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中国で日本の介護会社が苦戦、「日式」の強みを生かせない理由

2017年08月04日 06時00分更新

文● ダイヤモンド・オンライン編集部(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです

一人っ子政策が長く続いた中国は、将来的に高齢者率が高まり、介護市場の急増が予測されている。一方、日本では高齢者率は高まるものの、人手不足や保険財政の制約などから介護事業者にとっては厳しい経営環境が続いている。このため、中国の介護市場に進出する日本の介護事業者が増えつつあるが、苦戦する企業が少なくないという。その実情や理由などを日中の介護事情に詳しい日中福祉プランニングの王青代表に聞いた。(ダイヤモンド・オンライン編集部 山本猛嗣)

「日式介護」の強みは
まったく発揮できていない

――最大手のニチイ学館をはじめ、日本の介護事業者は介護市場の需要増が見込まれる中国に相次いで参入していますが、現状は厳しいと聞いています。実態はどうなのでしょうか。

 正直なところ、現在の状況は、非常に厳しいと言わざるをえません。中国で展開する多くの日系企業が赤字で、苦戦しています。4年ほど前にオープンしたある日系企業が運営する老人ホームもやっと入居率が80%に上がってきたところです。通常ならば、2年程度で90%を超えなければ、収益面で厳しいところですが、ずっと50%程度の状況が続いていたようです。

――とはいえ、他国に先んじて高齢化社会を迎えている日本の介護のレベルは高く、中国をはじめアジア各国からは日本の介護施設などの見学は絶えません。いわゆる「日式介護」は注目されていると聞きます。

 残念ながら、現在の中国では、日式介護の強みはまったく発揮できていません。ある日系企業の老人ホームがオープンした際、多くの中国人の介護関係者も見学しましたが、「この程度なのか」と驚いていたのが印象的でした。

王 青(おう せい):日中福祉プランニング代表。中国上海市出身。語学学習を経て大阪市立大学経済学部卒業。アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館 ATCエイジレスセンター」に所属し、 広く“福祉”に関わる。2002年からフリー。

 確かに、日本国内で日本の介護施設を見学した中国人は、「日式介護は素晴らしい」と絶賛します。私も素晴らしいと思います。ところが、現在の中国国内での状況を見ると、まったく差別化できていません。例えば、建物や間取り、内装などのハード面は、日本と同じなのですが、肝心のスタッフやサービスの質というソフト面では、イマイチな状態なのです。

 介護職員の資格は、大きく分けて初級、中級、高級と3段階に別れていますが、この日系企業が運営するホームの介護職員の資格を見ても、中級、高級レベルの高いレベルの資格を持つ職員は少なく、人気も乏しいのが現状です。

マーケティング不足に加え
制度や習慣・文化の違いで苦労

――日本の介護事業者が「日式介護」の強みを発揮できず、中国で苦労している理由は何なのでしょうか。

 まず、明らかなマーケティング不足という点が見られます。冒頭で述べた老人ホームもそうですが、場所が都市部からクルマで1時間以上離れているなど立地が極端に悪いケースが見られます。なので、入居者はもとより、介護のスタッフも集まりにくい。

 現地での合弁先企業を見ても、不動産会社やホテル、IT企業などの異業種の企業が目立ちます。介護の実態を知らないパートナー企業の意見を聞けば、上手くいくはずもありません。

 次に、日本と中国の制度面の違いがあります。日本にはきちんとした社会保障制度と介護保険があり、それを前提とした事業を展開しています。しかし、中国には十分な社会保障制度がありません。

 例えば、日本の介護施設などには人員配置基準というものがあり、最低限の人員を配置しなければ、事業を継続できませんが、中国にはなく、1人の介護職員で日本の2~3倍の入居者をみているのが実情です。

 では、日系企業が中国で日本と同じ人員配置基準で運営できるかといえば、コストや採算性などを考えるとなかなかできません。

 習慣や文化などの違いも大きいと思います。例えば、日本の介護では、なるべく健康で動ける状態を維持しようとする「自立支援」という考えが前提にあります。このため、食事やトイレを含め、高齢者が自分でできるのなら、身体機能維持のために、なるべく自分でやってもらうという考えが根底にあります。

 しかし、この「自立支援」という考えを理解できる中国人はまだまだ少ない。多くの中国人は「親に楽をさせたいから入れる」という考えがあるため、せっかく高いお金を払って老人ホームに入れたのだから、「身の回りの世話は、介護スタッフがすべてやるもの」という意識が強いのです。

 入浴も日本人は大好きですが、中国人は基本的にシャワーで十分という人が多い。介護スタッフが苦労して入浴させれば、日本人の高齢者はとても喜びますが、中国人はそれほど価値を感じません。

――日本の介護事業者の中には、日式介護というブランドを生かすため、中国の富裕層にターゲットを絞り、ビジネスを考えているケースも多いようです。

 そう簡単ではないと思います。というのも、中国の富裕層は、日本とはレベルが格段に違い、建物や部屋、設備などは日本では考えられないほど豪華なものを好みます。日本の富裕層とは、趣味や趣向がかなり異なるのです

 日本で富裕層向けの老人ホームを見ると、皆、建物や内装は簡素で上品な感じです。中国人富裕層から見ると、物凄く地味に感じてしまうのです。

 私は以前、中国からの見学者を連れて、日本で入居一時金が1億円を超える超高級老人ホームを案内したことがあります。上品で素晴らしいホームでしたが、案内した中国人の方は「中国の感覚で見ると、狭いし、地味。中国人富裕層は満足しないだろう」と感想を述べていました。日本人の感覚とは、かなり違うのです。

日本の介護の強みは
「認知症ケア」と「リハビリ」

――では、日本の介護事業者が中国で成功するのはどうしたらよいのでしょうか。

 繰り返しますが、現在は日本の介護の凄さや強みがまったく生かせていない状況です。日本の介護会社が中国にはない強みを自覚し、中国で社会保障制度が整ってくれば、状況も変わると思います。

 日本の介護の強みとは、ズバリ「認知症ケア」と「リハビリ」です。

 認知症ケアは、中国は日本よりも30年以上も遅れているイメージです。中国では認知症は完全に病人扱いであり、認知症の症状を薬漬けにして抑えているのが実情です。日本のように、認知症高齢者が自宅や介護施設で介護を受けながらも、ほぼ普段通りの生活を送るというのは、考えられないことなのです。

 日本の介護施設を見学した中国人が認知症高齢者の様子を見たり、介護スタッフの話を聞くと、まさに「目から鱗が落ちる」思いをするようです。一様にとても驚き、感動します。

 日本で生まれ育った中国人男性が中国の介護施設で施設長となり、日本式の認知症ケアを広めるために、中国人の介護スタッフに指導しているという話を聞いたことがあります。当初は「そんなことはできない」と相手にしていなかった中国人介護スタッフがだんだんと認知症ケアの効果や素晴らしさを実感し、現在ではとても協力的になって率先してやっているそうです。

 また中国には、日本のデイケアのような通所のリハビリ施設というものがほとんどありません。リハビリは、やれば確実に効果が出るので、「自立支援」という理念や考え方もリハビリを通じて啓蒙すれば、広げることができます。

 認知症ケアもリハビリも効果が目に見えるので、非常にわかりやすいのが特徴です。「わかりやすさ」を好む中国人には、訴求しやすいと思います。

日本企業が採用した中国人は
中国企業に高給で引き抜かれる

――日本では介護人材の不足が著しく、官民挙げて外国人の介護人材を積極的に育成し、海外と日本で人材を還流させようという方針があります。日本の介護事業者も中国での展開を少しでも有利に進めるために、中国人スタッフの採用・育成に力を入れるところが増えています。

 日本の介護会社で働いている中国人は、中国でとても人気があります。日本で採用し育てた中国人スタッフが中国に転勤した途端、中国の介護会社に高給で引き抜かれてしまうというケースが頻発しています。

 中国でも介護業界は、日本以上に若い人に人気がなく、人手不足が深刻です。介護先進国である日本で学んだ中国人スタッフならば、ノウハウも吸収できるので、引く手あまたの状態なのです。

――最近は日本の介護施設や介護事業者を買収しようと考える中国企業も増えていると聞いています。

 確かに、最近は私のところでも、中国の投資会社からの相談が増えています。中国企業も手っ取り早く、日本の介護のノウハウを学び、ビジネスを拡大するために、日本の介護会社への資本参加やM&Aを考えても不思議ではありません。

 日本の介護事業者に中国企業の資本が入ったという話は、私が聞いた限りでも2件ほどあります。今度、ますます増えるのではないでしょうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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