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生粋のリケジョが切り開く、アカデミック分野からモノ作りへの道

量子コンピューティングから自動運転へ、宇都宮聖子さんの挑戦

2017年06月27日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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国立情報学研究所(NII)で長らく量子コンピューティングの研究を携わってきた宇都宮聖子さん。新たに進む道は自動運転だ。プログラミングやFPGA設計の経験まで持つ生粋のリケジョが、なぜ自動運転の世界に飛び込んだのか? 学生時代から持ち続けてきたモノ作りへの思いと、アカデミック分野から飛び立った挑戦について聞いた。(インタビュアー 大谷イビサ)

世界の最先端に興味を持ち、光半導体を触りながら実験

 中学時代からBASICのプログラミングに親しんでいた宇都宮さんは高校も理数科。愛媛県出身ということで、素朴に東京に出たいというモチベーションで、東工大に入り、画像処理を研究していたバリバリのリケジョだ。その後、2003年頃に東京大学に修士として入り、量子コンピューターの分野に飛び込んだ。

「もともとAIに興味があったのですが、コンピュータの理解を深めて自分の強みを作ろうと、画期的なコンピュータと言われていた量子コンピューティングを研究し始めたきっかけ。指導教官で当時NIIの所長であった坂内正夫教授の紹介で、この分野の第一人者であるスタンフォード大学の山本喜久教授に従事することになりました」

 当初、山本教授はアメリカにいたため、おもにメールと電話の遠隔指導という特殊な状況だったが、世界の最先端で研究できるというところに魅力を感じた。その後、2003年から博士取得までの5年間は、大学院生も参加して研究できるNIIの連携大学院生、そして山本研究室の日本拠点一期生として研究室の立ち上げに参画した。

「山本研の立ち上げ当初は日本に実験室がありませんでした。だから、NTTの研究所で半導体をプロセスして、作ったウェハーをスタンフォードの実験室に持ち込んで、特性を評価するといった『研究室ジプシー』みたいなことをやってましたね。おかげでいろんな人と共同研究をする交渉能力が身につきました(笑)」

光の量子コンピューティングから人工知能まで幅広く

 2008年からは助教として5年、2013年からは准教授として4年強、東大、スタンフォード大学、阪大、東京理科大の連携グループと、NTT物性基礎科学研究所、アルネアラボラトリなどの参画企業とともに、研究を進めてきた。

 宇都宮さんが10年以上に渡って手がけてきたのは、「光半導体を用いた量子シミュレーターの開発」「光を用いた新型コンピュータの提案と、原理実証のための光学実験」「ニューラルネットワーク型最適化マシンの機械学習応用」などの基盤技術。正直、私のような商用ITメディアの記者には太刀打ちできない内容だが、量子コンピューティングのみならず、シミュレーションや機械学習の応用、量子としての光の研究など、かなり幅広い分野を手がけてきたことは理解できる。

「一言で量子と言っても、光や原子、電子だったり、いろいろ選べるのですが、私たちが対象にしてきたのは光。光の特殊な性質を使い、セキュアな通信を実現する量子暗号がこの分野に興味を持ったきっかけです。私たちは新しい計算原理で、爆速のコンピューターを作ることを目指していました。当初は紙の上で量子コンピューターを学んでいたのですが、光半導体を触りながら物性を実験してみると、量子コンピューターの実用化がいかに難しいか理解できました」

 宇都宮さんが指摘するとおり、量子コンピューターはそもそも作るのが大変難しい。現状、量子コンピューターの研究でリードしているグーグルですら、今年度の目標は49量子ビット。量子誤り訂正なども必要なので、現在のパソコンに比べて有用な計算を実現するには、さらに沢山の量子ビットが必要とされるが、実際は数十ビットですら制御するのは困難を極める。

「ただプロセスすればいいわけではなく、量子的な特性を活かす必要があります。そもそも量子って見ると壊れてしまうという性質があるので、温度や磁場など外からの影響を極限まで排除し、量子コンピューター的な操作ができるよう制御しなければなりません。特性の揃った量子ビット数を増やし、状態が壊れないまま制御していくのも大変です」

 とはいえ、既存のノイマン型コンピューターの限界を打破する技術として注目を集めている量子コンピューティングは、技術革新もすさまじい。先日は、東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史氏が開発した「量子アニーリング方式」という今までとまったく異なる計算原理を実装したカナダのD-Wave Systemsが、量子ビットを2000量子ビットに増やし、大きな話題となった。

 最近の注目は超伝導を用いた量子コンピューティングの分野で、グーグルやIBMがリーダーとなって実用化に向けて研究開発をリードしている状況だ。この技術は1999年に当時NECであった中村泰信教授(現在は東京大学にて日本の量子コンピュータシーンを牽引)らが初めて実証実験に成功したもの。米国を追い越すべく、日本でも大学や国研、NTTらを中心に研究を進めており、ヨーロッパや中国とともにしのぎを削っている。

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