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遊郭・赤線跡文献専門書店「カストリ書房」の魅力、若い女性が殺到!

2017年10月07日 06時00分更新

文● 真島加代(ダイヤモンド・オンライン

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江戸時代、幕府公認の遊女屋が立ち並び、日本一の色街として栄えた街・吉原。そんな街に昨年オープンしたのが遊郭・赤線跡・歓楽街などの文献を専門に扱う書店「カストリ書房」(東京・台東区)。店内には各地の遊里史文献や、国会図書館にも所蔵されていないような幻の遊郭専門書の復刻本が並ぶ。(清談社 真島加代)

幻の遊郭専門書も並ぶ店内
客層は20~30代の女性が6割

遊郭や赤線跡の書籍を扱うカストリ書房は、20~30代の若い女性がメイン客層。幻の名著を復刻したのがビジネスの始まりだった(吉原内で8月17日に移転。写真は移転前の店舗のもの)

「オープンしたのは昨年の9月。平日は10人前後、休日には20人前後のお客さんがいらっしゃいます。平積みにしている本は、新しく入荷した本だったり、今推したい本だったり、タイミングによって変わります。本当は全部平積みにしたいんですけどね」

 こう語るのは、カストリ書房の店主を務める、運営元の株式会社カストリ出版代表取締役社長・渡辺豪氏。

 カストリ書房の来店者は、開店当初から20~30代の女性が6割を占めているという。遊郭や赤線跡の書籍を扱う書店としては少々意外だが、彼女たちが“遊郭”に魅入られる理由とは?

「不況などを理由にセックスワーカーが職業の選択肢の一つにさえなり得ることや、昭和レトロブームなどが理由として考えられるのではないでしょうか。とはいえ、接客中『どのような本をお探しですか?』とお声がけするのですが、タイトルを指定して来られる方はほとんどいません。遊郭や赤線が気になってはいるけど、理由は明確でなく自分の興味の源流を探りに来ているような印象です」

 渡辺氏は「趣味って『何で好きなの?』って聞かれると困りますよね。多分、お客さんも“なんとなく”来ているんだと思います」と笑う。そんな渡辺氏も、もとは遊郭・赤線跡を趣味で調査していた1人。何ゆえ、現在のような復刻本の出版や書店経営者となったのだろうか。

消え行く遊郭・赤線跡
資料探しも難しかった

 カストリ書房店主・渡辺氏の前職は、IT系サラリーマン。出版とはまったく別の世界にいたという。

「もともと旅行が好きで、全国各地を訪れていました。でも、そのうちメインの観光地めぐりにも飽きてしまって、繁華街から離れた場所にあるスナックや飲み屋が並ぶ不思議な空間のことが気になったんです」

 郊外に集まる“夜の店”。独特な空気を醸し出す場所に興味が湧き、調べてみると、かつての遊郭や赤線跡という土地が多くあった。

カストリ書房店主・渡辺氏。手にしているのは自費出版で制作した、渡辺氏の写真集『遊郭 紅燈の街区』。全国各地の遊郭・赤線跡の外観や内部を住民に許可を取り、一件一件撮影したという

「その街が過去に持っていた性格を消しきれず、いまだにその空気を引きずっていることがおもしろいと感じたんです。各地の遊郭跡や赤線跡に行って聞き取り取材をしたり、許可をいただいて写真を撮ったり、ブログを書いたり…、遊郭跡巡りが自分の趣味になっていきました」

 自らの足でさまざまな遊郭・赤線跡を訪ねる日々で、“色街”という場所そのものが急速に失われていく現実を目の当たりにしたという。

「遊郭や赤線があった地域は、どんどん更地になっていき、一人の作業では、そのスピードに追いつくことができないと感じました。ブログを書くために情報の裏取りをしようにも、訊きとりという手法は必ずしも正確とは限らないし、専門書探しも難航しました。国会図書館には書誌情報があっても所蔵はない本も多く、古書相場ではプレミアがついていて、そうやすやすと手に入れることができないんです」

「そこで、著作権が切れている書籍を復刻して、古書相場よりも安く売ることができれば、僕のように趣味で遊郭を調べている人や研究者にとって役に立つのでは?と思ったのが、出版業をはじめるキッカケでした」

ネット販売から事業を開始
売れ行き好調で脱サラ

 ニッチではあるものの、遊郭・赤線跡という市場にニーズを見出した渡辺氏は、2014年の末に最初のタイトル『全国女性街ガイド』を出版するに至ったという。

「当時は、サラリーマンとして働きながら個人事業主として本を売っていました。販路はネット。IT業界にいたぶん、ネットを使ったビジネスには慣れ親しんでいたこともあり、これまで学んだことを応用展開していくほうが、有利だろうと読んだ点も大きかったです」

 当初から売れ行きは好調。そのうち、自身の月給を本の売り上げが超える月も増えていったという。

「ネットでの売れ行きを見て、しっかり組み立てをしていけば事業として成立する手応えを感じて、独立しました。何より、ビジネスとして成立しなければ、復刻事業も店舗経営も継続できないので、そこはシビアに判断していますね」

 2015年8月に前職を辞め、カストリ出版を設立。復刻した文献のネット販売をメインに事業を展開していた。ネットでの売れ行きが好調でありながら、対面販売の書店を開くまでには、ある心境の変化があったという。

「ネットの強みを知っている半面、場所があることのよさを分かっていないんだろうな、と思っていました。そんなとき、16年の夏に京都の有料トークイベントにお招きいただいた際に、九州をはじめ遠方から多くの方が来てくれたんです。わざわざ足を運んできてくれる人の存在を知り、リアルな場所のメリットを実感したことで、店を構えることにしました」

 そして、同年末にはカストリ書房をオープン。クラウドファンディングでの宣伝も功を奏し、注目を集めた。その行動力は目を見張るものがある。

観光客も大勢訪れる
カストリ書房のイチオシは?

 あらゆる角度から市場を見極める渡辺氏に、カストリ書房イチオシの書籍を聞いてみた。

●『全国遊廓案内』(編・渡辺豪/カストリ出版)

 昭和5年に出版され、80年もの間発禁本と呼ばれていた遊郭ガイドブックを復刻。カストリ書房でロングセラー&ベストセラーを記録している。

「全国260ヵ所の色街を紹介するガイドブックです。判型や装丁デザインなどは原著を再現しつつも、再販にあたって加筆をしました。長く発禁本とされていた過去について独自に調査をして『発禁本ではない』という結論に至った経緯について、付録記事として掲載しています」

 現代に蘇った『全国遊廓案内』ならではの魅力が詰まった1冊だ。

●『御手洗遊郭ものがたり 女は沖を漕ぐ』(著・黒川十蔵/カストリ出版)

 昭和31年の瀬戸内海に浮かぶ、風待ち、潮待ちの港にあった“御手洗遊郭”を舞台に描かれたミステリー作品。

「広島県の呉市にある島がモデルになっているのですが、いろいろな地名や当時走っていた路面電車が描写されていて、小説を片手に現地に行きたくなる作品です。観光につながる点もおもしろいですね」

 カストリ出版初のフィクション小説の同書。じつは著者・黒川十蔵氏が原稿をカストリ書房に持ち込み、出版が実現したという。書店を構えたことで生まれた作品だという。

 今後は、どのような展開を見据えているのだろうか?

「最近、観光でカストリ書房に訪れるお客さまも増えているんです。観光の場合は必ずしも本の購入が目的とは限らないので、お土産ものの充実やカフェスペースなどの展開も考えています」

 8月17日からは吉原内で店舗を移転し、さらなる事業拡大に邁進している。遊郭・赤線跡を主軸に、新たな作品やビジネスが生まれる場となっているカストリ書房。かつて吉原の花魁が流行の発信地だったように、同店が“復刻ビジネス”の中心になる日も近い?


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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