このページの本文へ

暴走ベビーカーで話題に!ヤマハ・トリシティ125の「スゴい技術」

2017年09月14日 06時00分更新

文● 待兼音二郎(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
前二輪が連動して傾くバイクの技術を多くの人に分かってもらおうと、ヤマハ発動機がつくった「LMWベビーカー」。さまざまな障害物をものともしない“走り”のWeb動画広告はユニークだ(試作品で、市販の予定はありません)

 技術者たちの汗の結晶、業界通なら誰もが舌を巻く画期的な新製品…ではありながら、一般消費者にはなかなかその真価を理解してもらえず、価格の割高さばかりが槍玉に挙げられる――。

 技術立国日本には、そういったマーケットの不理解に技術者が悩み、経営陣が頭を抱える例が、それこそあちこちにあるのだろう。

 ヤマハ発動機が2014年9月に発売した「トリシティ125」は、前二輪が連動して傾く三輪式のスクーター。同様の機構としてはイタリアのピアジオ社が06年に発売したMP3シリーズがすでにあったが、こちらはヤマハが1970年代から温めてきた三輪バイク構想のひとつの到達点として独自開発で完成させたもので、信号停止時に自立するロールロック機構をあえて省くなどの選択と集中が随所に光る。

 この「トリシティ125」は、別次元ともいえる旋回性能と制動性能がライダーに高く評価され、17年1月には高速道路/自動車専用道路も走行可能な155ccモデルが新設計のフレームやエンジンを導入して発売され、数ヵ月の納車待ちが発生する人気ぶりになっている。

ヤマハ「トリシティ125」 Photo:DOL

 だがその好評が、長年のオートバイ愛好者や業界内だけに留まり、外に広がっていかない悩みがヤマハにはあった。三輪ゆえの安定性から、これまでスクーターの利用を億劫に感じていた女性などに選んでもらえるポテンシャルがありながら、バイクに乗らない人にはなかなか振り向いてもらえなかったのだ。

 そこでヤマハが打ち出した奇策が、「LMWベビーカー」のWeb広告だ。トリシティに採用された前二輪の傾き機構「LMW(リーニング・マルチ・ホイール)テクノロジー」の概念をベビーカーに応用し、トリシティと同じように傾くことによる安定性のメリットを広く一般にアピールしたのだ。

 百聞は一見に如かず。まずは次のページで、人気イクメンインスタグラマー「クレイジーパパ」が、LMWあり/なしの違いを実演した動画をご覧いただきたい。

路上の障害物もなんのその
LMWベビーカーの凄さ

 フォロワー数が4万人を超えるイクメンのインスタグラマー「クレイジーパパ」が上半身裸で押すのは、ヤマハが内製した「LMWベビーカー」。前二輪が傾くLMW機構を固定金具によってオン/オフできるようになっていて、路上のさまざまな障害物にその両方の状況で挑む。

 スケートボードの曲面状のコースに、厚さ5センチほどと思われるコンクリート平板を左右に平行に並べた路面、さらには縁石に片輪を乗り上げた場面で、袋入りの果物をぶら下げたベビーカーを、クレイジーパパが凄い勢いで押していく。おまけに終盤には、張りぼての壁を突き破るサービスシーンまでがついてくる。

「ベビーカーでそんな風に走るわけないでしょ。バカバカしい」と思われただろうか?だが、そのバカバカしさこそがヤマハの狙いなのだ。

 LMWオン/オフの安定度の違いは、動画から一目瞭然。スケボーコースの曲面に乗り上げて方向転換をする場面ではベビーカーを倒して果物をぶちまけてしまい、コンクリート平板の並んだ路面では左右に揺さぶられてとてもまともに走れたものではない。ところがLMWオンでは、どちらも危なげなくクリアしていく。

 ふつうに乳児を乗せて歩道に乗り上げるというような場面では、実際に使えばLMWのよさに気づいてもらえるにしても、映像としては見た目が地味で、心揺さぶるインパクトがない。そこで、あえてベビーカーの暴走ともいうべき突飛で豪快な映像に仕立て、人目を引いているのだ。

 と、ここまではいいとして、では、どんなところからこの企画は立ち上がったのか?

「やはり、バイクのノンユーザーの方々にリーチしたいという思いが強くありました。我々が日常生活で接する車輪つきの道具をあれこれ考えるなかで、じゃあベビーカーでいこうという話になり、3ヵ月弱をかけて手作りしました。LMW機構をベビーカーに当てはめることに、いろいろと試行錯誤はありましたが、一般のベビーカーからかけ離れたものにはしていません。たとえばこのタイヤは、ずいぶん大きく感じられるかもしれませんが、市販のベビーカーにもあるサイズなのですよ」(ヤマハ発動機株式会社 コーポレートミュニケーション部 コンテンツグループ 主査 辻井栄一郎氏)

Webならではの
斬新な広告の持つ可能性

 このLMWベビーカーを皮切りに、ヤマハは「もしも○○がLMWだったら?」という特設ページを公式サイト内に設けて、第2弾、第3弾も企画している。第2弾は「LMWスーツケース」で、第3弾は「LMW学生コンテスト」。これは理工系の大学生たちにLMW応用のアイデアとプロトタイプで競ってもらう企画で、コンテストは8月21日~25日に実施され、その模様を紹介する動画が9月公開予定となっている。

 このヤマハのWeb広告戦略は、さまざまな示唆に富んでいる。

 似たような先例としてまず浮かぶのが、瞬間接着剤アロンアルファのテレビCMだ。瞬時に強力に接着するアロンアルファの便利さと用途の広さを、割れたレコードの破片を接着して再び聴けるようにするCMや、ウィリーで走ってきたトライアルバイクの前輪が柱に貼りついてしまうCMなどで鮮烈に印象づけ、消費者が気づいていなかった接着剤マーケットを開拓した。

 テレビCMはそのように波及力が非常に大きいが、予算がかさみ、またSNSの普及による炎上がたびたび起こるようになったことで、かつてのような冒険がしづらくなっているという、近ごろならではの事情もある。

 その点、Web広告には、低予算で冒険がしやすいという利点があるのだ。

 たとえば、コンドームの国内シェアNo.1を誇る化成品メーカー・オカモト株式会社には、「オカモトゼロワンCM 恐竜篇」という動画CMがある。ティラノサウルスの交尾をユーモラスに描いたもので、テレビではとてもじゃないが放送できっこない構図だ。これもまた、Webならではの冒険的企図に満ちたCMとして、大いに参考になる。

 一方、ヤマハのLMWベビーカーは、ライダー以外には真価が伝わりにくいLMWテクノロジーを使う土俵を我々の日常生活内にシフトさせ、派手なパフォーマンスでそのすばらしさを一般の人々にも強く印象づけるものだ。手法としてはアロンアルファのテレビCMに似ているが、Webならではのフットワークの軽さで手を変え品を変えて挑めるところに新たな可能性を感じる。

 テレビCMほどの直接的な波及力はなくとも、SNSのバズりをうまく追い風にすれば、大きな費用対効果も期待できるだろう。ヤマハの「もしも○○がLMWだったら?」シリーズは、そのように広告戦略のヒントに満ちている。

(待兼音二郎/5時から作家塾(R))


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事

ASCII.jp特設サイト

最新記事

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

アスキー・ビジネスセレクション

ピックアップ