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子ども向けバーチャル化学実験教室を独BASFがネットで展開

2017年08月09日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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Photo by Hitoshi Iketomi

 子ども向けの実験教室と言えば、夏休み恒例のイベントだが、それがバーチャルの世界に拡張されることになった。

 8月1日、ドイツの化学メーカーのBASF(ビーエーエスエフ)が、過去20年間続けてきた「子ども実験教室」の発展形として、インターネット上で各種の化学実験が楽しめる「バーチャル実験教室」(http://basf-jp.kids-interactive.de/)をローンチしたのだ。

写真提供:BASFジャパン

 これは、リアルの実験教室に伴う場所や時間という制約を取り除き、より広くオンライン上で子どもたちに化学の面白さを体感してもらおうとの狙いで、2011年にドイツ語で始まった。その後、16年に英語、中国語(繁体字、簡体字)が追加され、今年の夏に日本語が加わった。続けて、スペイン語、韓国語、ベトナム語なども追加されることが決まっている。

 バーチャル実験教室の扉を開けると、BASFに縁のある化学者たちの肖像画が飾られた円形のホールが目に飛び込んでくる。そこで、実験室に入っていくか、ゲームで遊ぶかを選択できる。最初に音声・テキストの言語を選び、ID登録すればゲームのスコアを保存することもできる。

 正面の奥にある実験室は、テーマ別に分かれており、室内には実験に必要な器具が揃えられている。

写真提供:BASFジャパン

 例えば、「甘くなるパンの秘密を探ろう」という実験室は、各種の器具を使って食物内に含まれる栄養素や酵素による分解について学ぶ。

 また、「汚れた水をきれいにしよう」実験室では、水の浄化作用をシミュレーションする。そして、「赤い色移りのなぞを解き明かそう」実験室では、色移りを防止する洗剤の成分はどう作用するのかを体感する――。

 バーチャルのオンライン実験教室は、リアルの世界で1997年から2017年までの過去20年間、30ヵ国以上で約80万人の子どもを相手にしてきたBASFの知見やノウハウが詰まった世界共通のプログラムだ。

 リアルの実験教室で先生役などを務めるのは、全てBASFのボランティア社員で、実験に詳しい研究者ばかりでなく、営業部や人事部などの事務部門からも手が挙がるという。

 今年8月2日、初めて先生役を務めた経営推進本部ジャパンイノベーションチームに所属する杉山拓氏は、元はリチウムイオン電池部材の研究者だ。子どもに理科を教えることが好きだった父親から聞いた話を思い出して参加した。「非常に面白かった。自分の視野を広げるという意味でも、大きな収穫があった」と振り返る。

 今年中にはブラジルやクロアチアなどの国が加わり、開催国は40ヵ国以上になる見込みだ。03年から開催する日本法人では、今後はリアルとバーチャルの両方で、子ども向けの実験教室に注力していく。

世界一の存在であるが
日本では知名度に悩む

 ところで、子ども向けの化学実験教室というものを夏休み恒例のイベントとして定着させてきたのは、日本の化学メーカーである。

 例えば、化学メーカーが加盟する4団体が中心となっている「夢・化学‐21」委員会は、BASFよりも早く、93年から「夏休み子ども化学実験ショー」などのイベントを通じ、子どもたちに化学の面白さを伝える地道な啓蒙活動に取り組んできた(小学生向け以外に、中学・高校生向けもある)。

 17年の化学実験ショー(8月5日~6日)には、三菱ケミカルホールディングス、三井化学、ダウ・ケミカル日本、宇部興産、昭和電工など、有力メーカーと団体が19社参加した。

 BASFの日本法人には、積年の悩みがある。連結売上高約7兆円(16年)の世界最大手の化学メーカーでありながら、日本市場では一般的な知名度が低いのだ。14~15年には、日本のテレビでコマーシャルを流すなどしてみたが、それほど世間の認知度は上げられなかった。

 とはいえ、BASFは1888年(明治21年)から日本でビジネスを始めている。現在の日本法人の母体は、1949年に設立された“古株”だ。

 日本では、(1)化学品、(2)高性能製品、(3)機能性材料、(4)農業関連製品の4分野を手掛けている。ビジネスの規模は、売上高で約2000億円(16年)である。今日では、北海道から九州まで、計24の分野別の生産拠点や研究・開発センターを持つ。

 BASFと言えば、世界の化学関連業界では知らない人がいない存在だが、なぜ日本法人は企業の認知度を上げたいと考えるのか。

 その背景には、過去数年の大きな変化がある。近年のBASFは、世界共通の目標として、「(それまで欧州に偏っていた)研究・開発の約25%は日本を含めたアジア・太平洋地域で行う」と定めている。そして、実際に日本への投資を加速させている。

 一例を挙げれば、12年に横浜イノベーションセンターを開設し、自動車向けの開発が進むエンジニアリングプラスチック(機能を強化した化学製品)に関する技術部隊を発足させた。その後、同センター内には、14年に素材とデザインの可能性を探求する専門部隊が、15年にはアジア全域を視野に入れたコンポジット(複合材料)を扱う専門部隊が、新設されている。

 他にも、リチウムイオン電池用の正極材、建築用化学品、農薬などの分野でも拡充施策が進む。今では、BASFの重要施設が日本に集まってきているのだ。そこで、企業間取引が主体のBASFでも、潜在的な顧客(現時点で未接触の顧客)に対して、技術やサービスを訴えたいと考えるようにマインドが大きく変わった。

 そのためには、まずは一般の認知度を高めなければならない。こうした変化の中で、リアルとバーチャルの両方の世界で子ども向けの実験教室を開催するなどのBASFの“ファンを増やす活動”は――CSR(企業の社会的責任)の文脈で営業活動とは区別して説明されるが――日本では、これまで以上にその役割と重要性が増していくだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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