「連続起業家のMIT教授、フロー電池で化石燃料に挑む」参照)。

研究で取り上げられている蓄熱システムは、溶融シリコンのような液体金属を使用する。従来使用されてきた溶融塩などの物質と比較して非常に高い温度での熱エネルギーの貯蔵と移動が可能になり、より多くの熱エネルギーを機械的または電気的エネルギーに変換できるので、全体としての効率が改善する。

「今回のセラミック製ポンプはエネルギー貯蔵の大きな変革の一歩です」とジョージア工科大学のアセガン・ヘンリー助教授は話す。

蓄熱媒体としての液体金属への関心は高まっているが、高温でも劣化しないポンプや配管の開発が課題になっている。セラミックは非常に高い温度でも耐えられるが、材質は脆く、機械部品として加工する難易度も高い。

ジョージア工科大学の研究グループが、スタンフォード大学とインディア州立パデュー大学と連携して、新たな合成材にダイヤモンド工具と精密加工技術を組み合わせることで、問題の回避に成功した。また、シール(液体の漏れを防ぐ部品)に採用したグラファイトも非常に高い温度に耐えられる材料である。

Molten tin flows at 1,400 ˚C in a Georgia Tech laboratory.
ジョージア工科大学の研究施設で1400℃の溶融スズが流れる様子

機械式ポンプのプロトタイプでは、溶融スズを使って、平均約1200度、最高1400度で72時間の連続使用実験に成功している。実験後のポンプには劣化が見られたが、研究チームは次の段階として炭化ケイ素製のポンプを開発している。炭化ケイ素はさらに固い材質であり、耐久性は非常に高い。

この研究は、米国エネルギー省のムーンショット(斬新で困難だが、実現すれば大きな影響がある勇壮な課題、挑戦を意味する)エネルギー研究部門の1つ、エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)から、360万ドルの資金提供を受けている。

提案されている送電網向け蓄電システムでは、太陽光、風力、原子力からの電力を使用して、液体シリコンを非常に高い温度まで加熱して熱エネルギーを生成する。日没後など、電気の需要が高く発電量が低い時間帯には、赤外線の熱を電気に変換する熱光起電力を利用して送電網にエネルギーを戻す(「ブレークスルー・テクノロジー10:熱太陽電池」参照)。

いわゆる送電網向け熱エネルギー貯蔵(TEGS)システムは、石炭や天然ガスとまったく同じような役割を担えるだろう。このテクノロジーが目指しているのは、再生可能エネルギーを安価なベースロード電源にすることであり、晴天の日中や風が吹いている時に十分なエネルギーを蓄え、日没後や風が止んでも電力を供給し続けることである。

現時点では、高額な蓄電システムや地理的制約がある揚水式発電のようなクリーン・エネルギー資源の活用には制約がある。

高温に耐えられるポンプがあれば、液体金属は他の用途にも活用できる可能性がある。集光型太陽光発電システムで使用されている溶融塩を液体金属に置き換えられる可能性もあり、また、一次冷却材として液体金属を使用する原子炉、液体金属冷却炉のような新たな技術が実現する可能性もある(「太陽光から「太陽熱」発電へシフトするトランプ政権の深謀」参照)。


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