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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第174回

米国でスマホのアプリが生み出した「体験の確実性」というイノベーション

2017年07月28日 12時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

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社会ですでにさまざまな確実性が実現されている日本では?

 ここまで読んできて、日本の読者の皆さんには違和感が大きくなってきたのではないか、と思います。

 「イノベーション」なんてタイトルを付けていますが、そもそも体験が不確実だからこれらのアプリが登場し、役立っているじゃないかという感想を持つでしょう。

 仰るとおりです。

 日本だと、Uberがなくてもタクシーもバスも電車もきちんと運行され、移動の確実性はそもそも高いです。また食についても、行きつけの店は予約しないでも大丈夫でしょうし、もし満員でも隣の店もおいしいことが多い。

 UberもOpenTableも、日本に進出していますが、米国と同じような「確実性」のイノベーションを実現した存在と言い難いのはそのためです。

 位置情報を核としたモバイルアプリによるイノベーションは、その場所、つまり国や地域、あるいは都市に根ざした問題の解決に非常に親和性が高いと言えます。裏を返せば、ところ変われば問題も変わるというわけで、日本、あるいは東京という都市では、都市にまつわる「確実性」が、モバイルアプリ以前から解決されていたのです。

 アメリカでは、Apple PayやAndroid Payでモバイル決済が普及しつつあります。やっと地元のお店のカード決済端末もNFCに対応し、だんだんクレジットカード本体を出さず、iPhoneだけで八百屋でも買い物を済ませることができるようになってきました。

 しかし日本では、貨幣とお札が中心でカードが使えることの方が珍しかったため、「カードが使えないから、買い物の確実性が下がっていた」という問題がそもそもなかったわけです。

 加えて、Suicaなどの電子マネーが都市部ではすでに普及しており、モバイル決済以前に、決済のスマートさ、小銭を出さずに買い物をするといった体験が実現されていました。

 AppleがSuicaをサポートしたのは、そうしなければApple Payが普及する状況が日本に作り出せないからと考える事もできます。

InstacartやNoomコーチは別の側面?

 さて、AmazonがWhole Foods Marketを買収して、生鮮品の配達である「Amazon Fresh」が、Whole Foods Marketを拠点に展開されるのではないかという見方が強まっています。筆者も、そうするだろうと予測しています。

 Whole Foods Marketなどのスーパーを拠点にして、生鮮品の配達サービスを展開しているのは、Instacartと呼ばれるアプリです。

 バークレーのWhole Foods MarketもInstacartに対応しており、アプリからスーパーの商品をオーダーすると、取り置きしてくれたり、配達してくれたりします。お店には、取り置き用の冷蔵庫、冷凍庫も用意してあり、オーダーした人はお店にただピックアップすればよいだけです。

 スーパーマーケットに行かなきゃならない。でも時間がない、あるいは夕方の時間帯のレジの長蛇の列に並びたくないというニーズから、アプリからオーダーして支払いを済ませておいて、家まで届けてもらったり、スーパーでピックアップするだけにする仕組みです。

 これも、時短という意味では、買い物の確実性を確保するという意味合いもありますが、一方で、位置情報とは異なる「時間」という側面がより強いように思います。

 また、筆者のダイエット話はまた別の機会に紹介しますが、Apple Watchと、Noomコーチというアプリの組み合わせは、ダイエットの確実性を、データの面、そして心理的な面から支えてくれたと思います。

 「確実性」を高めるというキーワードの対象も体験から、時間や目標といった、より不確実なものへシフトしつつあるのかなと考えるようになりました。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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