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男子育休に入る 第19回

おっぱいがうらやましい

2017年07月26日 07時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita) 編集● 家電ASCII編集部

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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

寝返りを打つようになった赤ちゃん

 家電ASCIIの盛田 諒(34)です、おはようございます。水曜の育児コラム「男子育休に入る」の時間です。8週間の育休で地獄が見られてよかったですねという記事を書いたところ、予想以上に育児方面から反応があり、こんな変人にも声をかけていただけるようになりました。ありがたいですね。先日もワーキングマザー向けウェブメディア「LAXIC(ラシク)」の企画で、育休男性座談会に参加させていただきました。記事は8月中に掲載予定ということですのでご期待ください。

 座談会で盛り上がった話題の1つが男女の話。「イクメンと呼ばないでほしい」「おっぱいがうらやましい」「女性のマウンティングがすごい」といったものです。


●イクメンと呼ばないで

 イクメンと呼ばないでほしいというのは、親は親だから、普通に性差関係ないから、変に持ちあげないで、という話です。

 イクメンという呼称そのものはアホっぽくて良いですが、父親の育児参加を特別に思わせてしまうのは普通にアホだなと思います。女性研究者をリケジョと言うのと同じく社会的少数派に敬称をつけるつもりでレッテルを貼ってしまっている例だと思います。

 コラムを読んでくれた方から「夫に育休の取り方を共有しておきました」「育児は毎月新しいことが起きますからね、大変ですけど楽しいですよ」などとコメントをもらうと安心できるのですが、「盛田さん、見ましたよイクメン記事! すごいですね~」と言われたりすると、ウッ、距離感、と思って切なくなります。

 実際「すごいですよね」と言ってくれたメーカーの男性が、そろそろ2人目が生まれるというので、「育休取ってはどうですか?」と言ってみたのですが、「いや~ウチはムズかしいですよ」と笑っていました。シブいです。

 たしかに男性の育休取得はまだハードルが高いですが、育児は時間を作れば誰でもできると考えます。

 産前産後の身体的変化は女性に限ったものですが、家事育児のスキルは男親も女親も変わりません。悩みも、つまづきも、抱える闇もおなじです。少なくとも育児参加している知り合いの男親はみな似たようなことを言っています。父親キャラで出ている男性タレントが「うんこをしたときのおむつだけは替えられなくて~」と言っているのを見て「意味がわからない」と思うのも同じです。意味がわからない。

 家族間に男女差があるとすれば、それは生理的ではなく社会的なものであり、具体的にいえば収入の差ではないかと思います。

 わたしはアホなので極端なことを言うくせがあるのですが、たまたま男性の収入が世帯収入に占める割合が高かった、というだけの話ではないかと感じます。そして日本は残業が習慣になっている国なので、そのぶん、家にいる時間は短くなってしまいます。「男が育児をするのはすごい」というのは、要するにそういう話でしかなく、本人の性別や適性とは関係ない部分が大きいのではないかと思います。

 「夫に子どもをまかせるなんて怖くてできない、育休を取られるほうが厄介」「俺は仕事で疲れてるんだから子どもの面倒くらいは妻に見てほしい」という話を聞くこともありますが、それは習慣的にそう思っているところがあるのではないかと思います。

 「そうは言っても家事ができない男性はいるよ、そもそもやろうとしないし」という話もあるとは思いますが、それにしたって性差ではなく個人差だと思います。妻は料理が好きだけど片づけがめちゃ苦手です。わたしはRPGのレベル上げと同じくらい掃除が好きだけど食事の献立を考える能力が決定的に欠如しています。そのくらいの話ではないかと思います。

 「おれ家事やったことないから」という男性については、なぜやらないことを威張るのか、「だっておれはオマエに働かなくてもいいって言ってんじゃん、家のことだけやってくれればいいんだよ」という男性については、なぜ自分に他人の人生を決める力があると思うのか、という気持ちです。


●おっぱいがうらやましい

 そんな育児スキルの中で、1つだけ男女差があるとすれば、男親から母乳が出ないことです。個人的にはおっぱいがうらやましいです。

 一番顕著なのは寝かしつけです。

 ミルクも飲んだ、おむつも汚れていない、汗もかいていない、それでも赤ちゃんが泣きやまない、そんなとき男はとにかく抱っこの仕方を工夫するしかありません。妻は「トントンしたり工夫してあげてよ!」というのですがスクワット&トントンなどはすでにやっており、手を尽くしているのですが、成果を得られなかったのです。

 そこであきらめて妻に赤ちゃんを渡しますと、赤ちゃんは母乳に吸いつきながら、気持ちよさそうに目を細め、ムニャムニャして、寝るのです。これは非常にくやしいです。

 おっぱいは赤ちゃんにとって、くわえているだけで安心できるリラックス効果があるともいいます。母乳が出なくても哺乳瓶などでミルクを飲んでもらうことはできるのですが、ミルクがなくなった時点で空気を吸ってしまうことになり、そこでおしまいです。赤ちゃんの口を離すと「終わっちゃった~!!」と泣いてしまうので、抱っこトントンに戻るしかありません。母乳を飲む期間はせいぜい生後1~3年程度と短く、ミルクだけでも赤ちゃんはすくすく育ってくれるわけですが、子どもを魅了できる哺乳能力というのはやはりうらやましいものがあります。

 そんなことを言っていると妻からは「母乳は決してラクなものではない」「出ないときは本当に困るし、出たら出たで授乳をしないとき張って痛くなる、基本は肉体なのでメンテナンスが大変で、むしろ厄介なこともある」「オマエは基本的にいいところしか見ていない、本質をわきまえていない」といった旨の反応が返ってきました。それはそうかもしれないけれども、あこがれは止められません。


●マウンティングがすごい

 逆に、男女の差が明確に感じられたのはマウンティングです。個人的にはこれが一番衝撃的でした。

 「男の人って立場の違いでバトルしないんですか!? 女はワーママ(ワーキングマザー)とシンママ(シングルマザー)と独身女性の間で壮絶なマウンティングがあって」

 と、そんな話題が出たのですが、バトルしないんですかというか、そんな世界があることをまったく知らなかったです。たいへん驚いたので、ためしにFacebookに書いたところ、

・ワーママ正社員、パート
・既婚同居、非同居
・既婚子供有、子供無
・既婚マイホーム、賃貸
・独身彼氏有、彼氏無
・保育園ママと幼稚園ママ

 といったマウンティング事例を挙げるコメントが速攻でつきまして、怖さがありました。

 男がポジションの取り合いをしているところは見たことがないです。あったとしても、飲み会で女性関係や悪事関係の武勇伝を語っては「まあおれも似たようなところあってさあ」と牽制するやんちゃ相撲くらいです。

 妻にもマウンティングについて聞いてみましたが、全然知らなかったそうで、驚いていました。

 「それはその人がそういう意識で、そういう世界に住んでます、ってことじゃないのかなあ。そんなに細かく他人のことが気になるかなあ……男性は女性ほどそういう環境差が目立ちにくい、ってことはあるかもね」

 と、言っていました。後半、たしかにそうかもしれないと感じました。

 わたしはよく分かっていないのですが、マウンティングというのは「大変ですよね~」という悪口の応酬により、自分が相手より優位に立っているという自負心をもつことだと理解しています。そもそも社会で多数派である男性が、同性同士で上位に立とうという気持ちが出てこないところはあるのかもしれないな、と感じます。

 というかむしろ、男は、飲み会や世間話で話題にする内容がもっと子供っぽいというか、生々しい話がないように思います。「石原さとみか有村架純どっちか1人と付き合えることになったらどうする!?」とか、「おれが監督だったら絶対あの判断はないわ、ありえない」とか、そういう話ばっかりのような気がします。

 最終的に男は、おっぱいのことしか考えていないのではないかとも感じます。わたしだけでしょうか。最近は睡眠不足のせいかもしれませんが、基本的におっぱいのことばかり考えています。裏返してみればそれは、自分にないものへのあこがれ、自分にしかないものへのこだわりという、自意識そのものなのかもしれないとも思います。変人の言うことですので、どうぞおたいらに。




書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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