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中国で「日式ラーメン」といえば豚骨味しか売れない理由

2017年08月18日 06時00分更新

文● 藤岡久士(ダイヤモンド・オンライン

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日本が世界に誇るソウルフードといえば、ラーメン。中国でも日本のラーメン(日式ラーメン)の人気は絶大だ。とはいえ、その味は日本で定番の醤油ラーメンではない。なぜか、人気店の日式ラーメンは軒並み、豚骨ラーメンなのである。その秘密に迫った。(ゼロイチ・フード・ラボCEO 藤岡久士)

中国で人気の日式ラーメンといえば
なぜか豚骨味ばかり

 日本全国に3万5000軒以上あると言われ、今や日本が世界に誇るソウルフードとなった「RAMEN」(ラーメン)。

 中国でもいまだその人気は健在である。既に、ブームと言われる時期を超え、日式ラーメンは一つのジャンルとして認識されるようになっている。すっかり定着した観のある日式ラーメンだが、中国で人気の日式ラーメンは軒並み豚骨ラーメンであることをご存じだろうか?

 現在中国で展開している日式ラーメン店は、1990年代後半にブレイクした熊本の「味千らーめん」を筆頭に、福岡の「一蘭」「一風堂」「一幸舎」、東京の「屯ちん」「武蔵家」など、チェーン店だけでも20以上ある。その大半が、豚骨ベースのラーメンで勝負している店なのだ。

 ご存じのように、日本のラーメン市場は壮絶な競争市場だ。1年以内にラーメン店のおよそ4割が閉店し、ほぼ同数が新たに誕生している。激しい競争の中で多種多様に進化を遂げているのが日本のラーメンだ。2016年にマーケティングリサーチ会社「マクロミル」が、日本全国のおよそ3000人を対象に行なったアンケートでは、最も人気が高かったのは定番の醤油ラーメン。全体の38.5%の支持を集めた。

 ところが、中国で流行っている日式ラーメンといえば、豚骨ラーメンだ。日本で定番・人気の醤油ラーメンが中国では日式ラーメンとして受け入れられないのはなぜか。

醤油ラーメンが中国では
不人気な理由

中国・上海を代表する豚骨スープラーメン店「博多一幸舎」(上)、「一風堂」(下)

 実は中国人が醤油ラーメンを嫌いなわけではない。むしろ、蘇州麺をはじめ多くの中国のラーメンは醤油味であり、馴染みのある味であると言える。

 では、なぜ日式醤油ラーメンはウケないのか?

 まず、馴染みのある味ゆえに、現地のラーメンとの差別化を明確にしきれず、価格にも反映できていない点が挙げられる。スープの出汁に工夫を凝らしても、多くの中国人には単なる醤油味としか認識されていないのが実情である。結果、ローカルラーメンとの価格競争に巻き込まれ、割高なラーメンとして映ってしまっているのだ。

 加えて、海産物から取るダシの味が苦手な中国人が、少なからずいることも一因だ。また店主が海産物のダシを用いて個性的なラーメンを作りたいと思っても、原材料となる乾物を中心に中国への輸入認可が下りず、現地では手に入りにくい状況であることも、日式醤油ラーメン定着の妨げとなっているようだ。

豚骨ラーメンが
中国人に支持される理由

 もともと中国には、豚骨を長時間炊き込んで白濁、乳化させたスープは存在しない。一方、広州はじめ華南地区では丸鶏を原料とした白湯(パイタン)スープが古くから高級品として愛され続けてきた。

 1990年代後半、味千ラーメンを筆頭に、日本の豚骨ラーメンはこれまでなかった新しいものでありながら、白湯スープ同様、長時間原料を炊き込んだ高級品として中国人に認識されることに成功したのだ。

 ローカルのラーメンを6元程度で食べられた時代、その倍以上の15元で販売されたにもかかわらず日式ラーメンの人気は凄まじく、当時は多くの日式ラーメン店に1時間以上の行列ができているのが普通の光景だった。

 この頃から中国で、ローカルラーメンの倍の価格で受け入れられる、豚骨ラーメンのポジションが確立したと言える。

日本人とは異なる
ラーメンに対する中国人の好み

 とはいえ、豚骨スープならどんなスープでも中国人に受けるのかと言えば、そういう訳でもない。日本人のラーメン観と中国人のそれでは、やはり乖離はあるのだ。

 最も大きな乖離は、日本人は、その一杯が「芸術的に完成された料理」だと捉えているが、中国人にはその認識がない点であろう。すなわち、日本人がすべてのラーメンに求める(1)熱々の温度、(2)麺のコシ、(3)麺とスープの相性(スープが絡むかどうか)、等のこだわりが、彼らにはないのである。

 具体的に説明していこう。

 (1)熱々の温度

 もちろん中国人も冷めたラーメンが好きな訳ではない。だが、日本人の求める熱々の温度(80度前後)は、理解できない、行き過ぎた「こだわり」として映る。

 (2)麺のコシ

 もともと中国の麺は、華南地区で普及している卵麺を除くと、ひやむぎのようにコシのない麺が一般的。中国人にとって、ラーメンで重要なのはスープであり、麺に価値やこだわりを認めることはなかったのだ。日式ラーメンの普及後、新たに「QQ(モチモチしている)」とか「弾性(コシがある)」という言葉で、麺を評価、評論する風潮が出始め、現在は若年層を中心にコシのある麺を好む中国人が増え始めているものの、いまだ限定的である。

 (3)麺とスープの相性

 日本人が、ラーメンの麺とスープは一体の食べ物で、その相性にこだわるのに対し、中国人は麺がスープに浸かっている程度のものとしか思っていない。結果、麺に絡んだ状態でちょうどいい味付けにしている日本のスープを、中国人は若干塩辛いと感じ、温度を保ちコクを出すために使われている大量の脂は、脂っぽすぎると感じる。ラーメンスープの温度を下げて普通のスープとして飲んだ際、日本人でも同様に塩辛く、脂っぽく感じるため、このことを理解するのはさほど難しくない。

化学調味料や添加物には
敏感な中国人の舌

筆者らがラーメン店を運営していた時に商品開発にあたって打ち合せしている様子

 この他にも、味の好みに対する日中の感受性の相違はある。

 例えば、日本のラーメンが美味しい理由は化学調味料を使っているから、とまことしやかに言われているが、それはあながちウソではない。実際に日本のラーメンは、高品質の化学調味料という「隠し味」に支えられている側面がある。

 日本人の中には「舌が痺れる」と表現し、化学調味料を過度に嫌う人がいるが、中国人は日本人以上に化学調味料に対し敏感で、「舌が乾く」と表現する人が多い。

 また、日本のラーメンの麺を作るのに欠かせない添加物「かんすい」の匂いも、中国人はキャッチして嫌う。これも日本人の気づかない彼らの感覚の一つだろう。

 昆布から取れるうまみ(グルタミン酸)に関しては、日本人の方が繊細な味付けを見極められる一方、化学調味料であるグルタミン酸ナトリウムは、中国人の方が敏感にキャッチするという傾向があるようだ。

うどんもパスタも豚骨スープを好む中国人
豚骨ラーメン以外にヒットの可能性は?

 中国人の豚骨スープ好きは、ラーメンに留まらない。日本でも人気のうどんチェーン「はなまるうどん」の上海店では、2人に1人が豚骨スープベースのうどんを注文するという。

うどん屋でも豚骨スープがある「はなまるうどん」

 同じく上海に進出しているカフェチェーン「プロント」では、豚骨スープパスタを期間限定で販売したところ売上好調であった。

 日本人にとっては、うどんはダシ。パスタはトマトソースやオリーブオイルという概念があるのだが、中国人にとっては、どれも海外から来た麺という一つのカテゴリーにすぎない。私たち日本人が感じるような「違和感」はそもそもないようだ。

 では中国の日式ラーメンは、豚骨ラーメン以外では絶対に成功しないのだろうか。私は豚骨以外でもチャンスがあると思っている。しかし、それには以下の条件が不可欠だろう。

 (1)中国人の味覚に合っていること、(2)化学調味料に頼りすぎないこと、そして(3)中国人から見て特徴がしっかり認識できることの3点である。

 個人的には、海老や貝といった海鮮系の旨味を際立たせたラーメン、味噌にバターや豚骨といった別の風味を掛け合わせたラーメンなどが、可能性があるように思う。

「4つ足のもので食べないものはテーブルぐらいしかない」という笑い話があるくらいに、中国人の食に対する飽くなき欲求が尽きることはなく、ますます「食の多様化」が進む中国。

 近い将来、日本で進化を遂げたラーメンが、ラーメン発祥の地の中国で更なる進化を遂げ、新たな「RAMEN」(ラーメン)となって再び日本へ上陸する日が来るのかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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