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業界人の《ことば》から 第263回

情報サービス産業は「価値創造産業」へと生まれ変われるか

2017年09月20日 09時00分更新

文● 大河原克行、編集●ASCII.jp

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今回のことば

「デジタルビジネス革命において、日本は大きく遅れをとっている。情報サービス産業は、日本のソフトウェアエンジニアの75%を占めている業界。当業界の責任が大きいと感じている」(一般社団法人情報サービス産業協会・横塚裕志会長)

 一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)は、ソフトウェア企業やシステムインテグレータなどが加盟する業界団体だ。1970年に設立した社団法人情報センター協会と、同じく1970年に設立した社団法人ソフトウェア産業振興協会が、1984年に合併して誕生した団体であり、IT産業の業界団体のなかでも長い歴史を持つ。現在、552社が参加している。

 そのJISAは、情報サービス産業全体を「システム受託産業」から「価値創造産業」へ大きく生まれ変わらせることに取り組んでいる。

業界のなかには強い危機感

 情報サービス産業協会・横塚裕志会長(東京海上日動システムズ顧問)は、「情報サービス産業の各社の業績は好調であった。だが、業界のなかには強い危機感がある。受託開発型のビジネスがこれから減少していくなかで、食いぶちをどこに求めるのか。その観点からみれば、新たなビジネスモデルを作っていくことが必要である。いまのままでは限界がある。業界全体が変わっていかなくてはけいない」と警笛を鳴らす。

 同協会によると、情報サービス産業における上場会社は167社。そのうち、2016年度業績で113社が増益になったという。確かに、産業全体の好調ぶりを裏付ける結果だ。だが、クラウド化が急速な勢いで進展していることや、金融機関や公共機関の大型投資が一巡したことなどを考えると、受託開発型のビジネスは減少傾向に転じるのは明らかだ。

 「受託型から、課題発掘型、提案型、サービス提供型へとシフトし、新たな成長に向けて経営資源をシフトすることが大切である。また、決められたものを作るという受け身から、顧客とともに新たなビジネスを創出していく視点が必要である。課題先進国である日本において、ソフトウェアによって課題解決に貢献していきたい」とした。

 そして「第3次産業革命をサポートする体制が不十分」と、横塚会長は情報サービス産業全体の体質改善が急務であることを指摘。「世界で進展するデジタルビジネス革命において、日本は大きく遅れをとっている。情報サービス産業は、日本のソフトウェアエンジニアの75%を占めている業界であり、その点では、当業界の責任が大きいと感じている。いままでの仕事の仕方では難しい。業界および各社を変革していく必要がある」と続ける。

JISA Spiritの実現のために

「JISA Spirit」(情報産業ウェブサイトより)

 JISAは2015年10月に「JISA Spirit」を発表した。

 「ソフトウェアで『!(革命)』を」をスローガンに、情報サービス産業そのものをより高いレベルに引き上げ、若者に情報サービス産業の魅力を伝えるのが狙いだ。

 JISA Spiritを具現化するために「世界で勝ち抜く技術者を育成していかなければならない」「第2の創業の心意気で新たなビジネスを生み出していかなければならない」という2つの覚悟を示したほか、「経営のビジネスモデル・シフト」「技術者のマインド・シフト」「みんなでワーク・シフト」という3つのシフトを推進する考えを示す。

 「経営のビジネスモデル・シフト」では、受託開発型から、課題発掘、提案、サービス提供型にシフト、人や研究開発、技術、新規事業など新たな成長に向けた経営資源のシフト、自前主義からオープンイノベーションへのシフトを目指す。

 また「技術者のマインド・シフト」では、受け身から「顧客とともに新しいビジネスを創出していく」との視点へとシフト。求められる新しい技術や開発手法の積極的習得とデザイン思考の体得のほか、デジタルビジネス革命の波は、若者が「社会を変え、世界で活躍する」チャンスとの認識を業界内に定着させたいとする。

 そして「みんなでワーク・シフト」では、「経営のビジネスモデル・シフト」と「技術者のマインド・シフト」という2つのシフトを支えるビジネスプロセス(取引適正化、収益性向上)と、働き方のシフトを推進。また、「課題先進国・日本」の解決において、求められるソフトウェアにより貢献し、あわせて潜在需要の掘り起こしや、他の産業との連携を強化。情報サービス企業を軸としたエコシステムの構築に取り組むという。

JISAの横塚会長

 横塚会長はJISA Spiritと3つのシフトを示しながら「ソフトウェアはすべての産業の基盤であり、情報サービス産業にはすべての産業が、世界で勝てるようリードしていく使命があることを強く認識している。だが、情報サービス産業が大きな曲がり角にきている。この業界をどう変化させていくかという観点から、第2の創業の心意気で新たな活動を開始したところである」と語る。

 会員会社のなかからは、「退路を絶つ形でイノベーションに取り組んでいく会社が少ない」「予算をもらって、見積もりを書き、それで仕事をスタートするという仕組みでは変わらない」「生産性の果実はユーザーが取り、ソフトウェア産業の企業は、収益性があがっていないのが実態」「PoCの繰り返しにより、PoC貧乏になってしまう企業もある」といった実態を懸念する声のほか、「システムエンジニア不足が課題であり、持続的な成長を考えると、若い人材をいかに獲得するかが鍵になる」といった声もあがる。

 企業のデジタルトランスフォーメーションにはソフトウェアが不可欠。だが、そこに日本のソフトウェア企業が追いついていないというのが、JISAの見解だ。情報サービス産業全体を「システム受託産業」から「価値創造産業」へと生まれかわらせることができるか。個々の企業の努力が最も重要ではあるが、業界団体としてのけん引力も試される。

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