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「危ないアパート建設」の誘惑、あなたの親も狙われている!

2017年06月19日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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『週刊ダイヤモンド』6月24日号の第1特集は「不動産投資の甘い罠」です。今、増税された相続税の節税策や将来の年金不安をあおった不動産投資が活況を呈しています。業者が提示する収支シミュレーションでは、節税ができる上、多額のもうけが出る計画ですが、果たして本当にその通りにうまくいくのでしょうか。そこで、本誌は複数の業者の資料を入手し、独自に分析を試みました。

 都心から電車を乗り継ぐこと1時間余り。ようやく到着したのは、関東近郊にある風光明媚な地方都市だ。JRの駅に降り立ってからさらに、車を走らせること20分。目に飛び込んできたのは、外観は洋風のデザインながらも幾分質素な小ぶりの2階建てアパートの“群れ”。

 車を降りてアパートの前まで歩いていくと、柵にぶら下がっているのは「いい部屋ネット 入居者募集」と書かれた看板だ。

 通りすがりの地元住民に話を聞いてみると、「これ、すごいですよね。全て大東建託の賃貸アパートです。全部で200戸近くあるんじゃないですか」。

 1棟8戸とすれば、実に25棟ものアパートがこの一角にひしめいている計算だ。ドローンで空撮でもしない限り、全容はとてもカメラに収められそうにない。

 これぞまさに、地元住民から、“大東建託村”と呼ばれている場所に他ならない。

 この“村”の近くで20年前、相続税対策のために3億6000万円の借金をして、大東の1棟4戸のアパートを9棟も建てたという津川貴一さん(仮名、70歳)は今、「大東の営業マンが日参し、家賃を下げたいと何度も言われて困っている」と顔を曇らせる。

 月々の家賃収入は170万円で、ローン返済額は120万円。残った50万円から固定資産税や健康保険料を納めると、手元に残る金額はごくわずかだ。

 だが大東の営業マンは、「1戸につき、たったの3000円ですよ」と家賃の引き下げを要求。応じれば最終的な収支は完全に赤字だ。周囲には、大東の言うままに家賃を下げて赤字となり、アパートを手放したオーナーも複数いる。

 津川さんのアパートの空室率は常時10%程度で、「大東は自社管理物件の入居率を平均で約97%とアピールしているが、とても信じられない」。かつて大東から建物の外壁塗装を1800万円で持ち掛けられたが、別の業者に見積もりを依頼すると、総額900万円で済むと言われるなど、大東への不信感は根強い。

 にもかかわらず、“村”の周辺では、住宅の少ない田んぼや草原の端っこにも、大東や大和ハウス工業ののぼりが立ったアパートが今なお建設されており、「大東と大和の2社で熾烈な受注争いがあったようだ」(付近住民)。

 大東でほぼ埋め尽くされた“村”だが、その南端ではついに大和が一矢報いたのか、4月末に大和のアパートが完成した──。

相続税の節税策がアパート建設を誘発

 今、複数の要因が絡まり合ってこうしたアパート建設のみならず、ワンルームマンションなど収益不動産への投資が熱を帯びている。

 まず、マクロ的要因として大きいのが、日本銀行による超低金利政策。行き場を失ったマネーが不動産市場に流れ込み、不動産価格を押し上げ、キャピタルゲイン狙いの投資が増加した。

 その一方で、ただでさえ預貸率(預金に占める貸出金の比率)の低下に苦しむ銀行をはじめとした金融機関は低金利によって運用難に陥り、担保を取りやすい不動産への融資姿勢を強めている。

 極め付きは、2015年1月の相続税の増税だ。これまでの基礎控除から4割減となったことで、相続税の課税対象者が倍増。アパート建設など、相続税の節税効果が最も高い収益不動産を活用した節税策がブームと化した。

 その結果が、アパート融資残高の顕著な伸びで、今や融資残高は22兆4000億円を超えるに至っている。

 言わずもがな、主たる事業者であるアパート建設会社やハウスメーカーの販売額も右肩上がりだ。

 だが、その反動はすでに出始めている。不動産調査会社タスの調査によれば、すでに15年半ばから賃貸住宅の空室率は大幅な上昇基調にあるからだ。もっとも、このデータは満室稼働の賃貸物件を除いているため数値が高く出がちだが、過年度比較をすると上昇基調なのは間違いない。

 ましてや、今後の人口動態に鑑みれば、全体的に人口が減少していくのみならず、賃貸住宅の主要顧客層である20~49歳人口の急速な減少が重くのしかかるのは明白だ。

 また、社会問題化しつつある空き家の増加についても、33年には3軒に1軒が空き家になるとの調査があるほど。

 その中で、地方を中心とした賃貸アパート建設が増加しているのは、明らかに間尺に合わない。金融庁や日銀が一部の金融機関の融資姿勢に対して、警鐘を鳴らし始めたが、それはつい最近のことだ。

 恐らく10年もたてば、ブームと化した不動産投資の答えは出るだろう。そのときに“甘い罠”にはまったと気付くことになる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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