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第一三共、「英社から買収提案」を否定も敵対的買収対策強化の謎

2017年09月14日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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アストラゼネカから買収提案を受けたと報道された第一三共 Photo by Masataka Tsuchimoto

 国内3位の大手製薬である第一三共が8月31日夜、短いリリースを出した。「過去に(世界のメガファーマの一つである)英国アストラゼネカ社(AZ)から買収提案を受けた旨の報道がありましたが、そのような事実は一切ございません」。同日午後のオンラインニュースを受けての対応だった。

 このリリースを額面通り受けとる投資家はどれだけいただろうか。企業のリリースはセンシティブなものほど、疑ってかかるのが常。例えば2000年代の国内製薬再編の過程であった山之内製薬と藤沢薬品工業の経営統合報道に対し、両社は直後「会社決定された事柄は無い」などと釈明。だが、ほどなくして合併した(現アステラス製薬)。

「報道では第一三共は昨年断ったとされるが、AZはあきらめていないのでは」。そんな投資家の推測もあり、株価は報道直後、30日終値と比べて約13%上昇した。

 半信半疑は一部の第一三共社員も同じ。ある幹部の解説を披露しよう。

つながる三つの事

 8月31日午後、報道が流れると社内に動揺が走った。“寝耳に水”ではあったが、一部では自然と受け入れられたという。なぜなら最近あった三つの出来事が、今回の報道により一本の線でつながったからだ。

 三つの出来事とはすなわち、(1)16年4月に元AZがん領域グローバル開発ヘッドのアントワン・イヴェル氏が、がん研究開発部門のトップに就任。(2)16年10月に第一三共が次代の主力製品と位置づける抗体薬物複合体「DS-8201」の良好な新薬開発試験(第1相)結果を欧州臨床腫瘍学会で発表。

 ここまではオープンな情報だが、一部社員だけが知る“決定打”が、この幹部によると、(3)16年秋に「敵対的買収対策を強化した」ことだった。社内の対策本部に、指折りのメンバーが招集されたという。

 第一三共はそれまで、主力製品の高血圧症治療薬、オルメサルタンの特許切れを迎えて沈んでいた。その中で光り始めた「DS-8201」という新薬候補は第一三共の期待の星。学会発表前に俄然社内の雰囲気は盛り上がった。そのため、「買収対策は超大型製品になる可能性を秘めた『DS-8201を守るため』と思っていた。具体的な買収提案までは想像していなかった」とこの幹部は驚く。

 (1)~(3)で推測されるところは、アントワン氏が世界では小粒の第一三共に移籍し((1))、移籍前後からAZも第一三共に関心→DS-8201の期待値が判明((2))ただしAZは発表前から既に注目していた可能性も→(1)(2)の過程のどこかでAZが買収提案したが第一三共首脳は断り、逆に防衛策を強化した((3))――。だとすれば話は一本につながる。以上がある幹部の解説だ。

 業界関係者は(1)~(3)に加えて、「第一三共は都心の一等地である品川の研究所など、いろんなアセットを持っている。お買い得と見られたのでは」と推測する。

 重ねて言うが、第一三共は買収提案報道を完全否定している。だが、金融関係者の間では「提案を受けた第一三共が外資系証券会社に泣きついていたらしい」という情報などを根拠に、「取締役会にレターが送られてくる正式な買収提案ではないかもしれないが、やはり提案はあったようだ」との説がまことしやかに流れている。

 いずれにせよ、「再編が不十分で不完全燃焼の会社がいっぱいある」(クレディ・スイス証券の酒井文義アナリスト)とされる国内製薬各社に緊張が走ったのは確かだ。

 長らく医療用医薬品の公定価格である「薬価」制度に守られてきた国内製薬会社だが、現在議論中の薬価制度改革は「革新性」に重点を置き、特許切れの長期収載品で食いつなぐ有象無象の製薬会社を淘汰する方向に進んでいる。要は「新薬メーカーなのだから研究開発力で勝負せよ」と尻を叩かれているわけだ。

 そんな国内事情に鑑みて、業界関係者からは「もし第一三共が欲しいと思われたのなら、研究開発力を評価されたということ。日本の製薬会社として誇るべき」といった声も聞こえてくる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 土本匡孝)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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