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人間の脳内に光通信チャネルが存在する可能性

Emerging Technology from the arXiv

2017年09月11日 23時10分更新

記事提供:MIT Technology Review

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生物の脳の内部で光子が生み出されているという研究成果が報告されている。脳内で光子が生み出されているということは、それを使って情報が伝達されている可能性があることを示唆している。

興味深い質問をしよう。脳の中に光通信チャネルは存在しているのだろうか?  過激な提言かもしれないが、探求してみる価値があると考える証拠は少なからずある。

情報を伝達したり、仲間を惹きつけたりするために、光を発生する生物は多い。生物学者は20年前に、ネズミの脳も一定の状況下で光子を生み出すことを発見した。その光は弱く、検知することが難しいものだが、神経科学者は脳内に光子が見つかったことにとにかく驚かされた。

それ以降、証拠は増えてきている。脳内やその他の場所で、いわゆるバイオフォトン(生体光子)が、特定の電子励起された分子の崩壊によって自然に生み出されているようなのだ。哺乳類の脳は、200から1300ナノメートルの間(すなわち近赤外線から紫外線の間)の波長のバイオフォトンを生み出している。

脳内細胞が自然にバイオフォトンを生み出しているとすれば、創造主は情報の伝達にこのプロセスを活用していないのか、という疑問を持つのは自然なことだ。情報を伝達するには、光子をある場所から別の場所へと送る必要があり、光ファイバーのようなある種の導波管が必要になる。では、どんな生体構造が導波管の機能を果たせるだろうか?

今日、カナダのカルガリー大学のパリサ・ツァルケシアン博士と数名の仲間による研究のおかげで、ある種の答えが得られている。ツァルケシアン博士たちは神経細胞の軸索(長い糸状になっている部分)の光学特性を研究し、脳内で数センチメートル以上にわたって光子を伝達することが完全に可能であると結論付けた。

博士たちの研究は、軸索に関する先行実験および研究を再調査したものである。チームはまず、細胞の光学特性を突き止めるために、有名なマックスウェルの電磁方程式を三次元で解いて、有髄軸索の光学特性を算出した研究の再調査をした。

この研究は、軸索の外膜(髄鞘)がバイオフォトンを送る導波管の役割を果たせることを示唆している。しかし同時に、幅広い要因が光を散乱したり吸収したりすることで、この現象に影響している可能性があることも示している。

要因には、軸索の曲がりや、髄鞘の直径の変化、断面が円形でないことなどが光の伝達にどう影響するかが含まれる。

ツァルケシアン博士たちは、ほぼ脳内の軸索の長さにあたる約2ミリメートルの長さを持つ軸索は、中に入ったバイオフォトンの46%から96%を伝達できる可能性があると結論づけた。「光子が軸索終末から軸索起始部まで、もしくは軸索に沿ってその逆方向のどちらにでも伝播することができるのは注目に値することです」。

チームは次に、可能なデータ通信レートの算出に取り掛かった。生物学者たちは、ネズミの脳が生み出すバイオフォトンを、1ニューロンにつき毎分1 個と見積もっている。多くない数字に聞こえるが、人間の脳には10の11乗のニューロンが存在しているので、毎秒10億個以上の光子を生み出せることになる。

「このメカニズムは多数のビット情報の伝達を促すには十分に見えますし、大量の量子もつれさえ作成できるでしょう」とツァルケシアン博士たちはいう。

もちろん、これらの計算には数多くの不確定要素も存在する。たとえば髄鞘の正確な光学特性は、誰も測定したことがない。

さらに調べるための最善の方法は、脳組織の光学伝達特性をテストすることだ。ツァルケシアン博士たちは、この分野を進歩させるために徹底的な実験を数多く実施するように提案している。「薄い脳のスライスを一方の端から照らして、もう一方の端で有髄軸索の開口端に結びついている輝点を探すのはひとつの方法です」という。アプローチの仕方は他にもさまざまある。時間のある神経科学者なら一枚噛んでみる価値はある。

こうしたことすべては、より大きな難問につながっている。もし、人間の脳が光通信チャネルを持っているとすれば、何のためだろうか? この問いかけは、非現実的な思索にふけるのにはうってつけだ。

光子は量子情報の優れた運び手であるという事実をベースとした一連の考え方がある。多くの人が、脳のより謎めいた処理の裏側には、意識そのものだけでなく量子のプロセスが関わっているのではないかと推察している。ツァルケシアン博士たちは、明らかにこのアイデアに夢中になっている。

しかし、これは乱暴な推察にすぎない。量子通信をするには光通信チャネルよりもはるかに多くのものが必要になる。量子情報を符号化、受信、処理できるようなメカニズムも必要となる。光に対する感度の高い分子が脳内に存在することは可能だが、証拠はほとんどなく、量子情報の処理に役立つかどうかはもっと不明だ。

それでも、こうした考察はわくわくするものだし、基礎的なレベルで探究してみる価値はある。もし創造主がバイオフォトンを生み出したのだとしたら、進化はそれを活用する手段を見つけたのかもしれない。問題はそれがどうすれば可能になるかだ。

(参照:arxiv.org/abs/1708.08887: Are there optical communication channels in the brain?:脳内に光通信チャネルは存在するか?)


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