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呑んべえ排斥は是か非か!?国は酒の経済効果を低く見積もりすぎだ

2017年09月12日 06時00分更新

文● 岡田光雄(ダイヤモンド・オンライン

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世界的に飲酒による健康被害が問題視され、2020年の東京オリンピックに向けて日本でも酒規制の動きが強まっている。そんななか、「産業と文化としても酒場という場は大切です!」と語るのは、『コの字酒場はワンダーランド ―呑めば極楽 語れば天国』(六耀社)の著者で、漫画『今夜はコの字で』(集英社)の原作者である加藤ジャンプ氏だ。

「呑んべえ失格者」の急増で
強まる酒規制

ちゃんとした店主は、泥酔したお客は断るもの。吞んべえが悪いのではなく、むしろ吞んべえ失格者たちが、酒のイメージを悪くしている

 今年6月、酒の過度な安売りを規制する改正酒税法が施行され、ビールや発泡酒の値上げが相次いだ。

 これに加えて、「居酒屋の飲み放題禁止」「バーとスナック以外での屋内全面禁煙」といった、飲食店を対象とした規制の話題も浮上するなど、呑んべえには面白くない時代だ。酒と呑んべえを題材にした作品で知られる加藤氏は、こんな現状をどう観察しているのだろうか?

 横浜駅(きた西口)を出てすぐのところに、昔ながらの酒場がところ狭しと並ぶ横丁がある。今回、加藤氏と待ち合わせた場所は、横丁の入り口に店を構える創業60年の老舗酒場「のんきや」。この店の常連である加藤氏おすすめのシロ(タレ)を肴に、瓶ビールで喉を潤しつつ取材はスタートした。

 まず政府のアルコールの大義名分である健康被害について、加藤氏に話を聞いた。

「たしかに健康被害は大変な問題ですよね。依存症を減らす対策を打つのは大事なことだと思います。ただ、ちゃんとした店主のいる良き酒場は、泥酔した客はお断りが基本ルールです。まずはどこで、どうして健康被害が発生しているのか見極めることが大事でしょうね」(加藤氏、以下同)

 アルコールは、口から入った後にアセトアルデヒドに分解される。アセトアルデヒドには毒性作用があり、動悸や吐き気、頭痛などを引き起こす原因となる。東京消防庁によると、2015年に急性アルコール中毒で救急搬送された人数は、1万5474人と過去最多だった。年代別に見ると、20代が6650人と突出して多い状況である。

「酒はたしかに依存しやすい嗜好品です。だから嗜むには自制心が重要ですよね。からむとか暴れるなんて人は、議論の余地なく飲んじゃダメ。できれば、誰もが若いうちに、年長の呑んべえといい酒場に行き、自分の適量や奇麗な酔い方を知ることができればいいんですけどね。飲み方を知らない人が増えてしまったのは、年長の呑んべえにも責任がある。率先して若い人にいい呑んべえの範を示さないといけないと思います」

 厚生労働省の調査によると、酒の飲み過ぎによる病気や怪我の治療費、労働損失は、年間4兆1483億円ともいわれており、その額はアルコール飲料の国内市場規模の約3兆6000億円を上回る。「酒は経済的損失をもたらす」というのが政府の見解なのだ。

300円の酒を飲みながら3000万の商談!
酒場は情報と金脈の宝庫

 かつてアメリカでは“アルコールは神からの贈り物である一方で、その乱用は悪魔の仕業によるもの”という金看板のもと、禁酒法(1920年~1933年)が施行され、アルコールの製造、販売、輸送が全面的に禁止されていた。その結果、アメリカでは反社会的勢力(マフィア)による酒の密造、国の税収の減少などの問題が生じ、同法は廃止を余儀なくされたという歴史がある。

「禁酒法は極端だとしても、厳格すぎる規制は、かえって反発を招くのではないでしょうか。一杯のお酒が呑んべえに消費されるまでの過程を考えても、統計の数字以上に、お酒のもたらす経済効果は大きい気がします」

 確かに、政府が医療費だけでなく、アルコールが原因で病気や事故を起こした際に発生する労働や雇用の損失にまで言及するのであれば、一方で酒の席で生まれるビジネス創出効果についても検証するのが筋というもの。日本には古くから“飲みニケーション”という言葉もある。

「そもそも酒場なら、300円のレモンサワーを飲みながら、3000万円の仕事の話ができるし、会社の役職に関係なく、いろんな立場の人がやってきます。商談成立まであと1つハンコが足りない…といった時に、酒場なら膝をつきあわせて取引先と話すこともできる。実際に時々、酒場で会った人と商売をはじめて成功した、なんて話も聞きます。ただ、ビジネスチャンスだけを目当てに酒場に来ても成功しないと思いますよ。酒を愛してない人は、酒場ではすぐに見透かされます」

 かの松下電器産業(現パナソニック)の創業者である松下幸之助が「一日休養、一日教養」といったが、この場合、後者をするための場が酒場ということである。

「若いビジネスマンのなかには、同僚や取引先との打ち上げも『勤務外は自由にしたい』と参加しない方もいるみたいですね。もちろん、酒なんて強要されて飲むものじゃないし、一緒に飲みたくないと人と無理に飲む必要なんてないですよね。僕も、会社員時代にさりげなくずっと断りつづけた上司とかいますから(笑)。ただ、酒の席にビジネスチャンスが転がっていることもある。誘う人も、誘われる人も、気楽に酒を楽しめばいい気がします。そこでビジネスチャンスに出合えたらもっけの幸いだし、そうでなくても酒は旨いし楽しいですから」

 アルコールによる健康被害というリスクはあるものの、日本の経済の一部は酒場を中心に回っている事実は、今も変わらない。のんきやの名物である「オフロ」を肴に日本酒を嗜み、朦朧とする意識の中、あくまで酒を生かすも殺すも自分次第ということを肝に銘じたのだった。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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