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中国では「生ぬるいビール」「冷めたラーメン」が普通な理由

2017年10月10日 06時00分更新

文● 藤岡久士(ダイヤモンド・オンライン

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日本人にとって、“温かいものは温かいうちに”、“冷たいものは冷たいうちに”は料理をおいしく食べる基本である。一方、私たちが中国に行ってよく遭遇するのは、冷えていないビール。ぬるい味噌汁に熱々じゃないラーメン。彼らの味覚はどうなっているのだろうか。(ゼロイチ・フード・ラボCEO 藤岡久士)

ビールの適温とは?
日本人が好むのは夏で4~6度

 日本人の、ビールが最も美味しいと思う温度は、外気の温度と関係する。夏場は4~6度。冬場なら6~8度が適温と言われ、それより冷えすぎてもぬるすぎても、「泡立ち」「のどごし」面で美味しさが半減してしまうとされている。

 もっとも、これは日本で一般的に飲まれている「ラガービール」の話で、世界を見渡すと琥珀色の「ペールエール」や、白濁した色合いが特徴で白ビールとも呼ばれている「ヴァイツェン」のように、常温に近い温度で飲んだ方がビール本来の香りや、しっかりした苦味が感じられ美味しいとされているビールも多く存在している。

 とはいえ、日本で最も飲まれているのは「ラガービール」であり、多くの日本人がキンキンに冷えたビールを、「のどごし」で楽しむのが好きなことに、異論を唱える人はいないのではないだろうか。

なぜ中国では
冷たいビールを飲まないのか

 中国で一般的に普及しているビールも日本同様「ラガービール」である。

 では、何故彼らは日本人のように、ビールをキンキンに冷やす習慣がないのか。単なる「習慣の違い」と言ってしまえば、身も蓋もない話になってしまう。

 そこであえて、いくつかの視点から分析してみた。

1.設備的な問題

 経済規模で世界第2位になったとはいえ、中国はいまだ発展途上国の側面を持ち合わせている。上海のような大都市であればともかく、全国どこでも冷蔵設備が十分に整っている訳ではない。

2.外気の温度との問題

 季節や気温によって、冷やす必要がないと思っている中国人は少なくない。彼らにしてみると、寒い冬に冷たい飲み物を欲する日本人の感覚は奇妙に映っている。

3.健康面の配慮の問題

 中国では、東洋医学の観点から「医食同源」の考え方が浸透している。必要以上に冷たいものを摂ることは、免疫力を低下させ体に良くないことであり、それを望むことは彼らには理解できない。

ぬるくて味の薄い
味噌汁が好き

 中国を訪問した日本人がビールと並んで、不満を感じるのが、味噌汁の「温度」と「味」に関してである。総じてぬるくて、味が薄く感じるのだ。

 なぜ、日本と同じ味の味噌汁を提供する店がないのだろうか。

 そもそも中国含めアジア全域において、塩味に関しては日本と比べ弱い傾向があるようだ。そう考えると、顧客に合わせ味噌汁の塩味を弱く調整していることは、当たり前と考えることができる。

 一方、別途考えられるのは、温度による味覚の影響である。一般的に、日本人が美味しいと感じる味噌汁の温度は、62~70度とされている。

 それに対し、海外の味噌汁の温度は総じて低めなのである。

 塩味は温度が下がると強く感じる傾向があるため、比較的低い温度で提供される海外の味噌汁は、日本人が通常飲んでいるものと比べ、塩味が弱く設定してあると分析することもできる。

 塩味を落として提供するのであれば、その分、出汁を強く利かせる必要があると思うのだが、総じてその調整はきちんとできていない店が多い。

 そのため、中国で日本人が素直に「美味しい」と思える味噌汁に出合うことは非常に困難なのだ。

味噌汁にレンゲ
中国人にとって普通

中国で食事をすると、レンゲが刺さった味噌汁がしばしば出てくる

 中国で、味噌汁のお椀にレンゲが刺さっている、違和感のある光景に出くわしたことはないだろうか。

 日本人とっては、この味噌汁のビジュアルはかなり抵抗があるが、中国人にとっては、むしろ熱々の味噌汁をレンゲ使わずにすする日本人の習慣の方が、不思議に映っているようだ。

 日本に住んでいたら普段考えたこともないだろうが、なぜ日本人は味噌汁を飲む際、レンゲを使わないのだろうか。熱いものをすする事に慣れているからだろうか。その方が美味しく感じるからだろうか。

 味噌汁の飲み方に関しては、ソバやラーメンのように音を出してすすって飲むことがマナー違反かどうか、日本人の中でも意見が分かれるところではある。

 結局のところ、この味噌汁の飲み方に関しては、「合理的な理由がある」というより、もう「文化的な習慣」としか言いようがない気がする。

ラーメンも
なぜか冷めている

「ビールの温度」「味噌汁の温度」に次いでよく聞く不満が、日本人のソウルフード「ラーメン」の温度に関することである。

 日本人にとって特別な思いのある「ラーメン」も、中国人にとっては数あるファストフードの一つでしかない。

 スープの深みや麺のコシ。ましてや、温度に異常にこだわる日本人の姿は到底理解できるものではなく、むしろ、彼らには奇妙に映っている。

 中国で当たり前のように出てくる温度の低い「ラーメン」に対し、筆者自身も中国でラーメン店を10年余り経営してきた観点から分析してみた。

1.オペレーションの問題

 日本に比べ、店舗の規模が大きいケースが多いこと。また、手際が悪いため提供時間が遅れ、結果冷めてしまっているケースも少なくない。

2.文化の問題

 従業員が、そもそも熱々で提供しなければいけないと思っていない。彼らが適温と感じている温度が異なっているため、改善はされない。また経営的視点から、蒸発による歩留まりを気にするためスープを沸騰させず、温度が低くなるケースも見受けられる。

3.設備の問題

 前述の通り、異なる価値観を持っているため、日本のようにドンブリやトッピングを予め温めるような気配りがされていないケース。従って、スープを注いだ瞬間から温度が下がってしまっている。

 加えて、ラーメンスープに関しても塩味が弱いと感じる理由には、味噌汁と同様、温度による「塩味」の感じ方の問題も関係していると考えることができる。

温度と味覚の関係
「甘味」「塩味」「苦味」は温度で変わる

 味覚の5要素と言えば、「甘味」「塩味」「苦味」「酸味」「旨味」の5つだが、その中で「甘味」「塩味」「苦味」の3つの味覚は、温度により感じ方が変わるとされている。

「甘味」は温度が低いと弱く感じ、高いと強く感じる。

「塩味」はその逆で、温度が低いと強く感じ、高いと弱く感じる。

「苦味」は、常温以下で強く感じ、高温では弱く感じる

 中国人は冷めたものを嫌う半面、「熱々」や「冷え冷え」といった極端な温度帯で提供することに対し、日本人ほど価値を感じていない。

 国ごとの事情や習慣と、温度と味覚の関連性を掛け合わせて考えることで、彼らの食に対する日本人と異なる趣味趣向の、謎の一端が解けてくるのではないだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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