このページの本文へ

「avenue jam」特別対談 第8回

対談・Planetway平尾憲映CEO×エストニア政府元CIOターヴィ・コトカ 第3回

エストニアが成功したのは小国だから?

2017年10月31日 09時00分更新

文● 盛田諒 ●編集 村野晃一

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 エストニア政府の元CIO(最高情報責任者)であるターヴィ・コトカ氏とプラネットウェイ代表の平尾憲映とのSkype会議。最終回となる今回は、小国エストニアと比較して、日本の持つハンディキャップは本当なのか?また、エストニアの新たな挑戦、そしてそのチャレンジを可能にするエストニアの土壌についても言及していく。

Speaker:
プラネットウェイ 代表取締役CEO
平尾憲映

1983年生まれ。エンタメ、半導体、IoT分野で3度の起業と1度の会社清算を経験する。学生時代、米国にて宇宙工学、有機化学、マーケティングと多岐にわたる領域を学び、学生ベンチャーとしてハリウッド映画および家庭用ゲーム機向けコンテンツ制作会社の創業に従事。在学時に共同執筆したマーケィングペーパーを国際学会で発表。会社員時代には情報通信、ハードウェアなどの業界で数々の事業開発やデータ解析事業などに従事。

プラネットウェイ アドバイザリーボードメンバー
ターヴィ・コトカ

電子政府・デジタルヘルスケア・通信ソリューション分野のリーディングカンパニー、Nortal社の共同創業者 /最高経営責任者(CEO)として事業を統括・指揮し、同社のバルト地方でNo.1ソフトウェア開発会社への成長に貢献した経歴を持つ。上記の実績により2011年エストニアのErnst & Youngから、起業家オブ・ザ・イヤーを受賞。 2013年より、エストニア政府経済通信省へ入省し、エストニア政府CIO(最高情報責任者および経済通信省 局次長を務める。経済政策の一つである、e-Residencyの生みの親であり、エストニア以外の外国籍者に対して、ヴァーチャル住民としての登録と会社を登記できる仕組みを創出した。

日本の人口1億2000万人は電子政府化にあたってデメリットではない理由

平尾 ところで、一部の人はエストニアが成功した理由に「人口が130万人しかいないから」と言っていたりします。ゆえに「日本がエストニアになるには大きすぎる」というわけです。一部側面としては正しいのかもしれませんが、私は、これ自体が正しい答えではないと考えています。

コトカ インターネットとコンピュータの可能性を考えてみましょう。歴史的にみて、工業化以前は人々は商品を自力で手に入れていました。これが工業化によって生産力が倍加し、経済が拡大していきました。潜在的には、インターネットはそれをより顕著なものにするでしょう。銀行などはデジタル化の推進により、すべてがその顧客となる可能性を秘めています。またコストの話をすれば、病院と保険会社の間のデータ転送システムを構築した場合、エストニアのケースで1人あたりのコストは人口の130万人で割った数字となります。もし日本であれば、頭数は1億2000となりますから、1人あたりの負担はぐっと小さくなります。これは逆にメリットとなりませんか?

平尾 確かに。日本ではまだ多くがアナログ的でデジタル化されていません。紙の書類が大量にあり、同じ個人情報を毎回埋める必要がある状況です。ときに市役所で半日、あるいは丸1日かけて事務処理を行うこともあります。携帯電話購入1つとっても2-3時間という待ち時間がざらで、非常にストレスフルです。エストニア由来のソリューションはこれらを簡便なものにすると望んでいますが、まずは保険会社と医療データの世界で実現しようかと思っています。これが実現することで、人々はそのメリットをすぐ知ることになります。一方で、新しいチャレンジは既存の業界との軋轢を生んだりもしますよね。

コトカ もちろん、新しいことをすべての人が受け入れるわけではなく、変革には時間がつきものです。

平尾 エストニアではどうだったのでしょうか?

コトカ 10年かかっています。

平尾 10年ですか……日本ではもう少し少ない時間で実現できればと思いますが、5年では難しいですかね?

コトカ できると思いますよ。

エストニアはなぜ次々新しいチャレンジができるのか

平尾 ところで、エストニア政府ではデジタル通貨への取り組みが知られていますが、ICO(Initial Coin Offering)のような仕組みは検討しているのですか?

コトカ まだ検討段階です。

平尾 個人的に非常に面白い話だと思います。エストニア政府はなぜそうも新しいことにチャレンジできるのでしょうか? 日本でも新しい試みはありますが、エストニアの状況に興味があります。

コトカ エストニアでは失敗が許される素地があり、日本ではそうした失敗が許されないからではないでしょうか。

平尾 日本では1回の失敗が犯罪扱いとなり、次のチャレンジが許されない風潮がある。こういった文化を変えることは可能なのでしょうか? まずは教育を変えるしかないのかもしれませんね。私は日本の教育システムは非常に苦手で、教え手の話すこと“聞く”ことが重要で、フレキシビリティがありません。ストレートに進級できないと就職にも影響してしまいます。私の両親も子供のときに進学について指示してきて、それが嫌で米国の学校に進学しました。そこはまったく異なった環境で、選ぶ教科から卒業タイミングまで自分で選ぶことができたのです。エストニアでは小学校からプログラミング授業を選択できるなど、非常に進んだ教育システムを持っていると聞きますが、こうした仕組みは以前からあったのでしょうか? あるいはどのような経緯で導入されたのでしょうか?

コトカ 1つ言えるのは、政治家がわれわれのデジタル的な取り組みに理解があったことでしょうか。それが今につながっています。

平尾 日本がエストニアから多くのことを学んでいるように、エストニアもまた日本から多くを学べると思っています。国として日本とエストニアで変革に向けて協力できることがあるはずです。私は日本をエストニアのように5年で変化させると言っていますが、次のステップとして、この領域で何を変化させていくべきでしょうか?

コトカ 先を見ていても、変化はタイミングよくやってくるものです。あなたにはいまの時点でまだやることがあるでしょう。

平尾 そうですね。今日はどうもありがとうございました。

(提供:プラネットウェイ)

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事

Planetway Story