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旭化成で買収を酷評された「救命機器事業」が逆襲の急成長

2017年06月20日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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価格は高いが、高性能で壊れにくい米ゾール社の救命救急医療機器は米軍でも採用される。今後は、発展途上国でも展開する 写真提供:旭化成ゾールメディカル 拡大画像表示

 過去10年間の売上高の平均成長率が15%──。2017年3月期の決算が減収減益となった旭化成で、急成長を遂げている事業がある。

 旭化成本社のヘルスケア部門で、“心臓突然死(心臓の機能が突然停止して24時間以内に死に至ること)”の危機に直面した患者を救うための救命救急医療機器などを扱うクリティカルケア事業だ。

 この事業は、12年3月に旭化成が約1800億円を投じて買収した米ゾールメディカル社が担っている。17年3月期決算で、同社はのれん代(買収価格と純資産価値との差額)などの償却前の段階で250億円以上を稼ぎ出しており、100億円を超える償却を差し引いても約150億円の営業利益を計上している。同決算期における会社全体の営業利益が1592億円だったことを考えれば、その存在感は決して小さくない。

 ところが買収当時、この“孝行息子”の評判は悪かった。まず、約1800億円という買収価格がゾール社の業績と比べると割高だった。さらに、証券アナリストからは「なぜ、将来有望な再生医療ではなく、いまさら医療機器の販売なのか」などと酷評された。

競合のない市場を席巻

 しかし、現地でのリサーチ段階から買収に関わり、今は日本法人のトップを務める坂野誠治・旭化成ゾールメディカル社長の見方は違った。かつて再生医療の研究者だった坂野社長は、再生医療の将来を悲観視していた。一方で、投資を活用するR&D(研究・開発)で収益性を高めていた欧米勢の動きに危機感も抱いていた。

「本当に皆が欲しがるような会社は売りに出ていない。投資銀行などが持ち込む案件は、他の会社が断ったものが多いので、自分たちで探すことにした」(坂野社長)

 そこで着目したのが救命救急医療機器の分野で全米トップシェアを誇るゾール社だった。少しずつ協業するなどして関係を構築し、時機を待った。そして、旭化成のトップが「2000億円までなら財務も痛まない」と勝負に出た。

 現在、競合製品がない中で市場を席巻するゾール社の「ライフベスト(着用型自動除細動器)」は、心臓突然死のリスクを抱えている患者が着用する。遠隔で心電図などを常時監視し、心臓が小刻みに震える状態(細動)などの異常を感知すれば、アラームが鳴る。それから心臓に電気ショックを与えて、正常な動きへと戻す仕組みだ。

 ライフベストは、主に入院してICD(自動除細動器)を胸部に埋め込む手術までのつなぎ期間や、投薬などで回復する可能性が高い患者の観察期間に、2~3カ月間のレンタル品として導入される。日本では累計500人が使い、費用は3カ月で120万円ほど掛かるという。

 9割が失敗といわれる日本企業の海外M&Aでは、希少な成功例といえるだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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