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三菱UFJ信託が三菱自の社長人事にNO!議決権行使「仁義なき個別開示」

2017年09月12日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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三井住友信託銀行(右)、三菱UFJ信託銀行(左上)、みずほ信託銀行の信託大手3社は今夏、そろって議決権行使の個別開示に踏み切った photo by Takahisa Suzuki

株主と企業のなれ合いを招き、緊張感なき経営の助長が問題視される株式持ち合い。近年はその解消が進んできたが、実は「隠れたなれ合いの構図」ではないかと疑いを掛けられてきたもう一つの問題は手付かずのままだった。しかし、ついに今年の株主総会から疑惑払拭に向けた試みが開始。波乱を呼んでいる。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

「目立ちたくなかったのでこっそりホームページに載せたが、メディアは待ち構えていたようだ。あっという間に派手な見出しが付いたニュースになって出回った」。ある信託銀行の関係者はそう苦笑いした。

 メディアが待ち構えていたというその代物とは、信託銀行が今夏初めてオープンにした議決権行使の個別開示の結果だ。

「議決権」とは、株主が企業の株主総会において経営陣選びや資産の使い道など重要案件を決める際に用いる“投票権”のこと。票を賛否どちらに投じたのか、個別企業の議案ごとに全て開示したのだ。

 対象となった企業と議案の数は、信託銀行で最多だった三井住友信託銀行で1710社、1万8709件にも上る。そして、その開示資料の中には、通常ではあり得ない“光景”が広がっていた。

 例えば、三菱UFJ信託銀行による個別開示では、同じ三菱グループである三菱自動車の株主総会において、会社側が提案した取締役11人中5人の人事案に対してNOを突き付けたことが明らかになった。

 その中の1人は会社トップの益子修社長であり、昨年発覚した燃費不正問題という「不祥事に関し責任があると考えることから反対」を表明。また、反対票を投じた5人の中には、社外取締役の候補者だった三菱重工業の宮永俊一社長と三菱商事の小林健会長も含まれている。三菱グループ御三家の首脳陣を、いずれも「独立性の観点から問題がある」とした。

 さらに、同じ三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)内の三菱UFJリースの株主総会においてさえ、社外取締役の候補者のうち3人に反対票を投じた。「取締役会への出席率が低い」ことや「独立性の観点から問題がある」ことがその理由だ。

 また、監査役の候補者の中には自社の執行役員まで務めたOBがいたが、その人物にも「独立性の観点から問題がある」として反対を表明している。

 一方、みずほ信託銀行は、親会社であるみずほFGの株主総会において、会社側の意思表示とは逆の票を投じたことが明らかとなった。みずほFGが反対を表明していた株主提案の議案17件中、「役員報酬の個別開示」を含む4件について賛成票を投じていたのだ。

 三井住友信託銀行も、多くの取引先の株主総会において反対票を投じていたことが、今回の個別開示によって判明している。

グループ企業の内紛
親会社への“下克上”
取引先への無配慮か

 グループ企業間の内紛や親会社への“下克上”、取引先への無配慮とも映る信託銀行の投票行動。保守的な金融業界において異例の無秩序状態に思えるが、これぞ「あるべき姿」という側面もある。

 というのも、実は信託銀行が行使結果を個別開示した議決権とは、彼ら自身のものではないからだ。

 信託銀行は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的年金や企業年金などの機関投資家から資産運用を任されており、彼らが本来持つ議決権を代理で行使するにすぎない。そのため、たとえ自社と親密なグループ企業や親会社、取引先だとしても手心を加えることは許されないのだ。

 ただ、信託銀行関係者は「これまでも適切に行使してきた」と口をそろえるものの、今まではそれを判断するすべがなかった。また、信託銀行は資産運用会社と融資を行う銀行という二つの“仮面”を使い分けてきた。その結果、融資先という顧客も持つことになり、機関投資家にとって利益相反となる手心を融資先に加えていないかという疑いを掛けられてきた。

 それが実際に起きていれば、株式の持ち合いと同様に企業の緊張感なき経営を助長する恐れがある。

 その疑惑を払拭するために打ち出されたのが議決権行使の個別開示だった。つまり、前述の無秩序状態は、自社の親密先ではなく機関投資家を最優先していることの証明になり得るというわけだ。

 そして今、個別開示は生命保険会社や純粋な資産運用会社など、同じく機関投資家に資産運用を任されている企業にも広がっている。

 個別開示に対する慎重論も一部ある。ある外資系資産運用会社の担当者は、「議決権行使の対象企業とは非公開を前提に腹を割って話すところがあるため、影響を見極めたい」と明かす。生保最大手の日本生命保険も個別開示を見送った。「企業との対話への影響や反対先企業の株式を売却するという臆測による株価下落」を招くリスクなどを理由に挙げている。

 ただ、生保業界も9月5日に住友生命保険が大手初の個別開示を実施。第一生命保険も続く予定だ。

 議決権行使の「個別開示元年」となった2017年。利益相反疑惑を払拭するためにも、来年以降もこの流れは一層強まるだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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