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「音楽を作るだけではなく、サウンドを作るのが仕事」とは?

ファイナルファンタジーXIVの「音」を担当した祖堅正慶氏が語る「ゲームと音の世界」

2017年07月05日 17時00分更新

文● 貝塚/ASCII

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オフィスには、受賞時の盾や、ファンから送られた色紙などが展示してある

 音楽制作、特に作曲ではDAWを使う。ゲームの音源制作の現場では、DAWソフトとして「Cubase」が使われることが多い。ゲーム開発ではゲームエンジンの兼ね合いからWindowsが使われるケースが多く、Windows環境との相性がいいことも理由のひとつかもしれない。Cubaseを使う利点について、祖堅氏の意見を聞いてみた。

 「わかりやすい! できることがいっぱいある! いまだに知らない機能もいっぱいあると思います(笑)。もちろんよく使う機能のことは知っているのですが、知らないボタンをうっかり押してしまって、『え!? なにこの機能?』って驚くこともしょっちゅうです。まあ、そうやってまた新しい機能を知ったりするんですけどね(笑)」

 特に便利に感じる機能は何かと聞いてみた。

 「Cubase Pro 8から入った『インプレイスレンダリング』はかなり便利に使っていますね。MIDIデータをパッとオーディオに書き出してトラックに自動配置してくれる機能で、ちょっとだけ結果の確認をしてみたいな、というときとかに使います。頻繁に手直しや調整を行うゲーム音楽制作の現場では、かなり便利ですね」

 取材したスタジオは11台のモニタースピーカーが置かれていて、サラウンド制作にも対応できる充実した設備が用意されていた。ゲームでもサラウンド制作が当たり前になっている。シアター用の音源制作では楽器や効果音を空間上の自由な位置に配置して動かせるオブジェクトオーディオの技術が使われ始めているが、ゲームではインハウスのツールを使って、100個、200個といったオブジェクトを扱うのは以前から当たり前に行われており、サラウンドミックスへの移行もスムーズだという。

 「これ、アスキーを読んでいる読者さんならわかると思うんですけど、『ファイナルファンタジーXIV』のWindows版の場合、ゲームの起動時に、Windowsマシンの出力がステレオなのか、5.1chなのかをOSに問合せにいく仕組みを入れているんです。そこで、ステレオならステレオ用に、『ファイナルファンタジーXIV』専用で用意したダウンミックスミキサーで処理して、適切な出力をOSに渡しています。

 OS純正のダウンミックスの結果に納得できなかったので、ダウンミックスをOSに任せたくはない(笑)。あらゆるデバイスを使って検証して見つけた最適なダウンミックス係数を使って、(スピーカーに送る)直前で音を書き出す仕組みになっているんです。先ほどお話ししたサウンドエンジンでリアルタイムに音をシミュレートしているので、チャンネル数が例えば100になっても余裕で対応できるようになっています」

「プレイヤーの皆さんの顔を思い浮かべると、手は抜けないですよね」と祖堅氏

 「ファイナルタンタジーXIV」の音楽を担当している祖堅氏だが、思い入れの強い曲や、印象に残っている曲はあるのだろうか? 返ってきた回答は……。

 「うーん……全部! 全部の曲です!」というもの。

 「僕ら(ファイナルタンタジーXIVの制作チーム)って、イベントなどでプレイヤーの皆さんとお会いする機会が多いですし、直接ご意見をいただくこともある。いいことも悪いこともいっぱい言われるんですが、それはすごくありがたいことだと思っています。そして作っているときにはその顔が浮かんできます。

 だって、考えてみてもくださいよ。すごくキラキラした笑顔で、『次もすごくたのしみにしてます! 頑張ってください!』って言われたら、『やってやろう!』ってなりますよ。僕も人間だから、ちょっと辛いなあ、嫌だなあっていうときはあります。でもプレイヤーの皆さんの顔を思い浮かべると、手は抜けないですよね」

音楽制作の源はどこにある?

 最後に、祖堅氏がサウンドや音楽を作る源、力になっていると思うものは何かと聞いてみた。

 「日常の全てですね。もちろん、好きな音楽、好きなアーティスト、いろいろありますけど、それよりも、毎日色々なものを見て、色々なことを感じて、それが作るものに結びついていると考えています。それは、飲み屋でお姉ちゃんと話したとか、そういうことの場合もあるかもしれませんが(笑)」

THE FAR EDGE OF FATE: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack

 6月7日に発売したばかりの「ファイナルファンタジーXIV」シリーズ通算5枚目のサウンドトラック。2015年6月23日発売の拡張パッケージ『ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド』のパッチ 3.2からパッチ 3.5までの楽曲計50曲を収録。シリーズの特徴である「Blu-ray Disc Music」により、収録時間は実に292分。96kHz/24bitのハイレゾ音源に加え、PCやポータブルプレイヤー用のMP3音源(320kbps)や映像も楽しめる。価格は5000円+税。

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祖堅正慶

 1999年に株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社後、「かまいたちの夜2」「ロード オブ ヴァーミリオン」シリーズなど有名タイトルのサウンドデザインを担当したほか、「聖剣伝説4」「ナナシノゲエム」シリーズなどで作曲やアレンジも担当。サウンドディレクションを担当する「ファイナルファンタジーXIV」は、「ビデオゲームで最も多くのオリジナル・サウンドトラックを持つタイトル」としてギネス世界記録に認定された。2014年には同作公式ロックバンド・THE PRIMALSを結成し、北米・欧州・日本でのツアーイベントに出演。ワールドワイドに活躍の場を広げている。

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