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日本の製造業×IoTのリアル、活用が進まない理由と解決策

製造業現場のIoTデータ活用を進めるためには……実態を知る3氏がディスカッション

連載
IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP

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 いま、あらゆる業界/市場において「IoT活用」への期待が高まっている。その中でも、有力な活用領域のひとつと目されているのが製造業だ。製造業の現場、つまり工場や生産プラントに設置されるさまざまな機器やセンサーからのデータを収集/分析/可視化し、活用することで、生産業務の改善、人員配置の最適化、機器の予防保守、製品歩留まりの向上など、幅広いメリットがあると言われる。実際に、メディアを通じて、国内外における「スマートファクトリー」「IIoT(Industrial IoT)」の成功事例もよく目にするようになった。

 ただ、ひとくちに「製造業」と言っても、実際にはその規模も内実も多様である。また、長い歴史を重ねてきた製造業の現場にまったく新しい仕組みを導入するうえでは困難も予想される。実態はどうなっているのか。

 8月28日開催の「IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP」では、「メディアではあまり報じられない製造業IoTのリアル」と題し、コンサルティングやSI、製造業向けメディアの仕事を通じて日本の製造現場の実態をよく知る三氏によるパネルディスカッションが開催された。

(左から)アペルザ オートメーション新聞 ものづくりニュース 編集長の剱持知久氏、FAプロダクツ 代表取締役会長の天野眞也氏、オフィスエフエイ・コム 代表取締役社長の飯野英城氏

日本の製造業は生産現場のIoTデータを「活用」できていない

 アペルザで製造業向けメディア「ものづくりニュース」の編集長を務める剱持知久氏は、国内製造業におけるIoTの「実態」として、経済産業省がまとめた国内製造業に対する調査結果(ものづくり白書、2016年)を見せた。それによると、「生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っている」製造業は、回答した製造業全体の66.6%に上る。

生産プロセスにおいて「何らかのデータ収集を行っている」国内製造業は66.6%(出典:経産省「ものづくり白書」2016年)

 しかしその一方で、そのデータを可視化し、トレーサビリティ管理や生産プロセスの改善や向上などに「活用している」企業は、全体の15~16%にとどまる。「(今後)実施する計画がある」という回答まで含めても、20%前後という低い割合だ。つまり、IoT活用への関心は決して低くないものの、実態としてその「活用」は進んでいない。

収集したデータを「活用している」企業は15%程度で、「実施計画がある」を含めても20%前後。ただし興味を持つ企業群は2015年比で大幅に増えていることがわかる(出典:経産省「ものづくり白書」2016年)

 IoT活用(データ活用)が進んでいない理由について、製造業へのFAコンサルティングを行い、国内外の工場の実態に精通するFAプロダクツ 代表取締役会長の天野眞也氏は、「予算や人員といったリソースの不足」「工場現場での拒否感」という2つの理由を挙げた。

 「実際にIoTが入っているのは大手だけ。中小企業は、IoT導入の機運が高まっても予算が立たない、やる人がいない、だから入りづらいというのが現状」「日本の工場は縦割り組織。IoT導入を主導するのは生産技術部門だが、工場には(製造現場を取り仕切る)製造部門がある。現場の従業員にセンサーを付けて業務を可視化し、業務を効率化していくという話は、経営層にとっては嬉しくても、全部あけすけになってしまう現場部門にとっては嬉しくない部分もある」(天野氏)

 また、工場への自動機やロボットの導入を手がけるSIベンダー、オフィス エフエイ・コム 代表取締役社長の飯野英城氏は、66%の製造業が実施しているという「データ収集」の内実そのものに疑問を呈する。明確な目的のないまま、やみくもにデータを収集しているだけではないのか、という指摘だ。

 「(経産省調査では)66%がデータを収集していると言うが、活用の進まない根本には『活用できるデータではない』という理由がある。何のためにデータを収集するのか、どう活用するのかを考え、(活用するうえで必要な)きちんとした粒度や精度でデータを取り出すことが重要。それを考えず、経営側や生産技術部門がどんどんデータを取る、製造現場はどんどんデータを取られる、だけでは先に進まない。それが日本の現状なのでは」(飯野氏)

解決のヒント:ビジネスの視点から工場の役割を再考する

 生産現場におけるIoT活用について、天野氏はまず、ビジネス、経営の視点が欠かせないことを指摘した。技術ではなくビジネスの視点からIoT活用を考えること、具体的には自社の工場にどのような「強み」を持たせるのか、そのためにはIoTをどう活用すべきなのかを考えることからスタートしなければならない、という意味だ。

 「たとえば『IoT活用で生産量が増えた』『商品が速く作れるようになった』と言っても、その商品が市場を取れないのでは意味がない。工場側の視点だけで考えた『いい工場』、投資対効果の見合わない『いい工場』などありえない。IoT活用を通じて、自社の工場をどう改善してどんな強みを持たせるのか、どんな市場を狙ってどんな商品を作るのかといった、ビジネスの視点から一気通貫で考えることが必要だ」(天野氏)

 経営から工場まで「ビジネスの思想がしっかりと統一されている」事例として、天野氏はドイツの自動車メーカー、ダイムラーの工場を視察した際のエピソードを紹介した。ダイムラーの高級車部門であるメルセデス・ベンツでは、自動車を構成する部品の内製率が8割を超えるという。日本の自動車メーカーの場合、より多くの部品を下請けメーカーに外注し、それを自社工場で組み立てることでコスト削減を図っているが、メルセデスが狙うビジネスはそれとは異なるからだ。

 「メルセデスの場合、小型車でも400万、500万円で販売しなければならない。そのためには、たとえばドアを閉めたときの心地よい質感すら重要だ。ただ、外注で生産した部品を組み立てても、そこまでの(質感を実現する)精度は出せない。そこで自社工場内に大きなトランスファープレスライン(部品プレスライン)を設け、精度の高い部品を生産している。一方で、組み立て工程は工賃の安いアジアの工場に外注しても構わないのだと言っていた。つまり、自社の製品で市場のどのポジションを狙うのかが明確であり、工場においてもメルセデスというブランドのために何をすべきなのがしっかりと理解されている」(天野氏)

ダイムラーの事例。自社のビジネスがどうあるべきか、そのために工場はどんな役割を果たすべきかという「思想」が一貫しているという

 同じように、自社のビジネス、ブランドに対する「思想の統一」は、マスカスタマイゼーション化を推進するドイツBMWの工場でも見られたと、天野氏は具体例を挙げながら説明した。

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