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新国立工事で過労自殺、「重層下請け構造」が引き起こす悲劇

2017年08月01日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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当初案の白紙撤回をめぐる混乱も批判を呼んだが、混乱故の突貫工事によって、ついに犠牲者まで出てしまった

 悲劇の現場は、2020年開催の東京五輪のメーン会場だった──。

 現在急ピッチで工事が進む東京都新宿区の新国立競技場の建設現場で、地盤改良工事を手掛けていた土木専門工事会社の23歳の男性社員が、1カ月間で200時間近い残業を行い、今年3月の失踪後に自殺していた問題。男性の両親は、過重労働が自殺の原因だとして労災申請した。

 遺族の代理人である川人博弁護士や工事会社によると、男性は16年4月に技術職として入社した新入社員。同社の同僚4人と共にこの現場に配属され、工事に用いる機械の管理を担当していた。

 男性の残業時間は、失踪前の1カ月間で211時間56分に達していた。特別な場合の残業時間を月80時間と定めた、いわゆる「36協定」に違反した深刻なものだ。男性の両親の証言によると、今年1月末ごろ、重機を予定通り調達できず、翌2月に工期の遅れを取り戻そうとしていたとみられる。

 新国立競技場をめぐっては、当初計画された、開閉式の屋根を設ける案がコストの増加などで批判を浴びたため、15年7月に白紙撤回された。新たな計画は、構造上は当初案より簡易な工事となったが、それでもゼネコン業界では、工期の短さや人手不足を危ぶむ声が上がっていた。

 また、この工事は元請けの大成建設社内において、山内隆司会長の強い意向で受注に取り組んだ特別な案件だ。山内会長は7月26日、ゼネコンの業界団体である日本建設業連合会(日建連)の記者会見で「現場の統括管理の責任を負う元請け企業として、誠に遺憾。ご心配をおかけした皆さまにおわびする」と謝罪した。

 政府は、繁忙月でも残業時間を100時間未満に制限し、違反した場合は罰則を科すよう労働基準法を改正する方針だ。従来、残業規制の適用外である建設や運輸など一部の業種も新たに対象となるが、早期の改善が難しいとして、改正法の施行後5年間の猶予期間が設けられる。

事件は氷山の一角

 日建連も猶予期間内で段階的に残業時間を自主規制する計画を9月をめどに試行する方針を明らかにした。

 ただ、建設業は請負業として、発注者が定めた工期やコストにはあらがい難い。そのしわ寄せが、元請けから立場の弱い下請けへと及んでいくことは、かねて問題視されてきた。よって、単に残業時間を抑制するだけでは問題は解決しない。こうした「重層下請け構造」の在り方そのものが問われているのだ。

 人手不足で建設業の担い手が減少する中、東京都心では新国立競技場のような五輪関連施設や、大規模な再開発計画の工事がそこかしこで進行中だ。今回のような過重労働は氷山の一角にすぎないだろう。詳しい実態調査を踏まえた対策が必要だ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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