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Code for Tokushimaで生まれたアイデアが夏の徳島を盛り上げる

IoTを活かした「連レーダー」で今年も阿波おどりの熱気を追え!

2017年08月10日 07時00分更新

文● 重森大

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阿波おどりといえば、四国は徳島県の夏の風物詩だ。東京の高円寺をはじめいいろな場所では開催されるようになった阿波おどりだが、本場との最大の違いはその熱気の広がり具合にある。公設の演舞場は設定されているものの、多くの人たちがそこかしこで踊り合うのだ。その熱気を感じるには観る側も街を練り歩くしかない。どこで誰が踊っているのか、これまでは運に任せて出会いを楽しむしかなかったが、数年をかけ、IoT技術とを使って踊っている場所を検索する取り組みが本格化してきた。

取り組みの第一歩はCode for Tokushimaから

 筆者が初めてその取り組みを知ったのは、数年前のOSC(オープンソースカンファレンス)徳島だった。Code for Tokushimaのブースで概要を聞いた時には、画期的な取り組みに興奮したものだった。というのも、筆者は高校生時代を徳島県徳島市で過ごし、阿波おどりの熱気を肌で知っていたからだ。

 ゴールデンウィークが過ぎたあたりから、そこかしこでお囃子が聞こえ始める。みな、仕事のあとに公園などに集まって練習を始めるのだ。阿波おどりでは踊り手のチームのことを「連(れん)」と呼ぶが、気温が高まるとともに、それぞれの連の練習も激しさを増していく。そして迎える、お盆。市内は広い範囲に渡って通行規制が敷かれ、いくつもの演舞場が設営される。

 演舞場で踊る順番は決まっており、各連はひとつの演舞場で踊りを披露したら次の演舞場へと移動する。夕暮れ時には歩いて移動している彼らも、日が暮れる頃には気持ちを抑えられなくなる。異動時にもお囃子を鳴らしたり、酒の入った者は踊りながら次の演舞場を目指す。商店街の交差点などでは、出会った連同士が踊りを披露しあい、その様子はさながら技を競い合うブレイクダンスのようでもある。

 こうした演舞場以外での楽しみを追いかけようと、Code for Tokushimaが開発したのが「連レーダー」だ。街角にビーコンを設置し、協力してくれる連に位置送信アプリを入れたらスマートフォンを持ってもらう。仕組みとしては簡単だが、協力者の理解を得るのが難しかったり、取り組みの存在や効果をわかってもらえなかったりと、正直言って歩みはゆっくりであった。

 そしてその取り組みは2017年、Code for TokushimaからN-Techへと引き継がれた。N-Techは、穴吹公務員カレッジ情報システム学科の学生が中心になって活動するIT技術の勉強会だ。

「Code for Tokushimaのメンバーにはそれぞれ本業があり、費やせるリソースは限られています。本来、社会的意義の高いものはITビジネスを本業とする私たちよりも、学生がやるべきだと思うんです。この数年で下地づくりはできたので、学生たちに引き継ぐことにしました」(Code for Tokushima 坂東 勇気さん)

Code for Tokushima 坂東 勇気さん

マッシュアップアワードでの出会いから2年を経て遂に本格稼働

 Code for TokushimaとN-Techの出会いはWeb開発コンテスト「マッシュアップアワード」だった。Code for Tokushimaの取り組みにはN-Techに所属する学生も穴吹公務員カレッジの教員も興味を示し、まずAndroidアプリの作成から協力することになった。2016年にAndroidアプリの開発に携わった矢田 和也さんは2017年3月にすでに卒業しているが、N-Techの一員としてサポートを続けている。

「2年間の試行でビーコンのトラッキングの基本的な部分はできあがっていましたが、それでも最初はうまく電波を拾ってくれなかったりと苦労しました。僕の失敗経験を活かして後輩が改良していってくれることを期待しています」(矢田さん)

N-Tech 矢田 和也さん

 2017年からは、iPhoneアプリや、アプリから受け取った情報を地図にプロットして観光客に見せるサーバーサイドまで含めて、すべての仕組みをN-Techに移行した。まったくのゼロからの開発ではなく、Code for Tokushimaのメンバーから引き継いだ資産があり、開発はいい勉強になっていると、N-Techの篠原 涼介さんは言う。

「実際に動いているコードを見せてもらって参考にできるし、これまで何年も取り組んできた人たちに直接質問してサポートしてもらえるので、いい環境で開発に参加させてもらえています」(篠原さん)

N-Tech 篠原 涼介さん

 教材としてもとてもいい素材なので、開発だけではなくいずれ運用監視についても委譲したいとCode for Tokushimaの坂東さんは言う。期間が限定的であるとはいえ、不特定多数に向けてサービスを提供できるのは、まさに生きた教材であり、それを阿波おどりの規模でできる土地は少ない。N-Techのメンバーが羨ましくなる。

「とはいえ、サービスをの存在を知ってもらうのが難しくて。2016年の実績では30連にアプリを入れたスマートフォンを持ってもらい、1500ユニークユーザーからのアクセスがありました。観光客などもっと多くの人がこのサービスを知ってもらうのも今後の課題です」(坂東さん)

2017年版サービスがついに準備完了!

 この記事を執筆しているのは、夏休みも始まり、阿波おどり直前といったタイミングだが、ついに2017年版サービスの全容がN-Tech、Code for Tokushimaから届いた。開発は順調だったようだが、iPhoneアプリは審査に時間がかかるため、動作確認などを含めるとどうしても直前になってしまったようだ。自分の連の居場所を連レーダーに表示したい連は、自分のスマートフォンに連レーダー運用アプリをインストールしておこう。ビーコンの近くを通過すると、居場所が連レーダーに表示される仕組みなので、アプリをインストールするのは各連に1人でかまわない。

 上記アプリが必要なのは、踊り手側の話。これから阿波おどりを観に行こうと思っている人は、連レーダーのURLだけコピーしていけばOK! 周囲に阿波おどり観光を計画している人がいればぜひ教えてあげてほしい。それと同時に、これは数年続いてきたオープンなIoT実証実験でもある。IoT技術に興味がある人は、阿波おどり開催期間中にこの画面をチェックしてみるとよいだろう。

 ちなみに2017年の阿波おどりも、例年通り8月12日~15日までの4日間に渡って開催される。現地に行ける人も行けない人も、この期間に連レーダーをチェック!

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