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異能な人列伝第3回

HoloLensでディスプレイから解放されれば、ビジネス会議だって4次元化できる!!

ホロラボ中村氏にHoloLensと複合現実から見える“未来”を聞いてみた

2017年06月30日 14時30分更新

文● プログラミング+編集部

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 総務省が実施する独創的な人向け特別枠『異能(Inno)vation』にちなみ、世の中の “異能” な才能を見つけ出してご紹介する本連載。第3回目となる今回は、MR(複合現実)が体験できるデバイスとして注目度の高い『Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)』を活用した企画開発などを手がける、株式会社ホロラボのCEO・中村薫氏をフィーチャーする。

 中村氏はもともと『Kinect(Microsoftが提供する、人間が動きやジェスチャーで機器を操作するデバイス群)』などのアプリ開発を経て、2016年5月からHoloLensに関するコンテンツ開発や活用に関する講演などをいち早く手掛けてきた。現実空間と仮想空間の境目があいまいになっていくことで、時間や場所という物理的な制約からの解放が進めば、人々の考え方や実空間の価値はこれから大きく変わりうると中村氏は語る。プログラミング教育の在り方などにまで話が及んだ、中村氏ならではの “異能” な着眼点の一端を、本インタビューから是非感じていただきたい。

“ひとつの体験を共有する未来” が、MR(複合現実)でさらに加速していく

―― 2017年1月に、HoloLensを軸にした開発などを展開する株式会社ホロラボを中村さんは立ち上げられました。それはどういった経緯から始まったのでしょうか?

中村氏(以下、敬称略) もともとはソフトウェア会社に所属して、業務としてWindowsアプリ開発や組み込み系の開発をしていました。そのなかで2011年頃に転職した会社の入社日に、社長から「Kinect(Microsoftが提供する、人間が動きやジェスチャーで機器を操作するデバイス群)ってあるんだけど興味ある?」と言われ、やります!と言ってKinectを触り始めたことが、今にいたる原点だと言えます。2011年5月にはKinectに関する書籍を出版したのですが、それがKinectを扱った最初期の書籍だったこともあって、いろいろな方から注目していただくことができたんです。その流れでお仕事の相談を受けることが増え始めてきたこともあり、「Kinectで仕事がしたいな」という思いから所属していた会社を退職して、2012年に独立しました。

―― HoloLensと出会う前に、同じMicrosoftが提供するKinectに関する開発をされていたんですね。

中村 そうですね。Kinect関連の開発をしていたなかで、昨年(2016年)の5月にアメリカなどで先行販売されたHoloLensをいち早く入手しました。当時は日本に数台しかHoloLensがないという状況もあったのでいつも持ち歩いていたら、入手して一ヶ月で数十人くらいにはHoloLensをかぶせてましたね(笑)。その後、開発に関するお話も増えてきたなかで、個人としてやるよりも会社を作ったほうがよいと考えて、2017年1月に会社を始めたんです。

―― 会社を作られてまで中村さんがHoloLensに関わっていこうと思われたのには、特別な理由があったのでしょうか?

中村 HoloLensがどうしてここまで自分の琴線に触れたのか、実はあまりよく分かっていないんです(笑)。もともとデバイスが好きで、他のVRやAR系デバイスにもたくさん触れてきましたが、これまで触れてきたものとHoloLensは感覚的に違ったんですよね。HoloLensがKinectの延長線上にある存在だということは、琴線に触れた理由のひとつではあると思いますが……。

―― 他のARやVR、MRに関する技術やデバイスについてはどう感じられていますか?

中村 HoloLensとよく比較される、Googleの『Tango』や、Appleの『ARKit』技術を用いたデバイスにはあまり惹かれないんですよね。HoloLensは「現実空間に仮装レイヤーを一枚入れる感じ」だとよく表現されるんですが、他のMRに関する技術は、それが “のぞき窓” のようなイメージなんです。どの技術やデバイスが良いとか悪いとかは決してなくて、それぞれが補完関係にあると思いますが、そのなかで私が面白いと感じるのはHoloLensだという言い方はできると思います。実際、ホロラボのメンバーは、HoloLensに関する興味では統一していますが、他のVRやARに関する開発もしているんです。

―― ホロラボという会社としては、どういうお仕事をされているのでしょうか?

中村 ディレクションやコンサルティングを伴ったHoloLensに関する受託開発をやっています。「HoloLensってどういうもの?」というクライアントさんはまだまだいらっしゃるので、先方が実現されたいことに合わせて方向決めをして、開発に落とし込んでいくスタイルで受託するケースが多いですね。最近だと、コンテンツ東京2017で展示された『HOLOBUILDER』というMRコンテンツ(YouTubeの紹介映像はこちら)に開発で関わっています。

―― MR(複合現実)を中心とした分野は、今後どのような面白さを持っていくのでしょうか?

中村 HoloLensのようなデバイスがもっと増えて、現実と仮想のレイヤーがどんどん混じり合っていくと、とても面白くなっていくと思っています。「複合現実、つまりMRってなんだ?」という話題について、いろいろと定義はあるのですが、やはり境界があいまいになっていくのがいちばん面白いんです。HoloLensは『Sharing』という空間共有の機能を持っているのが特徴のひとつなのですが、その機能を使えば複数の人が同じ視点で何かを見ることができるんですね。現時点ではHoloLens同士での共有に留まっていますが、今後スマートフォンやPC、テレビといったすべてのデバイスがひとつの空間に入っていって、VRやARなども含めたそれぞれの方法で “ひとつの体験を共有する未来” が、これから始まっていくんじゃないかなと思っています。

―― そんな未来が始まりつつあることを、HoloLensは示唆するデバイスということなのでしょうか。

中村 ユニバーサルWindowsプラットフォーム (UWP)』というアプリケーションの共通開発基盤が提供されたことで、HoloLensとキーボードやマウスがあれば、Officeやメール、カレンダーといった、2Dのソフトウェアも動かすことができるんですね。そうすると、表計算の方法やプレゼンテーションの見せ方が3次元に変わっていく可能性はあります。具体例で言うと、PowerPointのプレゼンテーションに3次元データを埋め込めるという話も出てきていますし、そこに時間軸を加えれば4次元の表現もできるわけです。ホビー用途から実務へと “HoloLensで実現できそうなこと” は広まってきつつありますよ。

―― HoloLensを付けて、プレゼンテーションや表計算を3次元で共有しながら議論する、というのは確かに未来的な会議風景ですね(笑)。

中村 3次元を俯瞰視点で見ることもHoloLensは可能なので、その俯瞰映像をディスプレイに映し出して共有することもできるんです。HoloLensは3次元の表現にこだわらず活用方法を考えられるので、思ってもみなかった活用シーンが今後もたくさん生まれてくると思いますよ。

面白いと思うことに出会い、それを発信しつづけることが、新たな出会いも生むためには重要

―― そもそも中村さんが、デバイスや開発、プログラミングといったことに関心を持たれたのはどういった経緯からだったんですか?

中村 大元を辿ると、ゲームをプレイすることとパソコンが昔から好きだったんですね。その2つを組み合わせたらどんな仕事ができるかなと思って、あるときゲーム雑誌を読んでいたらゲームクリエイターという職業があることを知り、高校卒業後にゲーム制作を学ぶ専門学校へ進んだのがきっかけですね。

―― その当時からプログラミングはされていたんですか?

中村 いいえ、専門学校に入る前は、プログラミングしたり、何かを制作したりということはしていなかったです。

―― 専門学校へ進学されたことで、プログラミングや開発へとのめり込んでいかれたということなのでしょうか?

中村 そうですね。入学して最初の一ヶ月はVisual Basic言語でプログラミングの基礎を学んで、それからC言語やC++言語へと移っていったのですが、そこでどんどんプログラミングへ夢中になっていったんです。

―― 夢中になれたのは、プログラミングすることでゲームなどを制作できるようになったからですか?

中村 何かを作り出せるからプログラミングが好きになったというよりも、私の場合はプログラミングすること自体が好きなんですよ。そしてひとたび興味を持つと邁進してしまう性格なので、まんべんなく興味が持てなくて(笑)。今でもひたすらプログラミングばかりやっている感じですし、プログラミング以外で普段何をしてるかと聞かれても、あまり浮かばないんですよね。

―― それだけ夢中になれるものと出会えるというのは、すごく貴重なことですよね。

中村 結局「好きこそものの上手なれ」ではないですが、自分の内側から興味が生まれてこないと何も始まらないなとは思います。ですが、たとえば教育の話をすると、学ぶ側の興味を育てるために工夫できることも、まだまだ多いなと思うんです。

―― その工夫というのは、具体的にはどういったことなんですか?

中村 HoloLensなどのデバイスや技術を使って3次元空間でプログラミングができると、たとえば数学や物理の授業で、今までは頭のなかでイメージするしかなかった計算結果などを、実際に自分の目で見て確かめることができるようになるんです。三角関数で実際に物体が回転することも目で見て分かりますし、きれいな円を描くためには三角関数を理解していないといけないことも、空間的に認識できればグッと確認しやすくなりますよね。物理計算することで重力加速度が変化することも理解しやすくなりますし、それこそ文系科目でもクイズゲームをプログラミングして、何かを作っているうちに意識せず勉強をしていたという経験をすることもしやすくなると思います。「この勉強って、社会に出て何の役に立つの?」という誰もが一度は考えたことのある疑問への回答が、3次元プログラミングにはあるんです。

―― いろいろな内容を分かりやすく学ぶための手段として、プログラミングが教育現場へ導入されるのは望ましい在り方のひとつといえますよね。そのなかで「あ、自分はコードを書くことが好きかもしれない」となれば、プログラミングをより深く学んでいけばいいわけですし。

中村 プログラミング教育というのもひとつの手段にしながら、自分にとって面白いことが何なのかを探していくことが、一番大切だと思います。自分が面白い・楽しいと思うことをやって、それについてアウトプットを発信していると、不思議なことに人も情報も、あとから思えば「タイミングよかったな」と感じるようなラッキーな出会いも集まってくるっていうのが、僕が実体験して感じたことですね。

物理的制約を覆す未来がMRにはある、ここで乗らない手はない!!

―― 今までのお話も踏まえていただきつつ、中村さんが今後考えられている未来の在り方や、今後の展望についてお聞かせください。

中村 MR、つまり複合現実を可能にするデバイスがあることで、複数人での空間共有が可能になるわけですが、そうすると場所や時間の概念が変わってくると思うんです。たとえばHoloLensを使うと、実際は違う場所に居てもひとつの空間で仮想的に集まることができます。また、その仮想空間の状態を記録しておくことで、時間を超えて空間を再生することもできます。これまでは物理的にどうしようもなかった場所と時間という制約を、自由自在に変えられるパラメーターにすることができれば、さまざまなことが変化してくるんじゃないかなというふうには考えていますね。

取材会場のYahoo! JAPAN『LODGE(ロッジ)』で受付を務めるPepperくんとの一枚。

―― そういうお話をお聞きすると、時間と場所が大きな意味を持つ “文化” というのも、また大きく変わってきそうな気がします。

中村 そうかもしれません。昔は実社会から大きな影響を受けて文化が生まれていましたが、たとえばTwitterやFacebookというサービスができたことで、それぞれの空間にそれぞれの文化が生まれたことを思うと、MR技術によって実現する “リアルへより近づいた仮想空間” ならではの文化というのもこれから出てくるんだろうと思います。そういう意味では、バーチャルルームにVRで集まることができる『cluster.』というサービスは、いま目指すべき方向のひとつを示していて面白いなと感じています。

―― すこし大げさな質問かもしれませんが、そうして仮想空間と現実の境目があいまいになっていくことで、社会はどんなふうに変わっていくと思いますか?

中村 お話したとおり、時間と場所の制約はどんどん減ってくると思いますから、物理的に移動することが今度はすごく贅沢なことになっていくんじゃないかと思っています。物理的な制約を仮想空間で解消することができたなら、実際に体験したことの価値は相対的に高まることになりますよね。時間とお金を掛けてその場所へ行かないと体験できないことの価値というのが、これからはもっと重要視されるんだろうなと思いますよ。

―― そういう未来には、なんだか期待しか感じられませんね。新しい価値が実空間でもまた生まれてきそうです。

中村 もちろん私も期待もしています。でもそれ以上に、そういう未来へ純粋に「楽しそうだな」という気持ちを、本当に強く感じるんです。そして、そう感じさせてくれるHoloLensやMR技術に対して、ここで乗らない理由はないなって思っています。

―― 今までは制約だと思っていたものが、気づけば価値に変わっていたということも、これからはたくさん出てきそうです。

中村 そういうなかで、人々の考え方や価値観が変わってくるというのはきっと起こるんだと思います。MRやVR、ARといった技術が社会を変えるかもしれないと感じるのは、つまりそういうことを予感させてくれるからなのかもしれません。

中村 薫

Microsoft Kinectをきっかけに個人事業主となり、Microsoft HoloLensをきっかけに会社を設立した。業務ではなく趣味のHoloLens活動としてHoloMagicians (https://hololens.connpass.com/) というコミュニティ活動も行っている。休日はボランティアで子どもたちへプログラミングの場を提供する「CoderDojo 調布 (https://coderdojo-chofu.doorkeeper.jp/)」での活動も行っている。
株式会社ホロラボ (http://hololab.co.jp/) CEO、Microsoft MVP for Windows Development、著書に『KINECT for Windows SDKプログラミング v2センサー対応版』など。

ちなみに今回の取材ではYahoo! JAPAN『LODGE(ロッジ)』をお借りしました

 中村氏が創業した株式会社ホロラボのメンバーは、時間と場所の制約を受けることなく、基本的にリモートワークで業務をされている。しかし実空間での打合せやミーティングも当然あるわけで、そんな際に普段からオフィス代わりに利用されているのが、Yahoo! JAPANのオフィス内にある日本最大級のオープンコラボレーションスペース『LODGE(ロッジ)』だ。取材当日は『LODGE』のサービスマネージャーである、ヤフー株式会社の植田裕司氏も同席のうえ、リモートワークなどが進む今こそ、実空間での出会いや気づきの創出に価値があるということをお話しいただいた。

ヤフー株式会社 植田氏
 当社が2016年10月、新オフィスである今の紀尾井町へ移る際に重要視していたことが「ヤフーから世の中を “びっくりさせるサービス” を生み出すための環境を作っていきたい」ということでした。そして “びっくりさせるサービス” を生むためには「人と人とが交差して新しい気づきを生み出すことが重要だ」という考えを根本にもって、現在のオフィスを作ったんです。
 社員同士の交差を生み出すために全館フリーアドレスを導入していますし、社内専用ロッジというのも作りました。そして、社員と社外の人たちの交差点を生み出す目的で作ったのがこの『LODGE(ロッジ)』です。
 ヤフーが着手できていない事業領域はまだまだあるのですが、たとえばホロラボさんのような最先端の取り組みをされている方々と社員が出会いやすくなれば、新たな発見や気づきも生まれやすくなると思うんです。その出会いの結果、世の中を “びっくりさせるサービス” が生まれたのであれば、そのサービスがヤフーの名義でもそうじゃなくてもよいと思って、このオープンコラボレーションスペースを運営しています。

中村氏
 VRアーティストとして活動されている、せきぐちあいみ (https://twitter.com/sekiguchiaimi) さんとも、『LODGE』で開催された勉強会イベントでお会いして、いま一緒にプロジェクトを進めているんです。実際『LODGE』で出会った方とお仕事になっているケースって多いんですよね。
 ホロラボでGPSと地図を連動させるサービスを開発しているメンバーが居るのですが、昨日ここで作業していたら偶然『Yahoo!地図』を運営されている方と出会って、開発に関するフィードバックを受けられたという話をしていました(笑)。デバイス側に寄った開発をしている我々にとって、サービスを幅広く展開されている方々とお会いしやすい場というのは貴重なんです。

ヤフー株式会社 植田氏
 たとえば当社のオフィスを訪問してくださる、普段は地方で農業をされている生産者の方々が、HoloLensのような最先端のテクノロジーと出会えるような場所ってそう多くはないと思うんです。そういった意味では、尖った最先端のことを手掛けている方々とそれとはまったく異なるコミュニティーの方々が出会うことで、新たな発想や提案が生まれやすい場所としても『LODGE』は機能し始めているのではないかなと思っています。

ランチタイムには極めて美味しくてヘルシーなサラダビュッフェも!!

平成29年度『異能(Inno)vation』プログラム

詳細情報、応募は公式サイトをご確認ください。

総務省がICT(情報通信技術)分野において、失敗を恐れず破壊的価値を創造する、奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援する『異能vation』プログラム。平成29年度は下記の2部門で公募を受け付けています。

両部門とも平成29年度の申請受付は、2017年6月30日(金)まで。また全国で公募説明会を開催中です。詳しい情報は『異能vation』の公式サイト http://inno.go.jp/ をご確認ください。


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