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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第178回

無料の終わりと、購読型でデジタルライフを構成する時代

2017年08月22日 12時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

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アプリ内課金からアプリ内購読へ

 Google Playは、AppleのAppStoreに先駆けて、定額制のプランの自由度を充実させました。毎月、年額だけでなく、3ヵ月、6ヵ月、といったプランを用意して、これがさまざまなジャンルのアプリで利用できるようになりました。

 Appleもこれに対抗して、それまで映像や音楽の購読型サービスに限っていたサブスクリプション課金をすべてのジャンルに広げ、1年以上契約が続いているユーザーからの課金の手数料を、30%から15%に割り引く仕組みを開発者に提供しました。

 これによって、開発者は「有料アプリ」「アプリ内課金」から、より継続的な関係をユーザーと作っていく「アプリ内購読」のビジネスモデルを採用できるようになりました。

 アプリ内購読のメリットは、確かに手数料を取られますが、課金や購読管理の仕組みなどをアプリストアに頼ることができ、小規模の開発者にとっては十分にメリットがあると考えることができます。

愛用のエディタアプリも購読制へ

 筆者が愛用していて、この原稿を書くためにも使っているエディタアプリ「Ulysses」は、つい最近、有料アプリから購読型へとビジネスモデルを転換しました。

 今までMac向けで4000円近くだったアプリは、年額4400円、月額520円の購読プランへと移行しました。もちろん既存ユーザーには割引きを用意し、年額3300円で利用できる優待を用意してくれました。

 開発者はブログの中で、葛藤を吐露していました。

 というのも、有料アプリの場合、バージョンアップはすでに購入したすべてのユーザーに対して無料で提供されますが、その開発費をまかなうためには、バージョンアップによって新規ユーザーを継続的に獲得できるという前提を敷かなければならなくなります。

 そのため、バージョンアップは既存ユーザーにとっても、機能改善や新機能の提供となりますが、ビジネス上は既存ユーザーのためのものではなくなってしまいます。この前提は、開発者にとっては、辛いものだったかもしれません。

 また、新バージョンを「Ulysses 2」として別アプリとして提供し、既存ユーザーにもう一度お金を払ってもらうという手法もありますが、Ulyssesはクロスプラットホームアプリであるため、MacはバージョンアップするがiOSは古いまま、というユーザーは、データのバージョンの混在などで最良の体験を提供できなくなる可能性があります。

 結果、アプリは無料で14日間の無料試用期間を設け、それ以降は有料でフル機能を提供する、という購読型プランへ移行したそうです。

何を購読するかで、モバイルライフを構成する

 エディタアプリは筆者にとっては仕事の生命線みたいなもので、特にUlyssesは複数の連載や原稿を非常に労力なく管理することができるワークステーションとして重宝しています。

 そうしたアプリについて考える事は、有料アプリか購読型か、という問題ではなく、「そもそもアプリがきちんと継続してくれること」が最大の関心事になります。

 もちろん許容範囲を超える高額な料金となると考えざるを得ませんが、割引を含めて毎月300円弱のコストで愛用中のエディタが継続するなら、納得がいくコスト、と理解することができます。

 しかし、エディタに300円増えたのなら、他の購読アプリをカットする可能性は大いににあります。例えば、前述のEvernoteを、Apple純正のメモアプリに移行する努力をしてカットしようとするかもしれません。

 今までは多くのアプリを無料で使ってモバイルライフを構成してきましたが、今後アプリの継続性のリスクを軽減するために購読型への移行が続くことになれば、やはり購読型のアプリ同士の競争になると思います。

 同時に、すでに新聞や映像配信サービスとケーブルテレビ契約ではそうであるように、スマートフォンの外にあるサービスとスマホ内の購読アプリの間でも、同様の競争が激化していくことになる、と考えて良いでしょう。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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