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男子育休に入る第18回

赤ちゃんとの旅行はうんこが思い出

2017年07月19日 07時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita) 編集● 家電ASCII編集部

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34歳の男が家事育児をしながら思うこと。いわゆるパパの教科書には出てこない失敗や感動をできるだけ正直につづる育休コラム。

 家電アスキーの盛田 諒(34)です、おはようございます。水曜の育児コラム「男子育休に入る」の時間です。赤ちゃんが冬に生まれて8週間の育休を取り、復職して夏になろうとしています。関東は梅雨も明けていないのに真夏日が続いているため、海の日を利用して赤ちゃんと一緒に長野で避暑をしてきました。赤ちゃんがいるだけで大人だけの旅行とはまるで別物の経験になりました。抒情的な表現をしたいところですが、一番の思い出はうんこです。


●ポイントは授乳とおむつ

 出発日は電車の時間に余裕をもって朝5時起き。とても眠いですが、赤ちゃんは普段から深夜3~4時に母乳を求めてオニャーンと泣いているのでなじみの時間帯です。

 出発前に最後の荷詰めをしたところスーツケースは半分が赤ちゃんの荷物になりました。おむつ、おむつ替えシート、大量の着替え、哺乳瓶、粉ミルク、ドーナツ枕など。「一番の衣装持ちだね」と妻が赤ちゃんをなでながら言っていました。わたしの荷物は下着と靴下1枚だけでそれも少なすぎるだろうと感じました。

 大宮で乗車したのは新幹線《あさま》。赤ちゃんにとってファースト新幹線です。車窓からの景色を興味深そうにじーっと見ていました。鉄っちゃんデビューです。トンネルが続いたところは退屈そうにアーウーとしゃべっていましたが、やがてパッと森のやわらかい緑色に変わったところで、ふたたび窓の外に目を向けていました。深い空に白い雲が立ち上がっている、いかにも夏休みといった眺めです。空の上にすぐ宇宙が広がっていそうな、どこまでも遠くまで行ってしまえそうな景色です。恥ずかしい子ども時代の感情がよみがえってきました。

 一方、親としての自分はトイレにおむつ替え台があることに感動していました。おむつを替えるとき赤ちゃんはゆれに怖がってオニャーンと泣いていましたが。

 旅行の目的地は長野駅からバスで40分ほど山を上がったところにある戸隠です。

 戸隠は戸隠連峰、北アルプスを抱いた、スキー場で知られる山間地です。夏は空気が澄んでいて避暑地として気持ちが良いところです。かつては心理学者の河合隼雄先生や詩人の谷川俊太郎さんなどが集まって「戸隠ありったけ」なる会を開いていたゆかりの地でもあります。おなじ長野では軽井沢に赤ちゃん連れでも泊まりやすいホテルがあるそうですが、連休になると都会のように人が多くなるため、かえって気をつかってしまいそうな気もします。観光地然としていない戸隠はよけいな気をつかわなくていいのが気楽でいいかなと思っています。

 戸隠行きのバスでは迷わず最後部席を確保。赤ちゃんが母乳を求めたとき、妻が授乳ケープをササッとかぶって飲んでもらうためです。妻は授乳服&授乳ケープを駆使して隠密のように授乳していました。


●宿は安心のセーブポイント

 バスが山道をくねくね登り、大きな鳥居が見えたところで降車します。ひんやりと良い風が吹いてきました。戸隠神社(中社)です。

 戸隠神社は、奥社・中社・宝光社・九頭龍社・火之御子社の5社を配する神社です。歴史は古く、創建以来2000年といいます。それぞれ別の神様を祀っていて、一番山奥にある奥社が祀っているのが力持ちの天手力男命(アメノタヂカラオ)。日本神話で天手力男命が天岩戸(あまのいわと)を取って遠くに投げたとき、一方は宮崎県高千穂、一方は長野県戸隠山に落下したとされることから、戸を隠した=戸隠、と言われるようになったのだそうです。

 つまり天手力男命というのは筋肉の神様でして、何かと育児に必要な神様です。あやかりたいものです。

 中社は5社の中でも比較的詣りやすい場所にある、ロビーにあたるような広めの神社です。社殿の天井には狩野派の絵師・河鍋暁斎が描いた見事な龍図があり、御祈祷をあげてもらうときなどに鑑賞できます。境内にあるご神木の三本杉は樹齢800年以上という話で驚きです。あなたは鎌倉時代をご存知なのですか……。

 中社で手を合わせたあとは、赤ちゃんが泣きはじめないうちにお宿へ直行します。

 泊まったのは高山坊という古い宿坊。妻の仕事でご縁があり、数年来の付き合いがあります。ご主人の高山さんはとても人が良く、気さくで楽しい方です。

 予約の電話を入れると途中までマジメに受け応えをしているのですが、名乗った途端に「なんだ盛田さんか」と親戚のような口調になるのがおもしろいです。性格はとてもていねいなのですが、いかにも豪放磊落といった物腰をしています。赤ちゃんを見たとき「うわ~かわいいね!こんちは!」と大声で言い、赤ちゃんは迫力に押されて泣いていました。泣いた赤ちゃんを「ベロベロバー!」とあやしてくれるのですが、ベロベロバーにもすさまじい勢いがあり、赤ちゃんはかえってオニャーンと泣いていました。高山さんらしくて良いなと感じます。

 予約していた部屋は、赤ちゃんの声が響かないようにと頼んでいた奥の座敷です。荷物を置き、赤ちゃんのおむつを変えて、授乳をして、ポットのお湯でつくったミルクを飲んでもらったところでホッと緊張がゆるみます。宿のように安心して授乳とおむつ替えができる場所はセーブポイントのような気持ちになりますね。

 セーブを終えたところで外に出ると高山さんが「鏡池行くの? ならクルマ乗せてってあげるよ」と言ってくれるので、ありがたく乗せてもらうことにしました。


●旅行の主賓はいつも赤ちゃん

 鏡池は戸隠の山奥にある、本当に鏡のように澄みきった湖です。

 特に午前は陽光が正面から照らし、背後の戸隠連峰を湖面に美しく写し出します。当日の湖面にも、とてもきれいに鏡像が写っていました。まあ、赤ちゃんは気持ちよさそうに寝ていたので見ていないのですが。

 鏡池はやや引っ込んだ場所にあり、普通は山道を歩いていく必要があります。妻と二人で来ていたときは片道30~40分の山道を往復していたのですが、赤ちゃん連れだとさすがに無理があります。「今回は鏡池ナシかな」と話していたので、クルマで送ってもらえたのがうれしかったです。あらためて、赤ちゃんと一緒だとクルマの便利さをつくづく感じます。授乳やおむつ替えを考えると、クルマは移動するセーブポイントという気持ちにもなります。

 鏡池を堪能したあと、30分ほど木道(ボードウォーク)を歩いて向かったのは随神門。奥社に通じる参道の中程にある大きな門です。

 門の向こうには樹齢400年の巨大な糸杉が並んでいます。戸隠はスピリチュアルスポットとしても有名なのですが、杉並木を見たとき一発で納得がいきました。人間とはちがうスケールの時間を生きてきた巨木そのものが神様のように思えます。赤ちゃんを抱っこひもから出して杉のそばに行くと、小さな手で木肌にさわっていました。赤ちゃんの中でさわるのがブームになっていたのでよかったなと感じます。

 が、さわった後、赤ちゃんがオニャーンとはじめてしまいました。今かね。

 門の向こうにいるのであろう神様に頭を下げると、近くにあったベンチに座り、参拝客に背を向け、見えない角度で授乳をします。公共の場で授乳するのを不快に思われる方もありますが、周りから見えない場所で、きれいに済ませるなら、個人的には良いのではないかと思っています。良いマナーというのは子どものためにあってほしい気がします。

 ちなみに参道の入口にある駐車場にはおむつ替え台があって便利そうです。調べると最近できたもののようで、地元以外からの参拝客が増えた証拠だろうと感じました。

 宿に戻って荷物と赤ちゃんをおろすと緊張がほどけ、解放感に包まれます。座布団にゴローンと寝転がり、夕食の時間まで昼寝をしたくなりますが、わが家の赤ちゃんは本当に昼寝をしない人なので親だけ寝るわけにはいきません。

 抱っこをしたり、歌をうたったり、家にいるときと同じように赤ちゃんと遊んで過ごします。その後、夕食のときも赤ちゃんを座布団に寝かせるとオニャーンするため、妻が抱っこをしているうちにわたしがムシャムシャーッと食べ、すばやく妻と交代するという普段どおりの食事スタイルをとることになりました。

 旅行の主賓はいつも赤ちゃんです。夜は赤ちゃんに合わせて20時に寝てしまいました。


●家に帰るまでが遠足です

 翌日も赤ちゃんには主賓として、わたしたちの予定にお付き合いいただきました。

 宝光社で朝からお神楽を見たり、中社で家内安全のご祈祷をしてもらったり。赤ちゃんを抱っこしたまま長い石段を登ったりしつづけたこともあり、午後、帰る時間になると長距離走でも終えたくらいの疲労感が足腰にたまっていました。楽しいのですが、必要なのはやはり筋肉です。わたしたちだけでなく赤ちゃんも疲れたことと思います。ありがとう赤ちゃん。

 来たときとは逆のバスに乗って市内に降りたあとは、地元の百貨店にあるベビールームでミルクをつくり、新幹線に乗りこみました。JR駅構内にも授乳室とおむつ替え台はあるのですが、調乳用のお湯はありません。惜しいなと思いました。昔はベビールームがあることにさえまったく気づいていなかったので、自分の世界が変わったことへの驚きが大きいです。

 あらためて戸隠はとてもいいところだなと感じます。しかし数年前までは戸隠に赤ちゃんと一緒に来るとは思ってもみませんでした。

 調べてみると、戸隠は今や人口3500人ほどの過疎地域になっていました。スキー場や戸隠神社のような観光資源はあるため観光客は増えているようなのですが、住人が増えなければ、現在の形で戸隠が残りつづけるのは難しいだろうなと思います。やがて赤ちゃんが大きくなり、いつか自分だけで戸隠に来られるようになったときも、この雰囲気をできるだけとどめていてほしいなと感じます。きっといま日本中でこんな地域が増えていて、中にはひっそりとそのまま消えてしまう場所もあるのだろうと思うと、やるせない気持ちになりました。

 人口が減ってしまった未来の日本の姿に思いをやっていたところ、隣の席からお米の炊けるような匂いがしてきました。

 「うんこです……」と妻が言いました。

 新幹線から中央線に乗り換えて、新大久保駅を過ぎたあたり。ちょうど車内に人が増えてきたタイミングでした。今かね……。

 しかもおむつがユルかったようで、抱っこひもにもアウトしています。周囲も匂いで察したようで微妙な空気になっています。なるべくあわてず、おしりふきで足まわりを拭ってはビニール袋に入れ、拭ってはビニール袋に入れてをくりかえします。やがて赤ちゃんもウニャウニャはじめてしまい、あわててベビースポット検索アプリ「ママパパマップ」を起動。JR中野駅構内に複数のベビースポットがあるという情報を得て、多目的トイレに駆け込みます。サササッと着替えを済ませて難を逃れました。

 大量の着替えがあったのが救いでした。ちょっとよけいに思えるくらいの着替えが親の救いになるなと感じます。

 赤ちゃんとの旅行は家に着くまでが旅行です。家で荷物をおろしたあと「初めての遠出にふさわしい最後でしたね」と妻は言っていました。戸隠できれいなものを見て、楽しいことが色々してきたのですが、最終的に一番の思い出は帰り道のうんこ事案になりました。うんこも今しか経験できないこと(だと思う)ので、貴重な体験ができたと思うことにしています。いろんなところに行きましょうね。うんこ対策もちゃんと練っておきますからね。

■赤ちゃん旅行便利グッズ

・授乳服、授乳ケープ(必須でした)
・ガーゼおくるみ(掛け布団代わりにも)
・おむつ替えシート(シーツ代わりにも)
・大量の着替え(4日分程度あると安心)
・大量のよだれかけ(1日何回も替えます)
・粉ミルク(スティックタイプが便利)




書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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