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ロッテ骨肉の争いを制した次男に父の後見めぐる新疑惑

2017年07月04日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:AP/アフロ、Rodrigo Reyes Marin/アフロ、YONHAP NEWS/アフロ

ロッテホールディングスの株主総会で創業者が取締役を退任し、自身の取締役復帰を求めた長男も敗れたが、父と兄を排した次男も薄氷の上に立つ。骨肉の争いに新疑惑が浮上した。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本 輝)

 たった一人参加した株主の前に、経営陣8人と監査役1人、その後ろに弁護士5人と執行役員3人がズラリと居並ぶ。6月24日に開催されたロッテホールディングス(HD)の定時株主総会は、一般的な上場企業のそれとは趣が異なり、漂う緊張感もただならぬものだった。

 経営陣の席に創業者の次男である重光昭夫副会長(韓国ロッテグループ会長)、株主席に長男であり、ロッテHDの筆頭株主である光潤社の代表の宏之元副会長が座る。経営権を争う“兄弟げんか”の縮図がそこにはあった。

 この日、創業者である武雄名誉会長は70年近く務めた取締役を退任した。宏之氏は武雄氏と自身の取締役選任を株主提案したが否決され、経営権争いでは現在ロッテグループを支配する昭夫氏に軍配が上がった。宏之氏は過去の株総で既に2度、自らの経営権復活を図る株主提案を行っているが、三度目の正直もならなかった。

疑惑の後見申請

 株総に先立つ6月初め、別の舞台でも昭夫氏は勝利をつかんでいた。韓国で武雄氏の「限定後見」を開始することが決まったのである。韓国の制度において、「成年後見」は本人に事務処理能力が欠如している場合に指定されるのに対し、限定後見は比較的能力が残っている場合に指定される。それでも、不動産契約や預金の管理など一定の範囲で後見人の同意が必要になるなど、制約は多い。

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 事の発端は2015年末。武雄氏の実妹であるシン・ジョンスク氏が、武雄氏には健康面で問題があるとし、成年後見人指定の申請を行った。武雄氏から後継者指名を受けた宏之氏にすれば、後見開始が認められると、指名時に正常な判断力があったのか疑問符が付き、後継者となる根拠が揺らぐ。つまり昭夫氏には有利になる。1年以上にわたる攻防の末、韓国の最高裁判所は今回の審判を下した。

 限定後見人を付けることを武雄氏が望んだのであれば、なんら問題はなかろう。しかし、武雄氏の望みではない。その上、実は申請の経緯にも疑惑が浮上している。

 韓国では昭夫氏と武雄氏、宏之氏らが、背任・横領の罪で刑事裁判を受けている。その一連の裁判の資料を入手した関係者たちは驚愕した。そこには、後見申請は経営権を握るために昭夫氏側が画策したものであることを裏付ける内容が含まれていたからだ。

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 捜査資料の証言を基に関係者の話を総合すると次のようになる。15年7月以降、経営権争いは泥沼化していた。武雄氏は後継者に宏之氏を指名し、それをロッテHD本社の社員の前でぶち上げた。翌日、今度は昭夫氏が武雄氏を代表取締役から解任。昭夫氏対武雄氏&宏之氏の対立が激化していった。このとき昭夫氏が見いだした打開策が、武雄氏に成年後見人を付けるというものだった。

 そこで15年末ごろ、当時韓国ロッテグループで昭夫氏の腹心として絶大な権力を握っていた李仁源副会長(16年に自殺)が、ジョンスク氏の夫に接触。兄弟の争いにはまるで無関係だったジョンスク氏を説得し、後見申請を行わせた。

 もともとジョンスク氏と武雄氏は疎遠な間柄。ジョンスク氏による唐突な後見申請は、武雄氏の兄弟間でも首をかしげるものだった。宏之氏との争いが韓国でも話題になっている中、昭夫氏本人が申請すれば世論に悪影響を及ぼすため、角が立ちにくいジョンスク氏に白羽の矢が立ったのだ。後見人指定に関する裁判所の審判では、昭夫氏側である韓国ロッテグループが全面的にバックアップした。

 結果、成年後見とはならなかったが、限定後見の開始が決まり、昭夫氏は二つの果実を手に入れた。

 一つ目は、武雄氏をロッテHDから合法的に排除する口実だ。日本の会社法では、外国で被後見人となっている者は取締役になれない。これは限定後見の場合にも当てはまり、武雄氏がロッテHDの取締役であり続けることは困難になる。

 二つ目は、武雄氏による昭夫氏への“攻撃”を無力化できることだ。宏之氏を後継指名した武雄氏の判断自体に揺さぶりをかけ、今後の武雄氏の発言にも昭夫氏は疑義を呈することが可能になった。

 宏之氏側もただ指をくわえていたわけではない。16年末には宏之氏を武雄氏の「任意後見人」とする申請を韓国の裁判所へ行った。任意後見人は、裁判所が後見人を指定する限定後見人等とは異なり、被後見人の意思で後見人を選べる。これが認められれば、本人の意思が優先され、限定後見は無効となる。

 限定後見の審判において、本来は精神鑑定をして妥当性を判断すべきところ、武雄氏が拒絶したため精神鑑定が行われなかった。「限定後見そのものの判断が適切か疑義がある」と韓国の弁護士は指摘する。武雄氏に十分な判断能力があるとすれば、任意後見人の申請は認められる可能性がある。

4社統合にも疑念

 後見をめぐるバトルは、株総同様に現在は昭夫氏側が制し、宏之氏側が逆転を狙っている状況。しかし、目下の絶対君主は、薄氷の上に立っている。昭夫氏に対する朴槿恵・前韓国大統領らへの贈賄容疑については、刑事裁判の結果がまだ出ておらず、その行方次第では、昭夫氏支配による“ロッテ帝国”は砂上の楼閣となるかもしれないからだ。

 ロッテHDの経営権争いの焦点は、光潤社に次ぐ主要株主で約3割の議決権を持つ従業員持株会の動向にある。現在は昭夫氏体制を支持しているが、「昭夫氏が有罪になるようなことがあったとして、そのまま持株会は昭夫氏を支持し続けていいのか。長期的な視点で冷静に判断してほしい」と宏之氏は訴え続けている。

 もし有罪となり従業員持株会からの支持を失えば、昭夫氏はお払い箱となる。その焦りからなのか、韓国では4月、ロッテショッピングなど韓国内グループの中核4社を統合することが打ち出された。

 もともと昭夫氏は日本のロッテHDがグループ全体を支配する構造を変えるために、韓国の実質的な持ち株会社であるホテルロッテを上場させることを主張してきた。ところが、贈賄等での在宅起訴などによって環境が変化。ホテルロッテの上場は当面困難になり、その代わりに浮上したのが韓国4社の統合案だ。

「統合してできる新会社は昭夫氏が2割程度の株式を持ち、実質的に昭夫氏が自由に支配できる会社になる」とロッテ関係者。「刑事訴訟の行方次第でロッテHDを追われるかもしれないため、韓国内で自身の基盤をつくっておく魂胆だろう」と同関係者はみる。

「統合で昭夫氏が有利になる細工がなされている」という声もある。統合する4社のうち、最も昭夫氏の保有株式が多いロッテショッピングの評価をかさ上げすることで、統合後の自身の影響力を拡大するつもりではないかというのだ。

 韓国では通常、1株当たり資産を算出するのに総株数を用いる。今回のケースでは「ロッテショッピングに対してのみ自己株式を除いた株数を用いることで、1株当たりの額を相対的に大きくしているようだ」と宏之氏側は指摘。その他の資産価値や収益価値の算定の方法についても、怪しい点があると宏之氏側は言う。

 そうした操作がまかり通れば、ほか3社の株主は不利益を被ることになろう。4社とも上場企業である以上、コンプライアンス上の疑義があってはならない。

統合阻止へ仮処分申請

 統合を承認する各社の株総が8月に開催される予定で、このまま開催されてしまえば承認される公算が大きい。しかし、宏之氏が開催の中止を求める仮処分を申請しており、ここでも火花を散らす。

「昭夫氏と現経営陣の体制下で、反対勢力はすぐに左遷されるなど恐怖政治がまかり通っている」と日本のロッテ関係者。お家騒動の長期化で社員は疲弊している。

 事業そのものにも不安が残る。中国の反韓感情の高まりを背景に、中国事業で莫大な損失を出し、韓国内で主力の免税店事業も陰りを見せるなど問題は山積している。

 一刻も早い正常化こそ今後の成長には不可欠だが、非常事態を脱する気配はいまだない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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