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大阪ルルドの小さな大ヒット:

バカ売れ家電 女性の力で開発

2017年10月23日 07時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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■数字ではなく感性が頼り

── 製品開発にあたって市場調査などはしていますか?

 マーケティングはできてないですね。

── 感性に自信をもって開発をされていると。

 単純に、マーケティングをするには時間が足りないんです。5月の母の日、12月のクリスマスと年末需要に向けた製品発売サイクルで動いているのですが、シーズンには20アイテムくらい出しているので、ほとんどの製品は3~6ヵ月ぐらいで仕様、デザインを決めていくスケジュールが多いんです。ただ、年2回バイヤー様向けに展示会を開いておりまして、そちらではリサーチを兼ね、いろんな意見をいただき、製品開発に活かしておりますね。

── 通常、製品の企画書には市場での差別化を示す部分がありますよね。市場調査結果を書かないとなると、そのあたりはどうなるんでしょう。

 「インテリア雑貨として置いていただけるようなマッサージ器」であることを大事にしております。でも、しっちゃかめっちゃかです。

── しっちゃかめっちゃか……やっぱり企画の決め手は「かわいさ」なんですか。

 最後にはやっぱり「かわいい」で決まりますよね。たとえば今年のコレクションは、頭の中で「もふもふしたい」というアイデアがあったんです。アパレルのトレンドを意識すれば「冬にファーが来る」というのはわかっていたので、身につけるもの、お部屋にあるものというつながりで。そこでアニマルのしっぽをアクセントにするというのが決まり、しっぽをつけたらパッケージのキーグラフィックにもアニマルが登場するよね、という形で決まっていきました。

ルルド「ふわポカハグ AX-KNL2013」(4500円 発売中)

── 家電というよりファッション雑貨の競合製品として開発しているようなイメージなんでしょうか。家電業界の中ではかなり珍しいアプローチだと感じます。

 そうですね。この前に出していた花柄もそうですよ。GUCCIとかZARAでも花柄が流行っているので、これならいろんな人に受け入れられるだろうと。買ってくれる人たちのことを考えると、家電でも雑貨でも、好きなものの中では一緒ですよね。自分の部屋に置きたい! 友達にプレゼントしたい! と思っていただきたいので。

── 新製品の取材をしていてカラーやデザインの話になることもあるのですが、やはりマーケティング的な視線が目立ちます。テイストを合わせるにしてもシステムキッチンだったり、ファッショントレンドとは違うものが多いですね。

 以前、大手メーカーさんとテレビ番組の収録でお会いしたことがあったんです。そのとき番組のディレクターさんが言っていたのは、大手メーカーさんの経営陣は男性が多いので、「かわいいよね」という一言で企画が通らない。それを「ハイ」と言わせるために、いろんなデータをひっさげて乗り越えているという話でした。たしかにうちもクッションマッサージャーのときはその課題がありましたが、今ではある程度まかせていただいてる。現場でいろんな細かいジャッジがすぐに決まっていきます。

── 数字にあらわせない「旬のかわいさ」がルルドの強みといえそうです。

 ただ、一方で本格的な機能を持ち合わせながら、雑貨色が強く見えてしまう部分もあるんですよね。おもちゃっぽく見えてしまうというか。「家電寄りにしたら」といわれることもありますが、かわいいものに機能性があるというのを表現するのがむずかしいんですよ。たとえばコスメで「かわいい」と必然的に安く見える。一方、高級化粧品は研ぎ澄まされてシンプルに、クールになっていきますよね。

── たしかに。「かわいい」は「軽い」イメージと近しいところもあります。

 かわいい製品の技術をいかに伝えるか、そのさじ加減はいま勉強中で模索しているところです。たとえば、製品の打ち出し方や、キーグラフィック、パッケージなんですが。

── 秋冬の新製品は、猫やウサギの顔が大写しになっていますね。

 売り場にあふれる製品の中で目をとめてもらうため“目が合うパッケージ”にしているんですが、そこがお客さんに製品のことを知ってもらえる間違いない場所なので、機能説明を全部入れているんですね。それがないと、開発者の思いが伝わらないし、プレゼントにもらった人も、もらったものが何なのかわからない。だから弊社のパッケージは情報量がなかなかすごいんです。逆にここをおしゃれにシンプルしてしまうと、機能が伝わりにくくなる可能性が高くなってしまう。

アニマルをモチーフにしたパッケージ

── ところで「めめホット」の大ヒット、相当儲かったのではないでしょうか。

 それなりに利益は出しておりますが、儲かってるかどうか……。

── えええ。

 昔から会社の体質的に、コストを惜しまず素材選びをして、製品の原価率が高めが常なんです。だから仕入れのレートが変わると一気に赤字になってしまい、廃盤になった製品なんかもありました。中には、企画がすごいスピードで決まるので、後から「おっと!」という場合もあったり……。

── インパクトのあるパッケージも、販促にお金がかけられないという懐事情からのアイデアだったわけですね……。

 そのぶん、うちは良い製品販売しているな、というのは胸張って言えますけどね。

── 大手は広告や営業にお金を使い、売り場を面でおさえ、数を売って売上をかせごうとします。そのため消費者の母数を知ろうという発想になり、マーケティングが基本になっている側面があるのではと思います。御社の場合は、かなりやり方が違いますね。

 うちみたいな中小の強みは、企画開発からプロダクトデザイン、サイズ、仕様、かたち、色、素材、パッケージ、店頭の什器、ツール、取説、そしてECまで一貫して携われることだと思うんですよね。わたし、他社の取扱説明書が好きなんですけど。

── いきなりですね。説明書ですか。

 取扱説明書って、開発者が「こうやって使ってほしい」という方法が素直に載っていると思うんです。製品カタログはやっぱり売り手の目線になりますけど、作った人が「これを伝えたい」ってことが説明書には入っている。大手さんになると、いろんな部署があって、携わる人の数も多くなるでしょうし。きめ細かい専門性は出てくると思いますけど、最初に開発したときのコンセプトがお客さんに伝えられる可能性は低くなるのかな、と思ったり。

── ルルドくらいがちょうど、メーカーの醍醐味を味わえる規模なのかもしれないと。

 そうかもしれませんね。楽しく働かせていただいてますよ。


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書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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