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製造業、スマートシティ向けに7つの“スターターパッケージ”も発表

シスコ、オープンなIoTデータファブリック「Kinetic」を紹介

2017年09月22日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 シスコシステムズは9月19日、同社のIoT戦略やIoTプラットフォームを紹介する記者説明会を開催した。“IoTネットワークファブリック”上にオープンな“IoTデータファブリック”を構築し、これまでのIoT導入における数々の課題を解消する。また製造業、都市(スマートシティ)向けに7つの“IoTスターターパッケージ”も発表している。

(左から)説明会に出席した、米シスコ IoTクラウド事業担当 VP兼GMのジャハンギール・モハメッド(Jahangir Mohammed)氏、シスコ日本法人 執行役員 CTOおよびCSOの濵田義之氏、米シスコ インダストリプロダクトグループ ディレクターのブライアン・タンゼン(Bryan Tantzen)氏

IoT導入「4つの課題」をネットワーク/データファブリックで解消

 説明会ではまず、IoTクラウド事業担当VP兼GMのジャハンギール・モハメッド氏が、企業がIoT導入を進めるうえで課題になっていることと、シスコが考えるその解決策、具体的なソリューションの概要を説明した。

 IoTをビジネス活用するためには、センサーやデバイスといった「モノ」が生成するデータをアプリケーションに移動させ、アプリケーション上でデータを「ビジネス価値」へと転換する必要がある。IoTへの期待が高まり、モノもアプリケーションも次々と新しいものが生まれているが、しかし、モノとアプリケーションが置かれた現実の環境は極めて複雑だ。大量のモノは多拠点に分散配置されており、アプリケーションも用途に応じてオンプレミスとクラウドに存在する。さらにモノもアプリケーションも、マルチベンダー/異種混在(ヘテロジニアス)環境であることが大半である。

 その結果、あらゆる顧客はIoT環境において「4つの課題」を抱えることになると、モハメッド氏は説明する。それは、大量のモノ(デバイス)管理の複雑さ、モノからデータを取得する手段、個々のデータをそれぞれ適切なアプリケーションに移動させるプログラム化された手段、データのプライバシーやオーナーシップ、セキュリティの徹底、という4つだ。

IoT導入に取り組む際の「4つの課題」

 「これら4つの課題を、シスコは完全に解消している」とモハメッド氏は語る。具体的には、「Cisco Intent-Based Network for IoT」「Cisco Jasper」の組み合わせによる“IoTネットワークファブリック”、そして「Cisco Kinetic」による“IoTデータファブリック”という2つのファブリックを構成し、これを統合する。

 前述した1番目の課題、ネットワークレイヤーにおける複雑な「モノの接続管理」に対応するのがIntent-Based NetworkとJasperだ。Intent-Based Networkは、ネットワーク運用者が定義するポリシーを通じてその「意図(Intent)」をネットワーク側が理解し、ネットワーク機器の構成/設定を自動化するもの。またJasperは、IoTデバイスが搭載する大量のSIMとその通信を一元管理するソリューションだ。

 これらのソリューションによって、「モノとアプリケーションがどこに配置されていようとも、お互いをセキュアなかたちで接続できる」(モハメッド氏)。IoTデバイスを素早く接続し、可視化するほか、IoTトラフィックへのセグメンテーション(分離)やQoSもポリシーベースで適用できる。また産業用ネットワーク機器、エッジ/フォグコンピューティング製品もラインアップしており、モハメッド氏は「シスコはあらゆるデバイス、あらゆるアクセス方法をサポートする“ワンストップショップ”だ」と語った。

 他方、前述した2番目から4番目の課題(モノからのデータ取り出し、データの適切なアプリケーションへの移動、データのプライバシーやセキュリティ保護)は、KineticがIoTデータファブリックを構成し解決する。Kineticは、エッジ/フォグからデータセンター、クラウドまで、分散型のシステムを自動プロビジョニング/構成可能にし、データの正規化や解析、ルール実行、セキュリティ、アプリケーションとのAPI連携などを実現するIoTプラットフォームだ。エッジ/フォグ部分で実行するデータの前処理については、ノンプログラミングでフローを作成できる仕組みを備える。

Kineticプラットフォームの機能例

Kineticの「データフローエディター」画面。取得したデータをどう処理し、どのアプリに送るのかをノンプログラミング/GUIで記述できる

 モハメッド氏は、「シスコではまず、都市(スマートシティ)、製造業、石油/ガス、運輸、流通という5つの産業領域にフォーカスすることにした」と述べたうえで、各産業/各国のパートナーとの協力のもと、顧客がビジネス価値を短期間で得られるソリューションを提供していくと説明した。

 シスコ日本法人 執行役員 CTO/CSOの濵田義之氏は、日本においては「製造業」と「都市」の2領域に特化してIoTビジネスを進めていると述べ、製造業においてはファナックやヤマザキマザック、オークマといった製造/工作機械メーカーとのパートナーシップを進めていると説明した。

 また、都市領域においては、京都府木津川市において実証実験が展開されているスマートライティング(街灯のスマート化)、防犯カメラシステムの事例ビデオを紹介した。これらの異なるソリューションも、Kineticプラットフォーム上で統合管理できるようになっており、「今後、新たな入札などを機に異なるベンダーのソリューションを導入することもあると思うが、Kineticではそれらを一括的に管理できる」と説明した。

都市向けのKinetic導入事例として、京都府木津川市における実証実験が紹介された。来年には道路の通行状況分析システムも展開予定

製造業向け、スマートシティ向けに7つの「スターターパッケージ」

 米シスコでインダストリーソリューションを担当するブライアン・タンゼン氏は、Kineticを中核に据えた7つの産業別ソリューション「Cisco Kinetic Starter Solutions」を発表した。内訳は、都市向けが5つ、製造業向けが2つだ。

シスコがIoTビジネスで注力する5つの産業と、今回発表された「Kinetic Starter Solutions」7つ(緑色のもの)

 「これはKineticと、そのほかに必要となるすべてのコンポーネント(ハードウェア、ソフトウェア、サービス)をパッケージ化したソリューションとなる。現在、IoTに対する企業の注目度は高まっているものの、IoTプロジェクトの成功率は26%程度。(うまくいかない)理由は、コンポーネントどうしの組み合わせが非常に複雑だからだ。われわれは、Kinetic Starter Solutionを通じて“100%の成功率”を提供していきたい」(タンゼン氏)

 Kinetic Starter Solutionsは、サードパーティ製品を含む認証済みコンポーネントをパッケージ化して提供することで、短期間で確実なIoT導入を可能にする。スモールスタートでROI(投資対効果)を実証したのち、徐々にスケールアップしていくことができる仕組みだ。シスコでは、初期コストは「概して5万ドル以下」で、数週間の取り組みで「目に見えるビジネス価値を実現する」としている。

 製造業向けソリューションとしては「エネルギー監視」と「コネクテッドマシン(機器の健全性監視)」がラインアップされている。エネルギー監視の場合、Kineticに加えて耐環境性の高いシスコの産業用イーサネットスイッチ、電力計8台がパッケージされる。またコネクテッドマシンのソリューションでは、産業機械からデータを自動収集することで、生産状況や生産時間の可視化、機器の健全性監視、生産スケジュールの改善などにつなげる。

製造業向け「エネルギー監視」のKinetic Starter Solution概要

 また都市向けソリューションでは、パーキング、屋外照明、アーバンモビリティ(渋滞監視/交通管制)、環境モニタリング、防犯がラインアップされている。それぞれKineticに加えて、認証済みサードパーティ製品を含むカメラやセンサー、アプリなどが提供される。

 タンゼン氏は、都市向けIoT領域では「60のセンサーベンダー、15のアプリケーションベンダーが、すでにKineticのAPIを活用している」と述べ、サードパーティのエコシステムも拡大しつつあると説明した。

都市向けのKinetic Starter Solution概要

 なお濵田氏によれば、日本市場におけるKinetic Starter Solutionsの提供開始は年内を予定している。「シスコでは、KineticでオープンなIoTデータファブリックを目指している。これを活用しながら、顧客企業のIoTビジネス推進に協力させていただきたいと考えている」(濵田氏)。

日本市場では年内の提供開始予定

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