このページの本文へ

猛暑日の熱中症予防で「食塩中毒」「水中毒」は心配すべきか

2017年08月09日 06時00分更新

文● 木原洋美(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

暑い日が続いている。熱中症予防には、水分補給や塩分補給が欠かせない。しかし、最近は塩分や水分の過剰摂取による「食塩中毒」や「水中毒」のリスクも報道されつつあり、不安に感じる人もいるだろう。特に、リスクが高いと言われる乳幼児と高齢者の熱中症を予防するにはどうしたらいいのだろうか。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

赤ちゃんにとっては
小さじ1杯の塩が毒になる

「えっ、赤ちゃんって小さじ1杯の塩で死んじゃうの」

 7月上旬、テレビのニュースを見ていて、意外に感じた人も少なくないのではないだろうか。それは、認可外保育施設の元経営者が、預かり保育中だった1歳児に致死量の食塩を混ぜた液体を飲ませ、死亡させたというもの。

 乳児の腎機能は未熟なため、高濃度の食塩水を一度に摂ると脱水状態に陥り、多臓器不全などで死に至る可能性があるという。人間の身体にとって不可欠な塩が、致死量の毒になってしまうのだ。

 小さじ1杯の塩分5gは、ラーメンのスープ1杯分(400~500ml)に相当する。1歳児には無理かもしれないが、4~5歳になれば、調子に乗ってごくごく飲み干してしまう子どももいるだろう。おにぎりにまぶしたり、おやつとして塩きゅうりにしたりして、いつの間にか与えてしまっている親もいるのではないだろうか。

 一方で、熱中症対策を呼びかけるニュースではプラスα的に、「こまめな水分補給」と同時に「塩分も摂りましょう」とアドバイスする。水分を必要以上に摂りすぎたり、大量に汗をかいて体内の塩分量が不足したりすると、血液中のナトリウム濃度が薄くなりすぎる「低ナトリウム血症」になってしまうからだという。

 事件を起こした元経営者が、どうして塩分を大量に与えたのかはわからない。

 だが、わが子が暑いなか、汗びっしょりになってなんだか具合悪そうにしていたら、(ただの水を与えるよりは塩入りの水のほうがいいのでは)と気を回し、勢い余って小さじ1杯…というのは、誰もが犯してしまいがちなようにも思える。ただ実際は、哺乳瓶1本の水に塩5gだと、塩辛すぎて飲み込めず、吐きだしてしまうので、無理やりでなければ飲ませられないらしい。

 事件の報道後、ツイッターには「実は、初めて知りました。恐ろしい」といった戸惑いのコメントが溢れていた。他人事ではない。

 夏場、小さな子どもを持つ親としては、熱中症がかなり心配。つい、大人と同じ感覚で塩分補給してあげたくなるが、専門家は「たとえ大量に発汗している場合でも、水分さえこまめに与えていれば大丈夫」と口をそろえる。

 とりあえず、熱中症予防には水。塩分補給は気にしない方が、赤ちゃんのためにはよさそうだ。

一度にがぶ飲みすると
普通の水も毒になる

 しかしながら、その「水分補給」にも落とし穴がある。

 水分と同時に「塩分も摂りましょう」というアドバイスの根拠になっている「低ナトリウム血症」。別名「水中毒」。こちらは特に高齢者が心配だ。

 大量の汗をかいた後などに、水分を補おうと水を大量にガブ飲みすることで、血液中の塩分濃度が急激に下がり、引き起こされる。軽い疲労感から始まり、頭痛、嘔吐、ひどい場合は痙攣、昏睡を経て死に至ることもある。

 注目されるようになったのは2007年に、アメリカのラジオ局が開催した水飲みコンテストで起きた「水中毒死」事故だ。死亡した女性は、3時間に7リットルの水を飲んだという。これはスーパー等で売られている大きめサイズのペットボトル3.5本分に過ぎない。個人差はあるとしても、この程度の水を1時間あたり1本ちょっと飲んだだけでも、人によっては致死量の毒になる、というのは衝撃だった。

 ただし、この事故は相当稀な例で、理論上は、1日に20リットル飲んでも腎臓が正常に働きさえすれば、水中毒になることはないらしい。なぜなら、人間の腎臓が水を処理する能力は毎分16ミリリットルで、1時間に1リットルぐらい処理できる上に、普通であれば、喉の渇きが癒された段階で、それ以上は飲めないように脳が勝手にブレーキをかけてくれるはずだと主張する医師もいる。

 ブレーキがかからないのは、統合失調症や自閉症、ある種の薬の副作用に限られるというのだ。

 果たして、そう言い切れるだろうか。

「熱中症には、こまめな水分補給を」とのアドバイスが染みこんでいる人が、熱中症の危険を感じた時、脱水を避けるため、ムリして大量に水を飲むことは十分想定できる。しかも、水中毒と熱中症は、初期症状が似ているので、中毒症状が出ていても気づくのが遅れる可能性もある。

 水を飲むなら、あくまでも「こまめに」。熱中症対策を呼びかける場合には、「一度に大量に飲むことの危険性」も、口がすっぱくなるくらい訴えるべきではないだろうか。

 ちなみに、「低ナトリウム血症」の予防策として経口補水液が推奨されているが、脱水症状や嘔吐・下痢を起こしていない限りは普通の水で十分。逆に塩分過多になり、脱水症状にもつながるので要注意だ。

高齢者の熱中症は
数日かけて発症する

 さて、人間が生きて行く上で不可欠な塩と水も、摂り過ぎれば「毒」になる話をした。特に注意を払わなければないのは、「熱中症弱者」である高齢者と乳幼児だ。

 両者がかかりやすい熱中症には「非労作性」という共通点がある。

 熱中症の種類は二つある。一つは元気な人が、スポーツや肉体労働中に急激に発症する労作性熱中症。患者は圧倒的に男性が多い。

 一方、非労作性熱中症は、日常生活中,それも半数は屋内で起き,乳幼児や高齢者に多く見られる。

 この二つは発症までの経過、危険因子、予後などが全く異なることを覚えておきたい。

 労作性は、基本的に元気な人が、高温多湿の環境で運動したり、働いたりすることでなるため、予後はそれほど心配ない。元々の体調は悪くないので、回復速度にも時間がかからないことが多い。

 より心配なのは、非労作性熱中症だ。特に高齢者は、元気な人ならなんでもないような状況でも発症する。

 気温が急に上がっても、室内で過ごしている限り、当日に熱中症になることはあまり多くない。だが気温上昇にともない室温が徐々に上昇し、夜間も暑いままになると、暑さを感じにくく、汗もかきにくい高齢者は、体内にじわじわと熱をためこむ。日中と夜間に高温の日が続いた最初の数日間は特に危ない。次第に食欲が低下し、元気もなくなり、脱水症状・低ナトリウム血症の進行、低栄養、持病の悪化、夏風邪や肺炎等の合併症が起き、最後に、「呼んでも起きてこない」「熱中症かも」ということで救急搬送される。当然、回復も遅い。

 熱中症で亡くなっている人の8割を65歳以上が占めているのにも、こうした事情が影響している。

 また乳幼児も、どんなに暑くても、自力では逃れることができないので、特別な配慮が必要なのは言うまでもない。

 さらに、塩分と水分補給の問題が、心配に拍車をかける。

 一体どうしたらいいのか。

最も有効な予防法は
「涼しい環境作り」

 答えは案外簡単だ。

 乳幼児と高齢者の熱中症を予防するには、なによりも「涼しい環境」を作ってあげればいい。

 室内に温度計を置き、28℃を上回ったらエアコンのスイッチを入れるようアドバイスし、それ以上は高温にならないように管理しよう。最近は、赤ちゃんや高齢者に配慮し、室温と湿度を自動管理してくれる上に、身体に直接当たる気流を抑え、手足が冷え過ぎないようにしてくれるなど、高性能な機種も登場している。上手く生活環境に取り入れれば、それだけで熱中症になる危険性はかなり減り、水や塩分の補給にやっきになる必要もなくなる。

 熱中症、とりわけ非労作性熱中症は、室温管理さえ徹底すれば、「毒」の心配をしなくても、安全に予防できる病気なのだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

女子モテ☆ハロウィンPC自作に挑戦in大阪

アスキー・ビジネスセレクション

ピックアップ