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検索エンジンと設計思想の違うチャットボットはどのようにして生まれたか?

キャラクター作りの試行錯誤を味わった「おしゃべり らいよんチャン」の舞台裏

2017年10月23日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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番組宣伝キャラクター「らいよんチャン」のLINE BOTを開始した大阪のMBS(毎日放送)。らいよんチャンと気ままな会話が楽しめるチャットボットはどのように生まれ、育てられているのか? MBSの水野善雄氏、らいよんチャンの母的存在でもある阪上寿満子氏、開発を担当したアイレット(cloudpack)の比企宏之氏に話を聞いた。

エンタテインメント向けに絶妙な会話レベルを実現したおしゃべり らいよんチャン

双方向で視聴者とやりとりできるSNSの活用を模索

 MBSの番組宣伝キャラクターである「らいよんチャン」が誕生したのは、2003年にまでさかのぼる。地デジの開始とともに各局ともさまざまなキャラクターを作ってきたが、2017年現在に至るまで、市民権を得て生き残っているキャラクターは数少ない。こうした中、らいよんチャンは今も非常に人気が高い存在だ。登場以来、キャラクター設定や顔つきは何度か変わっているが、基本的には脱力したゆるキャラとして視聴者に親しまれている。

 このらいよんチャンをチャットボット化するきっかけは、SNSによる番組宣伝を効率的に行ないたいというニーズがあった。MBSで主に番組のPRを担当するMビジョン推進局の水野善雄氏は、「放送とSNSは似ているようで、似てません。SNSに関しては各局も試行錯誤しながらやっており、ベストな方策がない状態。双方向で視聴者とやりとりできる点が目新しかった」とチャットボット計画の背景についてこう語る。

毎日放送 Mビジョン推進局 PR部 マネージャー 水野善雄氏

 この声に応えたのが、動画配信サービス「MBS動画イズム444」のシステム構築・運営を担当していたアイレット(cloudpack)になる。同社は、kintone(サイボウズ)を活用した番組宣伝システムのリプレースも担当しており、水野氏のふわっとした要望とインターネットでの宣伝力を高めていきたいという動画イズム444チームの声に応えて、らいよんチャンのLINE BOTを提案した。cloudpackの比企宏之氏は、「LINE BOTであれば双方向でやりとりできるし、将来的にはユーザーへの個別配信やオフラインとの連携も見えます。今までの一斉配信とは異なる情報発信ができると思って、提案しました」と語る。

AWSやkintone、マイクロソフトのLUISを使ったチャットボットのシステム

 こうして生まれた「おしゃべり らいよんチャン」のプロジェクトは2017年の5月末に開始し、システムはAWSやkintone、マイクロソフトのCognitive Serviceなどさまざまなクラウドサービスを組み合わせて構築されている。とはいえ、LINEにはMessage APIが用意されており、バックエンドも動画イズム444で実績のあったLambdaとAPI Gatewayを用いたサーバーレスシステムを流用できたため、実際にcloudpackとMBS側で手を動かしたのは、おしゃべり らいよんチャンのキャラクターの作り込める仕組みになる。

 おしゃべり らいよんチャンが会話に利用している学習データは、MBS側から任意に登録したデータと、MBSのサイトをクローニングしたデータの2種類。Amazon S3に蓄積されているこれらのデータは、チャットボットのプログラムからのリクエストに応じて取得され、マイクロソフトの自然言語解析エンジンである「LUIS」での解析を経て、ユーザーに戻される。これが基本的な動作パターンだ。

サーバーレスアーキテクチャとさまざまなクラウドを組み合わせたおしゃべり らいよんチャンのシステム構成(アイレットより提供)

 ただし、実際の動きはもう少し複雑で、LUIS自体の処理能力の限界を補う疑似解析機能や、チャットボットで重要なレスポンスを担保するキャッシュなどが間に設けられているという。「チャットボットは応答に時間をかけられないので、可能な限り解析結果を再利用できるアーキテクチャになっている」(比企氏)。

 MBS側からおしゃべり らいよんチャン用の教師データを登録するフロントシステムにおいては、サイボウズのkintoneを採用した。こちらも動画イズム444の構成と同じで、Amazon S3にデータを登録するためのCMSとしてkintoneを採用している。「基本的にはテキストを入れるか、イメージを入れるかだけなので、操作はとにかくシンプルです」(水野氏)と使い勝手の評価も高い。現在もアップデートは進行中で、使用頻度の高いキーワードや登録ユーザーのトレンドを可視化・分析する機能の実装を進めている。

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