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「avenue jam」特別対談 第4回

対談・Planetway平尾憲映CEO×ジャパン・リンク松本徹三社長 第3回

なぜ良いモノが売れないのか? ニワトリとタマゴのジレンマ

2017年09月19日 09時00分更新

文● 盛田諒 ●編集 村野晃一

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 プラネットウェイはグローバルIoT事業を中心に利用できる個人情報プラットフォームを開発している米国、日本、エストニアに拠点を置くグローバルスタートアップだ。電子政府国家エストニアで15年間使われてきた行政インフラを世界で初めて民間転用した企業として、IoT業界や保険業界を中心に注目を集めている。

 同社代表 平尾憲映CEOのビジョンは大きく「世界を変えること」。平尾代表のもとには、壮大なビジョンに魅せられた有力者たちが次々に集まっている。元ソフトバンク副社長で、プラネットウェイの顧問役に就任している松本徹三氏もその1人だ。

 前回、自らベンチャーを立ちあげて壮絶な地獄を見たことがあったと語った松本氏。ビジネスのエキスパートとして、立ちあがったばかりのプラネットウェイの成功に必要と感じているものは「ニワトリとタマゴのジレンマ」を打ち破ることだという。

Speaker:
プラネットウェイ 代表取締役CEO
平尾憲映

1983年生まれ。エンタメ、半導体、IoT分野で3度の起業と1度の会社清算を経験する。学生時代、米国にて宇宙工学、有機化学、マーケティングと多岐にわたる領域を学び、学生ベンチャーとしてハリウッド映画および家庭用ゲーム機向けコンテンツ制作会社の創業に従事。在学時に共同執筆したマーケィングペーパーを国際学会で発表。会社員時代には情報通信、ハードウェアなどの業界で数々の事業開発やデータ解析事業などに従事。

プラネットウェイ アドバイザリーボードメンバー
松本徹三

1940年生まれ。京都大学法学部を卒業後、伊藤忠商事 大阪本社に入社。アメリカ会社エレクトロニクス部長、東京本社の通信事業部長、マルチメディア事業部長、宇宙情報部門長代行などを歴任後、1996年に伊藤忠を退社して独立。コンサルタント業のジャパン・リンクを設立後、米クアルコム社の要請を受けてクアルコムジャパンを1998年に設立し、社長に就任。2005年には、同社会長 兼 米国本社Senior Vice Presidentに就任し、発展途上国向け新サービスの開拓などに取り組む。2006年9月にクアルコムを退社し、同年10月にソフトバンクモバイルの取締役副社長に就任、主として技術戦略、国際戦略などを担当。2011年6月からは取締役特別顧問になり、1年後に退社する。2013年11月に、休眠していたジャパン・リンクを復活させて、現在はソフトバンクを含む国内外の通信関連企業数社とのアドバイザリー契約がある。2013年から2年間、明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科の特別招聘教授も務めた。最近の著書に『AIが神になる日』(SBクリエイティブ、2017年7月)がある。

ニーズもあり技術もいいのに
量産できず高くて売れないジレンマ

平尾 じつはプラネットウェイも、1年前は地獄でした。その時は考えていた事業がまったくうまくいかず、従業員は全員解雇して、株もすべて自分で買い取りました。

松本 きわどかったね。でも最初の試練は何とか乗り越えたわけです。

平尾 それでもトーニュさん(トーニュ・サミュエルCTO。MySQL共同開発者)が来てくれそうだとわかったときは、苦しい中、無理してなんとかお金の算段をつけました。

松本 正しい決断でした。格段に優れた技術屋がいなければ、プラネットウェイのような会社は成り立ちませんからね。エストニアの技術を日本にもってくるだけでは駄目で、日本市場に適応して自分たちならではの技術を持たなければなりません。しかし、難しいのはお金がないと一流の技術者が来てくれないこと。そこがベンチャーのニワトリとタマゴです。

 私が思うには、うまくいかない仕事は、大抵ニワトリとタマゴのジレンマをくずせないでいます。新しいモノを作りたいが、量産できないから価格が高くなる。価格が高いから売れなくなる。だから量産に踏み切れない。この繰り返しです。会社が怪しげな状態だと、一流の技術者は面白いと思っても二の足を踏む。だから良いものが出来ない。これもニワトリとタマゴのジレンマです。孫正義さんなんかは、強い決断力で大きな資金をつぎ込む事によって最初のニワトリを生み出し、このジレンマを打ち砕くことで成功を呼び込んでいます。

 携帯電話もこのジレンマに打ち勝てた好例です。

 いつでもどこでも電話ができるという今までにない大きなメリットがあったからです。「高いけど社長には持たせておきたいよね」ということで小さなマーケットができた。そうなると、「価格をあと3割下げれば部長級にも売れるね」ということになる。このサイクルがどんどん進んで、ついに誰もが持てる時代になったのです。

 あなたがやっていること(プラネットウェイの事業)にしても、まだそんなに大きなニーズは見えていませんが、そこにドンと投資してくれる人がいれば、どんどん上向きのスパイラルが作り出せると思います。

平尾 その意味だと、東京海上日動さんのような大企業と組めたことが大きかったです。 それから 孫泰蔵さんにも、「個人情報をコントロールする技術がこれから必要になる」ということを見抜いていただけ大きな規模の投資をコミットして頂けたことも大きかったです。これで、独自開発の「Planet ID」に力をいれていくことが出来るようになりました。

松本 これでなんとか最初のニワトリは確保できたということですね。市場ニーズもあり技術の筋もいいと思いますから、あとは絶対にカスタマーを満足させなければなりません。 「もう文句のつけようがありません」と顧客に言ってもらえるところまで徹底的に作り込まないといかんですよ。あなたの会社が追及すべきものは、一にも二にもカスタマー・サティスファクションですから。

平尾 そのとおりだと思います。ぼくの役割はマーケティングと事業開発です。だから超一流の技術力をもったCTOのトーニュとタッグを組んでやっていきたいなと思っています。ただ最近悩んでいるのは、新しい従業員をどうやって入れていくかなんですよね。

松本 人を採るなら、少なめの方がいいよ。あなたの会社なんて入りたいという人は結構多いはずだけど、数がいればいいってもんじゃない。人数に余裕があると余計なことをしだす。そうなると、組織全体がダレるんです。人間というものは不要な仕事をつくる天才ですからね。「忙しくて仕方ない、どうにかして」と言われて初めて採るくらいの方がいい。厳しくバランスを考えて、必要最小限に採るべきです。優れた人間であればある程ヘトヘトになったときのほうがいい仕事ができるから。

平尾 いま積極的に採用しているのは40代後半から50代半ばくらいの人たちなんです。「これで失敗したら家を売って田舎に帰る」というくらいの人もいて。

松本 そういう人にチャンスを与えるというのは、社会のためにもいいよね。あなたの様な人は大企業がやらないことをどんどんやって世の中を変えていくべきだと思います。そういう人の中には、いま大企業の中で生き残っている人より優秀な人がたくさんいるはずだから、その人にとっても、あなたの会社にとっても、そして、社会にとっても、みんなにいいことになると思いますよ。

平尾 ただ、ぼくが最年少に近く、まわりの人達の方が圧倒的に経験はあるんですよね。どうやって接すればいいかというのは悩みます。

松本 経験ある人にはなんでも言ってもらうことですね。「自分はガッツだけで生きているので、みなさんの経験から学びたいんです」と言って。そこで「いや勉強になりました」と素直にうなずくことが大切です。最も、彼等のアドバイスをそのまま聞きいれるかどうかは別の話ですけれど。人は誰でも自分がリスペクトされていると感じると気持ちがいいものです。誇りをもって仕事ができるからいい仕事ができるのです。「良い社長じゃん、一寸変なとこもあるけど」と思ってもらえたら大成功です。

平尾 実はぼく、松本さんにはプラネットウェイに入っていただくことで、同年代の方々の星になってもらいたいと思っているんですよね。70~80歳になってもベンチャーにいるカッコいい存在として。「おれなんかまだ70歳だからな、ガンバロウ」と感じてもらいたいと思っていて。

松本 「星」という柄じゃありませんが、「励まし」くらいにはなれるかもしれませんね。多くの人が「長年やってきたエキスパート」として働く場をえられれば、社会コストも減らせます。まだ働ける人が年金ばかり受け取っていたらダメですよ。年寄りは出しゃばったら駄目だし、若い人の仕事を奪ってはいけませんが、やれる事を黙々とやれば、みんなから感謝されると思います。 平尾 ありがとうございます。最後に松本さんには、「次に来る世界観」について伺いたいと思っています。日本の個人情報はどう変わっていくべきだと考えていますか。

松本 日本は個人情報についてのバランス感覚がない様に思います。何かというと「保護」という話にしかなりませんが、これは順序が逆です。個人情報は先ずはそれをフルに利用することに価値があるんだから、そこが出発点でなければなりません。

(つづく)

(提供:プラネットウェイ)

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