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香港で日本の梅が大ブレイクのきざし 理由は?

2017年10月19日 12時00分更新

文● 菅健太郎(チョーヤ)/ 編集●ナベコ

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 梅干しや梅酒など、日本では一般的な食材である「梅」ですが世界的に見ると非常に珍しいもの。近年、海外で日本の梅を広めようという動きあります。その背景をチョーヤ梅酒の菅健太郎氏が紹介します。

世界の「梅」事情とは?

■「梅はスモモやアンズに似ていますが異なる果物です」

 日本人には馴染みの深い梅ですが実は栽培されている地域は少なく、日本以外には中国、韓国、台湾など季節によって十分な寒暖の差がある地域でしか育ちません。梅は世界的に見ると希少性の高い果物なのです。日本では古くから梅干し、梅酒や梅シロップなどの梅の加工食品が生み出され、加工に適した品種改良を重ねることにより、現在では観賞用の花梅も含めて約300の品種が確認されています。

 私達が海外のお客様へ梅を説明する時には「Ume is similar to plum or apricot, however it is a different fruit.(梅はスモモやアンズに似ていますが異なる果物です)」と説明し、「Ume is too sour to eat itself.(そのままでは酸っぱすぎて食べられませんよ)」と付け加えなければなりません。これから梅を世界の人々に広めるためには日本の食文化の歴史の中で生み出された加工方法も併せて広めていく工夫が必要だと言えます。

■専用の鮮度保持袋の開発で輸出が可能に

 梅酒の輸出はCHOYAが1968年からスタートし現在までに70か国以上に輸出されていますが、和歌山県の梅の輸出は3年前にスタートしたばかりです。梅の輸出が進まなかった理由のひとつとして輸送技術上の壁がありました。

 梅は非常に追熟の速い果物であるため、収穫してからの輸送時間や温度の管理をデリケートに行わなければすぐに傷んでしまいます。そのため、輸送時間を要する海外へはこれまで新鮮な状態で運ぶことが難しかったのです。

 そんな中、地元JA、生産者、和歌山県と田辺市が一体となり、輸送試験を重ね、ようやく梅の輸出にこぎつけました。梅の追熟には果実の呼吸と老化・成熟ホルモンであるエチレンガスの生成が大きく影響します。梅の呼吸量がコントロールできる鮮度保持袋を用いることにより、袋内を低酸素、高二酸化炭素の状態にします。

専用の鮮度保持袋と一般密封包装でのガスの濃度変化。専用の鮮度保持袋の場合(左)、梅の呼吸量をコントロールする。

香港への輸出実績。2014年から輸出量は毎年伸びており、2017年は22t出荷した。

 梅の呼吸量を抑制した状態で箱詰めし、冷蔵輸送によりエチレンガスの発生を抑制します。この輸送技術により日本での集荷から香港での販売までの約15日間、鮮度を保持することができるのです。

 現在、日本の梅は香港、マレーシア、タイ、シンガポールの4か国へ輸出されました。中でも香港では最も人気があり、今年は梅の不作により予定通りの出荷量に届かなかったものの22tが輸出され、平成24年から毎年輸出量は伸びております。

■香港では大ブレイクのきざし

   香港ではもともと中国の梅をドライフルーツのように加工した伝統的な菓子があります。日本のように家庭で梅を買って梅酒や梅干しを手作りする習慣はありません。そのため、日本の梅を販売する場合、売り場では梅酒の作り方などを説明したポスターを掲示するなど梅の加工方法を伝える工夫がされています。

香港で伝統的である梅を使ったお菓子。

 しかし、それだけではなかなか購買まで結びつきません。というのも海外への輸送コストがかかるため販売価格は日本の約1.5倍になってしまうのです。そんな中、JA、生産者、和歌山県と田辺市のグループが香港で取り組んだのは、梅とともに氷砂糖、焼酎などのお酒、保存瓶など梅の加工に必要な材料を並べ、インパクトのある売り場を作ることと梅酒や梅シロップの試飲、実演販売でした。

香港のスーパーで梅を実演販売。

 JA、生産者、和歌山県と田辺市のグループにはもともと接客販売のプロはおらず、ましてや海外という慣れない地での取り組みでしたが、熱意が言葉の壁を越え、売り場には地元客が殺到し、梅が飛ぶように売れました。今年初めて購入した香港の30代夫婦は「夫婦で梅酒をよく飲むが自分で作れるとは知らなかった。家族で作るのが楽しみ。友達夫婦と飲み比べしたい」と友人夫婦とそれぞれ1kgの梅を手にし、興奮気味に話していました。

売り場づくりから徹底する。

梅酒づくりのノウハウを記載。

■梅酒、梅シロップなどノウハウの普及を

 香港は近年の日本のように単身世帯は多くないので家庭での手作りを家族と共に楽しむ、かつての日本のような梅文化が広まる可能性を感じました。とはいえ味を知らないものを手作りする意欲はなかなか湧かないものです。今回の取材を通じて私達日本の食品メーカーが良質な梅酒や梅シロップなどの加工食品を海外に広めていくことも日本の農産物である梅を広めるためには非常に重要だということに気づきました。


 今回で、梅の連載は最終回となりますが少しでも読者の皆様が日本の梅について興味を持っていただければ嬉しく思います。これからもより多くの人が素敵なストーリーを持つ日本の梅に親しんでいただけるような商品・サービス作りに励んでまいります。どうぞご期待下さい。

■関連サイト


筆者紹介─菅 健太郎(すが けんたろう)

著者近影 ─菅健太郎

チョーヤ梅酒株式会社。神戸大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。チョーヤ梅酒入社後、国内で梅酒の販売に奔走するもBtoBビジネスにおいて、消費者に伝えることの難しさを知る。製造部にて梅への情熱に溢れる多くの生産者や技術者から刺激を受け、日本の梅を世界に広める新ブランド『蝶矢』事業を考案。現在、生産技術部門長を務めながら新事業立ち上げに向けて活動中。経済産業省“始動Next Innovator2016”選抜メンバー。

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