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デザイン改革プログラムを発表、CEOはシマンテック傘下時代の葛藤を語る

“GUIが残念すぎる”Veritas NetBackup、汚名返上なるか

2017年10月03日 07時00分更新

文● 谷崎朋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 「『Veritas NetBackup』は初期の頃から使っているけど、バージョン3.2からGUIが全然変わらなくてね。もちろん、コロコロ変わってどの設定項目がどこにあるのか分からなくなるよりはいいし、特にシマンテックによる買収後、いい悪いは別にして変化がなかったから、問題ないと言えばそうなんだけど、さすがにねえ……。GUIも時代に合わせて進化してほしいんだよね」

 Veritas Technologies(以下、ベリタス)の年次カンファレンス「Veritas Vision 2017」会場へ向かう途中、筆者がなにげなく声をかけた米大手金融サービス会社のバックアップ管理者の“NetBackupはGUIが残念すぎる”話が止まらない。

9月18~20日に開催された「Veritas Vision 2017」基調講演のオープニングアクト

「『NetBackupのGUIは残念』、そう言われてるのは知ってるよ」

 2016年2月に米シマンテックからの分社を完了したベリタス は、起業家で投資家でもあるビル・コールマンCEOの指揮の下、アジャイル開発手法を採用して積極的な製品群のリプロファイリングを敢行し、わずか1年の間に7つの新製品をリリースしてきた。

 今回のカンファレンスでも、強力なデデュープ技術含む新機能を追加した最新版「Veritas NetBackup 8.1」、オンプレミスやクラウドなど保存先問わずデータを可視化する「Veritas Information Map」の新コネクタ群、非構造化データを機械学習や分類エンジン、アナリティクスに基づくデータ活用促進するオブジェクトストレージソフトウェア「Veritas Cloud Storage」、Microsoft Azureにおける「360度データ管理」ソリューション全機能の実装提供、そしてアプライアンスの「Veritas NetBackup 5340 Appliance」や「Veritas Access Appliance」を発表。総合的な情報マネジメントの会社として“攻めの姿勢”を見せつけた。

 そんな中でも、10年以上前からGUIがほぼ変わらない製品がある。エンタープライズ向けバックアップ製品のVeritas NetBackupだ。下に掲載した1枚目の画面は2015年1月リリース(Ver 7.6.1)のもの、2枚目は分社後の2016年12月リリース(Ver 8.0)のものだ。冒頭のバックアップ管理者が話していたVer 3.2の画面は時代が古すぎて入手できなかったが、おそらくさほど変化がないだろうことは容易に想像が付く。

 NetBackupは非常に多機能な製品であり、論理的に情報整理されたこのデザインが最適なのだ、と言われたらそのとおりかもしれない。ただ、JSONでぐりぐり動かせる最近のインタフェース(最近のベリタス新製品もこれだ)に慣れていると、このGUIはさすがにいかがなものかと感じてしまう。覚えることが多すぎて、初心者がパッと見で使い始めることは不可能、専任担当者が必須と言われるのもうなずけてしまう。

NetBackup 7.6.1の画面(ベリタスWebサイトより)

NetBackup 8.0の画面(ベリタスWebサイトより)

 ベリタス側も、そうしたユーザーの声があることは理解している。基調講演ではCPO(最高製品責任者)のマイク・パルマー氏が、「NetBackup UI Simplification and UnifiCationS。略して“NUB Sucs(NetBackupは残念)”。そう言われてるのは知ってるよ」と自虐ジョークで会場を沸かせた。

 パルマー氏は、GUIを不用意に変更すればユーザーの混乱を招くため、慎重に行わなければならないとしながらも、次のとおり課題があることを認めている。

 「NetBackupを愛用してくれているストレージ管理者は、時代の流れでクラウド管理者や仮想環境の管理者にジョブチェンジしつつあり、複雑な操作スキルを身に付けるよりも、シンプルな操作で思い通りに動いてくれる製品を求めるようになっている。そんな変化やニーズに応えるためにも、見直すところは見直さないといけない」(パルマー氏)

Veritas TechnologiesのCPO(最高製品責任者)、マイク・パルマー氏

 ベリタスが“残念GUI”に甘んじてきたのには、間接的な事情もある。シマンテック時代、エンジニアリングや製品マーケティングのスタッフは顧客と話をしてはいけないというルールがあり、さらにベリタスのプロフェッショナルサービスもほとんどカットされた結果、顧客の声やニーズを直接耳にする機会がなかった。できるのは、既存製品のバージョンアップ程度であり、それ以上の踏み込んだ改革ができるほどの情報が得られなかった。CEOのコールマン氏は、そのように裏事情を語る。

Veritas TechnologiesのCEO、ビル・コールマン氏

 前述した大手金融サービス会社のバックアップ管理者は、「そういえば一度だけ、シマンテック時代にベリタスを冠したユーザーカンファレンスがあった」と語った。喜んで出向いた同氏を出迎えたのは、ベリタス関係者からの質問攻めだった。「ユーザーと直接話がしたくてたまらない。そんな印象を強く受けたよ」。

「Veritas Design」プログラムを開設、デザインの見直しに着手

 シマンテックからの分社後、コールマン氏はプロフェッショナルサービスを復活させ、顧客の声を汲み上げられる体制を整えた。「アジャイル開発では、アーリーリリース後に顧客からのフィードバック、顧客との密な対話が必須となる。そうでなくとも、顧客が本当に必要としているものは何かを引き出すことが一番大切だ。顧客に大量の製品を押しつければいい時代は終わった」(コールマン氏)。

 顧客の声にきちんと耳を傾ける。そんなマインドを養うために、同社の営業向けトレーニングでは、マルチクラウドにおけるデータ管理やストレージのマイグレーション、GDPRなど、現在の顧客が直面している課題を設定し、ベリタスとして顧客のビジネスに貢献するための糸口を議論しているという。

 そしてGUIについても、デザインに関するフィードバックを受け付ける「Veritas Design」プログラムを設置した。これは、アーリーテストの参加や機能へのフィードバック窓口である「Customer Engagement Program」のひとつとして加わる。ユーザーの声を聞き、機能追加や製品間連携のたびに少しずつ発生していた操作性の“ズレ”を洗い出し、ユーザーの業務において最適なインターフェイスは何かを模索、デザインに反映させていくという。

「Veritas Design」プログラムの設置が発表されると、会場からは「ほぉう?」という期待混じりのどよめきが上がった

 パルマー氏は、GUIデザインでは何よりも「ユーザーの業務の流れ」を知ることが重要だと語る。「知らなければ、ロジックとインターフェイスだけで設計してしまい、後からサードパーティとの連携機能を追加したいと思ってもそうしづらいデザインになってしまう」(パルマー氏)

 そのため、同社ではユーザー視点で業務の進め方を調査、学ぶ専任担当者を採用。デザイナーやUI開発者、エンジニアに「APIファーストのマインド」を養うための取り組みも始めている。

 「いずれNetBackupも、Information Mapっぽいデザインになると思うよ」と、パルマー氏はいたずらっぽく笑った。“残念GUI”の汚名返上の日は近いかもしれない。

Veritas Information Mapのペイン内に表示されたVeritas NetBackupのデータ。いずれNetBackup自体のポータルもこんなデザインになるかも?

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