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大企業との協業でベンチャーは下請けになってはいけない

CEATECで語られた大企業×先進ベンチャーとのタッグ事例

特集
北海道に最先端Techを実装!「No Maps 2017」レポート

 コンシューマー向け製品が並ぶCEATECの一角、2017年10月5日の夕方に、少し毛色の異なるステージが展開されていた。「“ Spark! Innovation” meet-up in Tokyo ~大企業×ベンチャー共創を仕掛ける人たち~」と題されたそのイベントでは、大企業と協業するベンチャー企業がそれぞれの成果を発表し、協業のポイントについてパネルディスカッションした。

No Maps Sapporoは実験、実証を重視した北海道版SXSW

 東京カルチャーカルチャーの河原 あず氏が司会をし、タムラ カイ氏がグラフィックレコーディングを担当するこのイベント。最初のゲストであるNo Maps 実行委員会 事務局長の廣瀬 岳史氏が、まず札幌で開催される「No Maps 2017」を簡単に紹介した。

司会を担当した東京カルチャーカルチャーの河原 あず氏

プレゼンテーションピッチのグラフィックレコーディングを担当したタムラ カイ氏

 No Mapsとは、サウスバイサウスウェストのようなイベントを北海道で実現したいという関係者が集まり、2016年にプレイベント的な第0回を開催、2017年10月に本格的な第1回を迎えるイベントだ。音楽や映画にITを加えた多面的なイベントになっているが、その中でも重視されているのは最新テクノロジーの実験や実装だという。

 「土地が広いというだけでも実証実験をしやすい場と言えますが、北海道は歴史が浅くしがらみも少ないため、新しいものを受け入れやすい土地柄があります」(廣瀬氏)

No Maps Sapporo初日にも関わらず駆けつけてくれた廣瀬 岳史氏

 そのNo Mapsのカンファレンスプログラムのひとつに、Spark! Innovationがある。前段階として、CEATECでは「“ Spark! Innovation” meet-up in Tokyo ~大企業×ベンチャー共創を仕掛ける人たち~」が開催されたというわけだ。ここでは、プレゼンテーションピッチと、ピッチ参加者によるパネルディスカッションの模様をお届けする。

大企業とベンチャー企業のタッグで先端的取り組みにチャレンジする人々

 ピッチのトップバッターは、東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部 事業計画部で課長補佐を務める加藤 由将氏。加藤氏は特定の取り組みについてではなく、同社のメインエリアである渋谷を中心としたイノベーションエコシステムについて語った。

東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 事業計画部 課長補佐 加藤 由将氏

 「世界で新しいサービスが生まれ続けているのは、シリコンバレーのようなイノベーションの拠点があちこちにあるからです。しかし残念ながら日本にはそうした拠点も、イノベーションのためのエコシステムもありません」(加藤氏)

日本にはイノベーション拠点がない

 しかし希望がないわけではないと加藤氏は言う。渋谷には先端企業やベンチャー企業が集まり、エコシステムが生まれつつある。No Mapsのような新たな取り組みも国内で始まっている。これらがうまく連携できれば、イノベーションエコシステムを生み出せるはずだ。そのために東急電鉄では、ベンチャー企業を支援するアクセラレートプログラムを提供している。

 「自社では作れないものを、アクセラレータープログラムでベンチャーと提携して作りたい。しかも渋谷に集まっている企業であればフェイス・トゥ・フェイスでコンタクトポイントを作りながら、ビジネスをインテグレートしていけます」(加藤氏)

タムラ カイ氏によるグラフィックレコーディング

 次に登壇したのは、株式会社ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン PMOディレクターの米持 幸寿氏と、株式会社Nextremer CEOの向井 永浩氏。両社が目指すCooperative Intelligenceの世界について、それぞれの立場から語った。

 「Cooperative Intelligenceとは、単にインテリジェントなだけではありません。人を意識し、人と強調できる、AIを超えた存在を目指しています」(向井氏)

株式会社Nextremer CEOの向井 永浩氏

 人間との協業によりAIが成長し、人間とAIが協力することでよりよい結果をもたらすことを目標に掲げ、今は対話型システムの開発を進めている。二足歩行ロボットをはじめ自動車以外の分野での研究でも知られるホンダだが、企業規模が大きいために実装までに時間がかかるという。

株式会社ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン PMOディレクターの米持 幸寿氏

 「研究も大切ですが、早く社会実装することに大きな意味があります。ベンチャーと協業することで、ホンダの技術を素早く実装してもらう。そのために、ホンダの歴史上初めて、ソフトウェアのライセンス供与をしました」(米持氏)

当日、Nextremerのブースに新型N-BOXが展示されていた

Nextremerブースに展示されていたN-BOXには対話型エンジンが組み込まれていた

 現在すでに、新型N-BOXにNextremerのソフトウェアを組み込んだ、しゃべるN-Boxのコンセプトモデルが完成している。大企業ならではの長期間にわたる基礎研究の成果とハードウェア、それにベンチャーならではのスピード感が組み合わさって素早く形になった好例といえるだろう。

タムラ カイ氏によるグラフィックレコーディング

 ベンチャーが手を取る相手が企業ばかりとは限らない。株式会社テクノファイスが協業相手として選んだのは、札幌市経済観光局だ。両者は協業の末、交通機関の案内をする札幌駅バスナビを開発した。

 「札幌は全国で初めて行政機関のコールセンターを立ち上げ、市民からの問い合わせを14年間150万件も受け付けてきました。これらのデータをAIで活用したいと考えました」(札幌市経済観光局 国際経済戦略室 IT・クリエイティブ産業担当課長の村椿 浩基氏)

札幌市経済観光局 国際経済戦略室 IT・クリエイティブ産業担当課長の村椿 浩基氏

 コールセンターのオペレーターは、どのような質問がきてどのように対応したのか、その情報はFAQのどの項目に基づくものか、克明に記録してきた。当然日本語で書かれているので、自然言語分類で問い合わせと関連性の高いFAQを見つけ出し、コールセンター業務の支援をしている。

 「第2段階として、機械学習を用いたチャットボットの開発も行なっています。プロトタイプはできており、2017年度内にさらにブラッシュアップする予定です」(株式テクノフェイス 代表取締役 石田 崇氏)

株式テクノフェイス 代表取締役 石田 崇氏

 企業ではなく行政機関らしく、実証を通じて得た知見は地元企業に還元していくという。札幌のIT企業の発展と行政サービス向上の一石二鳥を狙っていると、村椿氏は語った。

タムラ カイ氏によるグラフィックレコーディング

 最後のプレゼンテーターは、三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 主事の光村 圭一郎氏と、株式会社アクアビットスパイラルズ Founder&CEOの萩原 智啓氏。アクアビットスパイラルズでは、スマホをかざすだけでページを表示できるデバイスを開発、販売している。「Hyperlink of Things」と萩原氏が呼ぶそのデバイスは、スマホをかざすだけでその場所にタクシーを呼べたり、テーブルからメニューを読み取って決済までする並ばないフードコートなどに使われる想定だ。

 「このデバイスは、あらゆる場所をマーケットプレイスにします」(萩原氏)

株式会社アクアビットスパイラルズ Founder&CEOの萩原 智啓氏

 一方で三井不動産は、マンションを売るのではなく暮らしを売るという意識変革の途上にあるようだ。たしかに部屋のあちこちにアクアビットスパイラルズのデバイスが埋め込まれていれば、スマホひとつで鍵を開け、住所入力の手間なくピザや通販の注文ができるようになる。とはいえ、一足跳びに部屋に入り込むのは難しいようだ。

三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 主事 光村 圭一郎氏

 「大企業の行動は一朝一夕では変えられません。手をつけやすい場所としてマンション購入見込み客向けのダイレクトメールにデバイスを入れ、スマホから見学予約ができるようにしてみました。これが成功して高いコンバージョン率を記録したので社内でも効果を認められ、次のステップに進む準備ができました」(光村氏)

タムラ カイ氏によるグラフィックレコーディング

大組織のいいところとベンチャーのいいところを組み合わせる共創

 セッション後半は、河原さんをモデレーターとしてパネルディスカッションがあった。いずれのプレゼンテーターも大きな組織とベンチャー企業の組合せで成功しており、それぞれの関係性や成功までの道のりが明かされるディスカッションになった。

 最初のお題は「誰のためのイノベーションなのか?」。大企業や自治体とベンチャーの組合せから、それぞれの立場でイノベーションの必要性について問うた。

加藤氏:ベンチャーのイノベーターは、新しい価値を発見して作ります。大手企業のイノベーターはそれを助ける役割を持っているのかなと思っています。新しいものを作る人を応援して、早く実現するのを助けるのが私たちの仕事です。アクセラレーションしながら、自らの成長につなげていきます。

村椿氏:行政の場合も、大企業と同じような役割ですね。連携をコーディネートし、行政のデータをどうやって企業に使ってもらうかと考えています。そのために、行政が持つデータを整理していく必要性を感じています。

米持氏:企業はイノベーションを必要としています。その中でも、大企業にはできないようなスピード感が求められるものを、F1のようなスピード感を持つベンチャー企業に手伝ってもらえばいいんです。今まで使われていないものをマーケットに届け、未来に近づくプロダクトをゼロから作れます。

向井氏:協業では、わからない部分を補ってもらえることが利点ですね。ビジネスとしてはあくまで補完関係ですが、面白いからやるというスピリッツが、ベンチャーの強みです。

荻原氏:スピリッツがベンチャーの強みという話が出ましたが、我々にはスピリッツしかありません(笑)。こんな世の中をつくりたい、そのためにはこういうプロダクトが必要だという姿勢を保ち続けること。協業する大企業には、アクセラレーションを期待しています。

石田氏:大企業がビジネスの場で協力しようとすると、小さい企業は下請けのような関係になってしまいがちです。しかしデータという観点から見ると、考え方も付き合い方も変わります。そうやって視点を変えることで、技術屋である我々ができることはすごく広がります。

 いくつかの議題についてディスカッションを重ね、最後に「プロジェクトのキーワードは何か」という抽象的な問いが示された。

向井氏:ホンダさんとの協業なので自動車用語で示しますが、従来の中小企業はスリップストリーム(先行車にぴったりとくっついて空気抵抗を減らして高速を維持する走法)戦略だったと思います。でもうちは、バンパー戦略を取っています。バンパーというのは一番前についていて、衝撃を受け止めます。私たちはいくら傷ついても構わないので、私たちをバンパーにして一緒にどんどん進んで行きたいですね。

石田氏:市役所と地場企業の関係なので、ほかの方とはちょっと違うかもしれません。市役所は地場企業を支援する役割も持っているとはいえ、公共性を持たせつつ私たちの技術を採用するのは難しかったと聞いています。

荻原氏:うちのプロダクトは入り口を作るものですが、三井不動産とは入り口だけではなく最後までお付き合いさせていただきたいと思います。

 ベンチャーとの協業とひとくちに言っても、色々な関係性があることがわかったイベントだった。しかし共通しているのは、いずれも企業の大小とは関係なくお互いをリスペクトしている関係ということだ。ベンチャーが下請けにならないように気をつけるのはもちろん、対等の目線で相手を評価することが大切なのだろう。

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