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東証がITシステムに初採用した「謎の米ベンチャー企業」の正体

2017年09月12日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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東証は米国の新興ソフトメーカー、ニュータニックスが提供するシステムをIT基盤に採用。実はじわじわと日本企業に浸透しつつある Photo:アフロ

長年、大手のITベンダーの牙城だった金融機関や自治体のITシステム。この牙城に異変が起きている。名だたる優良顧客が続々と、ITシステムを設立わずか8年の米国のベンチャー企業が提供するものに置き換えているのだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

 東京・兜町で8月、ある“事件”が起きた。これまで大手日系ITベンダーが長年独占してきた東京証券取引所のITシステムを、一般人はほとんど聞いたこともない謎の企業が受注したのだ。

 その企業の名はニュータニックス。米オラクル、グーグルなどの出身のエンジニア3人が、2009年に創業したばかりの米国のソフトウエア会社だ。

 東証は多種多様なシステムを抱えており、株式などの売買を行う取引系の基幹システムと、上場企業の銘柄管理などを行う約30の情報系システムに大別される。

 東証は今回、取引系以外の情報系システムの全てのインフラ部分でニュータニックスの採用を決めた。情報系システムの中には新規上場企業の審査情報や、投資家への情報配信など、重要情報を取り扱うシステムも多くある。デスクトップ仮想化システムを皮切りに、3〜5年かけて全ての情報系システムのインフラに広げていく計画だ。

 東証の決断の裏には、これまでは富士通などが担当してきたシステムへの不満がある。

 現行システムでは、ベンダーが自社ハードウエアを用意してその上にソフトを搭載し、それぞれの機器をつなげるシステムインテグレーションから稼働後のシステムの保守・運用までを全て担当してきた。

 ところが、こうして作られたシステムは非常に使い勝手が悪いものになってしまっていた。これまでシステムの一部を変更しようとすると、ちょっとした変更にも数カ月かかる上、システムの維持コストの約70%はベンダーに支払う運用費に費やされていた。

 一方で今回導入が決まったのは、ニュータニックスのハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)。直訳すると「超集約化基盤」というシステムだ。

 東証の現行システムは情報を処理するサーバー、データを蓄積するストレージ、ネットワークと接続するスイッチなどの複数種類のハード、そしてその上で動くアプリケーションから成り立っていた。

 HCIではこれらをソフトで管理することで、あたかも1台のサーバー上にあるようにまとめて利用することができる。実際にハードを増設しなくても、まるで複数あるかのように利用したり、逆に一つのハードを分割して利用したりする「仮想化」という技術も活用できる。

 そのため、多数のハードで回していたシステムが、小さなサーバー数台で運用でき、システム構成の変更も非常に短期間で行える。ソフトとの互換性を確保できれば、ハードはどこのものでも構わない。

「今回の変更で、これまで富士通など外部に委託していた運用の95%を社内で行うことができる。また、開発期間も大幅に短縮できる」と導入を決めた東証IT開発部の坂本忍前情報システム部長は期待する。

維持費の増大に“サイロ化”で離脱が相次ぐ

 実は、東証以外にも従来型のITシステムをニュータニックスのものに置き換える金融機関が増えている。背景にはITベンダーに振り回された歴史が関係している。その一社がオリックス生命保険だ。

 オリックス生命の菅沼重幸常務は「これまでITベンダー各社は基本的に全てのハードを自社のものでそろえ、データセンターも自社のものを使わせる提案をしてきた」と言う。だが、このようにしてベンダーが全てを作り込んでしまったシステムは、いわば顧客側が中身を触れない“サイロ”のようなもので、「こうしたシステムが、アプリケーションを追加するごとに幾つも追加されてきた。結果として、不要な機能や陳腐化したハードがあっても、それらを容易に変更することもできなくなっていた。それを解決し、自社で主体的にシステムを作って運用するために導入を決めた」と菅沼常務は明かす。

 他にも、ほくほくフィナンシャルグループ、札幌市、横浜市などが、立て続けにこれまでのITシステムに代えてニュータニックスの採用を決めたという。

 お堅いはずの金融機関や自治体がベンダー変更に動くのは、ITシステムが“金食い虫”と化しているからだ。調査会社IDCによると、全世界でITシステムの維持に掛かる費用は、15年には10年前の8倍の約128兆6230億円にまで膨らんだ。

 “システムの全てを自社ハードでそろえ、その後の保守・運用で稼ぐ”という、これまでの日本のITベンダーのやり方は顧客に受け入れられなくなってきている。

 実際に東証でも、「日系ITベンダー数社にも提案書を出してもらったが、こちらの要望を全く取り入れず従来型と同じものが出てきた」と前出の坂本前部長は憤る。

 実のところ従来のビジネスモデルを再構築しなければ、事業の存続すら危うい状態に、ITベンダー各社はすでに置かれているのだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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