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ソフトバンク傘下の英アームCEOが語る、孫社長からの“要求” サイモン・シガース(ARM CEO(最高経営責任者))特別インタビュー

2017年07月31日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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ソフトバンクグループが半導体設計大手、英ARMを約3.3兆円で買収することを発表してから約1年。2016年に出荷された半導体177億個にその技術が使われるARMはどう変わったのか。サイモン・シガースCEO(最高経営責任者)を直撃した。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)

Simon Segars/1967年10月生まれ。91年ARM入社。2001年エンジニアリング担当バイスプレジデント、05年エグゼクティブ・ディレクター、13年7月より現職。17年6月ソフトバンクグループ取締役に就任。 Photo by Masato Kato

──ソフトバンクグループによる買収発表から約1年。ARMにどんな変化がありましたか。

 買収完了は昨年9月ですが、それ以降、われわれは自らのビジネスにずっと集中できていて、長期的な視点での投資が増えました。

 それまでの株式公開企業の状態では、投資の際も売上高や営業利益を意識する必要がありましたが、ソフトバンク傘下になったことで、自由度が高まりました。将来を見据えた投資に対する制約が減り、積極投資が増えたのです。

──ARMの従業員数が増えているのもソフトバンク効果ですか。

 そうです、それも投資です。われわれは半導体の技術(IP)を提供する企業で、工場を持ちません。成長エンジンは人なのです。

 長期的な成長に向けて、開発者の他にも、次世代のニーズを探るマーケティング担当などを採用しています。もちろん買収されなくても人を雇っていたと思いますが、ここまで多くなかったでしょう。

 また、昨年9月以降、ARMも5社を買収していて、その人員増もあります。これまでも企業買収はしてきましたが、ソフトバンク傘下になって加速しています。

──企業買収の自由度も高まったということですか。

 われわれは戦略に基づき買収を実行しています。単に収益を伸ばすためではなく、IoT(モノのインターネット)端末にはどんな技術が必要かといった、技術ポートフォリオの構築を考慮する買収哲学は変えていません。

 ソフトバンク傘下になって変わったのは、戦略を素早く実行できるようになったことです。マサ(孫正義氏)はいつも、「Go Fast, Move Quickly(速く進め、素早く動け)」と言っています。

──IPの新規ライセンス数が前年から減っています。ソフトバンクの競合企業との契約に、悪影響が出ることはないのですか。

 ソフトバンクの競合というと、モバイル通信事業者でしょうか。そうした企業とはもともとライセンス契約を結んでいません。われわれが契約を結ぶのは半導体メーカーであり、そこから端末メーカーへと半導体が供給されます。

 モバイル通信事業者とは、次世代通信規格「5G」の方向性などで対話はしますが、ライセンス契約を結んだことはないですし、今後も結ぶことはないでしょう。

 新規ライセンス数の変動には、半導体業界の技術サイクルや、半導体メーカーの経営統合の影響もあります。ソフトバンクに起因したものではありません。

──半導体1個当たりのロイヤルティー収入は約5.5セント。孫さんから「もっとロイヤルティーを上げろ」と言われないのですか。

 昨年の時点で、われわれのビジネスモデルは変えないと表明しています。これまでもパートナーにどれだけの価値を提供できるかでロイヤルティーの価格を決めており、その哲学は変わっていません。

──孫さんは「今後20年でARMの半導体が1兆個になる」と力説しています。そのときのロイヤルティー収入のイメージは。

 今より増えるでしょう(笑)。ただ、あまり具体的に考えたことはありません。例えば半導体のマイクロコントローラが1000億個の時代が到来すれば単価も20セント程度になり、1個当たりのロイヤルティー収入は下がりますよね。

 とはいえ、IoTは今後あらゆるエレクトロニクス産業で使われるでしょう。1兆個の半導体が膨大な数の端末に搭載されれば、生成されるデータもかなりの量となり、通信ネットワークの拡張も必要ですし、データを保存するデータセンターも増えるでしょう。IoTの副次的な効果で利用される半導体の数が増えるので、成長マーケットだと考えています。

──ARMがソフトバンクを変えていることはありますか。

 無線通信の分野では、ソフトバンクやスプリントと5GやナローバンドIoTなどのネットワーク接続について連携を取っています。

SB、スプリントとIoT接続で連携

シガースCEOによれば、ソフトバンクグループの取締役会では「マサは将来の方向性や技術を議論することが好き」だそうだ Photo by Masato Kato

 例えば昨年、ナローバンドIoTの規格が標準化団体「3GPP」で決まったのですが、サービスを展開していくにはどのような技術が必要か、課題は何かということをソフトバンクやスプリントと話し合っています。問題を見つけ出して解決しておけば、新たな技術を利用する局面で、より大きな成功ができると考えています。

 また、グループが買収した他の企業とも、将来の技術について話し合い、そのフィードバックをわれわれの技術のロードマップに落とし込んでいます。

──ソフトバンク・ビジョン・ファンドとの連携はありますか。

 ビジョン・ファンドの投資先は、ファンドの投資委員会が決定します。ただ、われわれがソフトバンクグループの一員になったことで、「ビジョン・ファンドを紹介してくれ」と私に接触してくる企業もあります。同じグループなので、紹介が簡単になりました。

──ビジョン・ファンドの投資先企業との連携を期待していますか。

 もっと多くの企業にARMの技術を使ってほしいですね(笑)。実際にファンドが投資するかどうかは別として、技術に革新を起こす企業との出会いからは、さまざまな機会が生まれます。技術の世界がどう変わるかについて示唆を得て、われわれのロードマップに落とし込むことができます。

──実際にARMからファンドに紹介した企業はありますか。

 そこは、コメントできません。

──ARMは未来をどう変えていこうと考えていますか。

 データを収集して適切に処理することが、人類が直面する問題の解決につながります。日本の高齢化など、世界中で人々を手助けできることは数多くあります。

 一例としては農業でしょうか。これは大きなチャレンジで、人々の味覚などが洗練され、食物を作るにも巨大なリソースが必要になってきています。そこにセンサーで集めたデータ処理を活用し、例えば殺虫剤の量を最小化することなども技術で実現できます。

 私もマサも、さらに高度なアルゴリズムを活用して、自動車や農業、医療などのさまざまな分野への理解を深めることで、人間の可能性を広げたいと考えています。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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