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AI×ロボ、機械翻訳、シェアリング 富士通が進めるスタートアップ共創

富士通MetaArcベンチャープログラム 再現Demoday

連載
富士通アクセラレータプログラムで何が起きたか

 5月18日、19日の2日間に渡って開催された「富士通フォーラム2017」の会場内で、5月19日に行なわれた“MetaArcベンチャープログラム”の“再現 Demoday”。MetaArcベンチャープログラムは、スタートアップ企業の独創的なアイデアやサービスと富士通の製品や技術を融合させることで、今までにない価値を目指した製品やサービスの開発を推進する“共創”の試み。Demodayはこのプログラムの成果報告会の位置づけとなり、この日はスタートアップ企業の担当者が登場してピッチを再現し、来場者に披露した。

パーソナルAIとロボティクスで社会課題解決を目指す

 最初に登場したのは、ユーザーの個性を学習するパートナーロボット「unibo」を開発するユニロボットの酒井拓代表取締役。富士通側の担当者としては、グローバルビジネス戦略本部 サービスプラットフォーム戦略企画室 ロボティクスサービス企画開発部の瓜田健司部長が登壇した。

写真左はユニロボットの酒井拓代表取締役で、その右脇にいるのがパートナーロボット「unibo」。写真右は、富士通 ロボティクスサービス企画開発部の瓜田健司部長

 ユニロボットは、人工知能(AI)とロボット・uniboによるサービスプラットフォーム事業を展開し、少子高齢化社会のさまざまな社会課題をテクノロジーの力で包括的に解決することを目指している。uniboには、AIとロボティクスの2つの側面があるとした酒井氏。AIについては、パーソナルAIを搭載しクラウドベースで処理することが特徴で、ユーザー個人の嗜好やコミュニケーションの履歴を学習し、日常会話やレコメンドを可能としているのが強みだと説明。また、ロボティクスについては、ヒューマノイドを意識したデザインと動作、さまざまなIoTデバイスとの連携が可能な点が特徴であると語った。

酒井氏は「ユニロボットの強みはAIとソフトウェアであり、自社開発したコア技術である『コンダクターエンジン』はさまざまなハードウェアにも搭載可能」とコメント。uniboは、2017年秋から一般販売が開始される予定

 富士通との協業は、現在は実証実験の段階で、パーソナルAIの領域を発展的に成長させることに取り組んでおり、同時にロボットの品質向上と業界に即したサービスや機能の拡充も進めているという。酒井氏は今後について、まずは今秋から国内で一般販売されるuniboを“くらしのパートナーロボット”として定着させ、そのあとでグローバルへの展開と「一家に1台」の状況を目指すとした。

 酒井氏に続いてプレゼンを行なった瓜田氏は「2035年には、国内ロボット市場は10兆円規模」といった数字を挙げて、ロボット産業の有望性を紹介。富士通がユニロボットと協業する狙いについては、ロボットビジネスへの早期参入とコミュニケーションAIの技術開発とした。

uniboのデモを行なう酒井氏。uniboが酒井氏の昨晩の夕食を話題にして会話を始め、今晩の夕食にオススメのお店をレコメンドするところが披露された

質と量を兼ね備えた対訳文収集で実用レベルの翻訳品質を実現

 続いて登場したのは、高精度な機械翻訳ソリューションを提供するみらい翻訳 エンジニアリング部の鳥居大祐部長。富士通側の担当者としては、デジタルソリューション事業本部 デジタルアプリケーション事業部の斉藤一実シニアマネージャーが登壇した。

写真左が、みらい翻訳の鳥居大祐部長。写真右は、富士通 デジタルアプリケーション事業部の斉藤一実シニアマネージャー

 みらい翻訳は「機械翻訳によって言語の壁を打ち破る」という目標を掲げ、翻訳エンジンや自動翻訳ソリューションの開発を行なっているB2Bのスタートアップ企業だ。従来からの“ルール型”と、近年の主流となっている“統計型”、その両方を組み合わせた“ハイブリッド型”という3種の機械翻訳エンジンを、ユーザー企業のニーズや利用シーンに合わせカスタマイズして提供。自動翻訳の特徴としては、「自然で読みやすい表現」と「話し言葉に強い」という点が挙げられる。

 一方の富士通も、日本語処理技術では30年あまりの蓄積があり、自動翻訳をソリューションとして提供している。斉藤氏によると、富士通の自動翻訳は「翻訳精度が高いが、表現が固い」「ビジネス文書に強い」という特徴を持っているという。今回の協業では、両社が得意としている部分を組み合わせることで、顧客に対してより良いサービスを提供することを目指している。

 みらい翻訳が富士通と一緒に取り組もうとしているのは、富士通が多数の顧客を持つ企業内情報システムと連携した翻訳データの自動抽出だ。みらい翻訳が力を入れている統計型機械翻訳では、大量の対訳文(コーパス)に基づいて統計的な翻訳モデルを学習し翻訳を行なうため、翻訳の高精度化には質と量を兼ね備えた対訳文の収集が不可欠。企業内情報システムと連携できれば、収集にかかるコストを下げられるというメリットが生まれる。

 今回のプレゼンでは、両社がこれまでに共同で行なったトライアルの結果が紹介された。それによると、対訳文が追加されるほどに翻訳品質が向上し、実用レベルにまで到達。両社の技術を組み合わせることで、課題は残るものの、正確かつ読みやすい翻訳が行なえることが確認されたという。

富士通はトライアルの結果を受け、社内実践を準備中。さらなる検証を経て、製品化を進めることを検討する予定

利用者間での「交換」や「送付」が容易な
スタンプラリーをブロックチェーンで実現

 3番手として登場したのは、ブロックチェーン技術などの研究開発を行なうカレンシーポートの杉井靖典代表取締役CEO。富士通側からは、ネットワークサービス事業本部 映像ネットワークサービス事業部 猪俣彰浩部長と富士通総研 コンサルティング本部 デジタルマーケティンググループの松本泰明氏の2名が登壇した。

協業の概要を説明した富士通 映像ネットワークサービス事業部の猪俣彰浩部長

カレンシーポートの杉井靖典代表取締役CEO。ブロックチェーンに関する著書もあり、ブロックチェーン推進協会の副代表理事を務める

富士通総研 デジタルマーケティンググループの松本泰明氏

 カレンシーポートは、ブロックチェーンの価値の発行、交換、監査などの機能をビジネスレイヤーで使用可能にするAPI「Deals4」を提供している。富士通との協業では、ブロックチェーン技術を活用したスタンプラリーイベントを実証実験として実施。杉井氏は「スタンプラリーと聞くと簡単そうに感じるかもしれないが、一度発行されると価値が不変の通貨と比べて、(暗号通貨として利用者間での交換や送付に対応する)スタンプは価値が流動的で扱いが非常に難しく、複雑な仕組みが必要になる」と話し、実証実験の意義を強調した。

 補足で説明を行なった松本氏も「ブロックチェーンというと、ビットコインなど金融領域での活用が頭に浮かぶと思うが、非金融領域での大きな可能性も見えている。カレンシーポートと行なっている4つの実証実験は、スタンプラリーからポイントや地域通貨、仮想通貨などの多様なユースケースへと適用範囲を拡大する足がかりになる」とコメントした。

スタートアップとの実証実験を通して
富士通の“シェアリングビジネス基盤”確立へ

 最後に紹介されたのは、アパレル事業者と中小・零細の縫製工場とのマッチングサービス「sitateru」を提供するシタテルの協業事例。富士通側の担当者であるデジタルビジネスプラットフォーム事業本部 ビジネスプラットフォームサービス統括部の松本安英シニアディレクター(次世代ビジネスモデル基盤開発担当)が登壇して、プレゼンを行なった。

プレゼンを行なったビジネスプラットフォームサービス統括部の松本安英シニアディレクター

 富士通はクラウドサービス「FUJITSU Cloud Service K5」を展開しており、その機能のひとつとして“シェアリングビジネス基盤”がある。シェアリングビジネス基盤とは、シェアリングビジネスを立ち上げてアプリを簡単に構築することを可能にするサービス。松本氏によると「シェアリングビジネスには、モノや空間、移動、お金、スキルのシェアなどの種類があり、BtoCからCtoCのマッチング型に変化してきている。それぞれにマッチング管理や個人管理、ビジネスサポート、コミュニティーシェアリングが必要とされるが、シェアリングビジネス基盤ではそのすべてをAPIとして提供している」とのことだ。

 シタテルは、小ロット・多品種のアパレル製品を製作したい事業者やデザイナーと中小・零細の縫製工場をマッチングさせるsitateruを運営している。今回の協業では、sitateruの核となっているマッチング部分をシェアリングビジネス基盤のマッチング管理機能を使って運用する共同検証が行なわれた。結果としては、シタテルの実業務を通して機能検証が済み、さまざまなシェアリングサービスに対応できることが確認された。今後は、小売店の会員同士がつながるサービスや物流のマッチングなどにも応用可能だという。

 イベントの最後には、MetaArcベンチャープログラムの責任者を務める富士通株式会社 執行役員 マーケティング戦略本部長 山田厳英氏が挨拶。「MetaArcベンチャープログラムも4回目を終えて、成果が出ているところ。5回目のプログラムへの応募は今年の秋頃を予定している。ピッチコンテストには一般参加も可能なので、ぜひご来場いただきたい」と呼びかけていた。

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