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ユーザーの本音がスパークしたGoogle Cloud Nextの面白すぎたセッション

領収書をみんなで仕分ける日本の大企業もクラウドなら変えられる

2017年07月20日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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6月15日、Google Cloud Nextのセッションに登壇したのはクラウドエースの吉積礼敏氏。チャットボットを中心にGoogle Cloudの可能性を見せつけた前半だったが、後半にゲストのみずほヒューマンサービスの三浦由博氏が登壇すると、セッションは一気にギアアップした。

GCP専業として生まれ変わったクラウドエースの軌跡

 クラウドエースは、吉積情報のCloud Ace事業をスピンオフする形で昨年の11月に設立されたGCP専業のクラウドインテグレーター。現社長の吉積氏が興した吉積情報はGoogle Apps(現G Suite)やGoogle AppEngineしかなかった時代からGoogle Cloudのインテグレーションを手がけてきたが、昨年のGoogle Cloudの日本リージョン開設とタイミングをあわせ、GCPのインテグレーションに特化した会社として生まれ変わったわけだ。

キャップからTシャツまでGoogle色な吉積礼敏氏

 こうした経緯を持っているため、クラウドエースはすでに多くのGCP事例を抱えている。吉積氏が紹介したのは、IoTサービスの基盤をGCPで構築した京セラコミュニケーションシステムの事例。数多くのセンサーデバイスからのデータ収集や処理が可能な基盤をGAEとGCE、BigQueryで構築。「ノンオペレーションで運用でき、尋常じゃないスケーラビリティを確保できるところが評価されている」(吉積氏)という。また、SBイノベンチャーでは、アート作品のマーケットプレイスサービスをGCPで構築し、技術サポートと支払い代行を提供しているという。

 セッションでは、BPO事業を手がけるテレコメディアでのGoogle Cloud事例が披露された。同社はBPO事業において14カ国語対応のコールセンターを展開しており、約300の企業・組織で導入されているという。

吉積氏の質問に答えるテレコメディアの橋本力哉氏

 テレコメディアのGoogle Cloud導入は、おもに社内体制の強化や各部門の連携を目的にしている。国内9拠点のうち規模が大きいのは東京と徳島の2カ所で、残りの7カ所は50名程度のいわゆるサテライトオフィスだ。テレコメディア代表取締役社長の橋本力哉氏は、「少子高齢化や労働力不足といった中で、地域の人材資源を活かしていくため、こうした中小規模のオフィスを増やしている」と語る。こうした複数のオフィスでメンバー同士がコミュニケーションをとるために利用されているのがG Suiteになるという。

内線電話での問い合わせを激減させるチャットボットの可能性

 こうしたコールセンターで利用できるテクノロジーとして、吉積氏はチャットボットを紹介する。吉積氏は、グーグルが昨年買収したapi.aiのサービスを用いて、ピザの注文を受けるチャットボットの作成をデモンストレーション。「オーダーする商品と会話のバリエーションを定義し、シナリオに当てはめるだけで30分程度でできてしまう。REST APIで他のチャットツールと連携することもできる」とアピールした。Translate APIを用いた多言語対応のチャットボットも容易に開発できるということで、現在テレコメディアで導入を検討しているという。

 みずほグループ傘下のみずほヒューマンサービスも、こうしたチャットボットに期待を寄せる1社だ。

 テレコメディアの橋本氏が銀行の内情に精通していることもあり、もともとみずほグループは通訳サービス等でテレコメディアのユーザーだった。そのつながりで現在、同社はテレコメディア、クラウドエースとプロジェクトを組み、クラウドベースのチャットボットシステムを構築、一部運用している。

 グローバルを見据えたチャットボットの利用は、内線電話への対応も想定している。みずほグループは広義で4万人を超える従業員がおり、内線電話の本数だけで推定年間億単位になる。登壇した代表取締役社長の三浦由博氏は「半分以上は何らかの照会電話。たとえばロンドン支店の課長に転勤の辞令を送ると、家族の帰国予定や社宅の手配に関して電話が人事部門にかかってくる。それらの問い合わせ数年間分を調べてみたところ、その内容はパターン化できることがわかった」と語る。

みずほヒューマンサービス 代表取締役社長 三浦由博氏

 そのパターンを調べると、250のQ&A程度で人事部門にかかってくる電話の約8割をカバーできることがわかった。三浦氏は、「1億本の内線電話、3分間かかるとして、半分になるだけで、数百人のマンパワーが浮いてくる。内線電話だけでもこれだけのことができるなら、まずできることからやっていく」と語り、大企業ならではの効果の大きさをアピールした。

 同じチャットボットで進めているのは、産休育休をとっている約3500人におよぶ従業員へのサポートの自動化。復帰や手続きに対する問い合わせに対して、AIで自動対応する仕組みを現在準備しているという。

ベンダーは聞き込みが甘い ユーザーは意見を言わなすぎる

 長らくみずほ銀行で、テーマパーク、ホテル、メーカーなどの立ち上げ・再生に携わり、大支店の支店長、みずほ銀行常務執行役などを歴任してきた三浦氏は、企業経営のまさにプロフェッショナル。吉積氏との質疑応答セッションでは、ITベンダーやクラウドを受け入れる日本企業の風土に対してオフレコも含めた持論を展開し、会場を大いに沸かせた。

 まずAI導入に関して聞かれた三浦氏は、「自然言語処理と、答えに行き着く仕組み作りのために徹底的にカスタマイズを行なったことが成功の秘訣」と答えつつ、「もう少しユーザー側の都合を、ベンダーも考えてほしい」と苦言を呈する。「古い大企業はこうすべき、こう変わるべきという意見は確かにわかりますよ。わかります。でも、そう簡単にはいきませんよ。僕らの気持ちにもなってくれ(笑)」と意見を投げかける。「この2人(橋本氏、吉積氏)が難しいことをいろいろごちゃごちゃ言うけど、よくわからない。使うのは僕らなんだから、もっとわかりやすく説明してよ。使う方はもっとどんどん文句言うべき」と言われ、壇上の2人は苦笑いする。

 ユーザーは求めるべき成果と要望を明確にベンダーに伝えることが重要だという。「たとえば、台湾の女性スタッフからの問い合わせをイギリス育ちの社員が受けている。同じ英語なのに話しが伝わらない。だったら台湾語と日本語でやりとりできるようにしてほしい。こういう具体的な要件定義をベンダーは絞り込むべきで、現状は甘いと思う」と三浦氏は語る。

 「お客様の事情からスタートすべし!」を徹底的に叩き込まれた三浦氏にとってみると、既存のITベンダーの聞き込みが甘く見えるようだ。「『こんなすごいのができた。どうだ参ったか』というのは、もうやめてほしい。さっきのピザの注文だって、僕だったらダイエットしているから、厚いのじゃなくて、薄いのがほしいと思うけど、そんな機能全然ない!」のコメントに、会場は爆笑に包まれる。

無駄だらけの大企業のシステムは「生産性向上のフロンティア」

 続いてクラウドに対する期待を聞かれた三浦氏は、「今のシステムは画面のカラム1つ動かすだけで、数百万円かかる。であれば、既存のシステムのバージョンアップではなく、クラウド前提で考えた方がいい。直すよりも、1からクラウドで組み立てた方が早いケースもあるはず」と答える。歴史が古くて、大きな会社の内部手続きには数多くの無駄があり、「生産性向上のフロンティア」(三浦氏)となっている。こうした歴史のある日本企業をいくつも立て直してきた三浦氏の、「日本は古い大企業から、突然クラウドに動いていくと思う」という言葉はあまりにも重い。

 三浦氏の話はさらにスパーク。「グローバル企業のKPIは時間で、日本でも先端的な会社は分単位で業務削減に取り組んでいる。一方で、古い企業のKPIは標準人員。頭数で考える会社は遅れている」と指摘。こうした中、経費精算のような手近な時間を自動化するクラウドの導入は、大企業にとっても入りやすいという。

 その上で、戦略については、「お客様の口座の管理を外部に任せたら存在意義を問われる。現時点ではそれを外部に任せることは考えにくい。ただ、行員を支える仕組みではクラウドを活用して、少しでも業務を楽にしていこうと考えている」とコメントする。

 こうし戦略の中で、三浦氏が目指すのはあくまで足下の業務改善だ。「企業あるある」として、三浦氏はインフルエンザの予防接種補助を取り扱う様子を説明。「家族もインフルエンザの予防接種を受けましたということで、いろんな領収書が紙で人事部に送られてくる。溜まった領収書を段ボールから開けて、優秀な社員のみなさんがこれを仕分けるんです。うちの会社は明るいから、お祭りみたいにみんな楽しくやっていますが、普通の会社はなんとかしなきゃと思ってますよ」と三浦氏は指摘。これに対しては、領収書を撮影し、クラウド経由で自動的に承認フローに進むようなシステムが準備できつつある。「こういうことって、みなさんの社内でもいっぱいあると思いますよ。ぜひいっしょにやっていきましょう」と会場に訴えかけ、エキサイティングな講演はタイムアップになった。

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