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手間がなくなる、水道代が削れる、洗浄力が強い:

食器洗い機が欲しくなった理由は3つ

2017年06月23日 07時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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おわかりでしょうか。詳しくは後ほど

 パナソニックアプライアンスの食器洗い乾燥機(食洗機)が累計生産1000万台を超えた。

 国内でなかなか普及が進まず他社がドンドン撤退してしまう中でも粘り強く開発を続け、ビルトインタイプは国内流通台数シェア7割、卓上タイプに至ってはシェア10割という独占禁止法もびっくりの数字を叩き出したパナソニックの食洗機である。いろいろすごい。

 1~2人暮らしのときは食洗機をなめていた。「デカくて置き場所なさそうだし、無理して置いたらキッチンめちゃめちゃダサくなりそうだし、実際どういう人が使っているかイマイチ分からないな~、洗い物の時間は心が無になって好きなほうだしな~」などと思っていた。

 だが今年の2月に赤ちゃんが生まれ、家事という家事がまともに回らなくなり、シンクに築かれた皿、鉢、箸、スプーン、鍋、フライパンの山を見下ろしたとき、何も分かっていなかったことの恥ずかしさとともに、胸の奥から心の声がこみあげてきた。食洗機ほしい。

 しかし食洗機については便利だろうけどデカそうという雑な知識しかない。1000万台突破記念ということで、パナソニックアプライアンスの事業所で詳しく学ばせてもらった。


売れない30年間

 向かったのは滋賀県草津市。敷地面積約52万平米、東京ドーム11個分。約2万人の従業員を抱える巨大事業所だ。琵琶湖のほとりにずらりと並んだ工場で、家電、空調、食品流通、デバイス、4分野の製品を開発している。ここで年間33万台のビルトイン食洗機を製造している。

パナソニックアプライアンス滋賀事業所

 ちなみに草津は昔でいう宿場町。東海道と中山道が交わる交通の要所で、工場群が集結している。草津といえば温泉のイメージしかなかったが、モノづくりの街でもあるのだ。(追記:温泉のイメージがあるのは群馬の草津です)

CESの展示ブースのようなショールームがあった

 事業所の方に来ていただき、まずは食洗機の歴史から教えてもらう。

 パナソニックの食洗機は57年前、1960年に始まった。

 第1号機は床置きタイプの「MR-500」。日本初の家庭用食洗機だ。洗濯機事業部が開発していたアルミボディを流用していたため本当に洗濯機に見える。発売当時の価格は5万9800円。当時の大卒の初任給1万6000円の4倍程度だった。サイズがデカいわ価格が高いわでまったく売れなかった。

第1号機「MR-500」(1960年)

巨大なのにこれしか入らない

 続けて比較的小さな卓上タイプの「NP-100」(1968年)も出したが、置き場がない、そもそも食器洗いを機械にまかせるなんてダメだという意見もあり、売れなかった。

卓上タイプの「NP-100」(1968年)

 その後も30年近く売れなかった。

 やっと売れはじめたのは1990年代。男女雇用機会均等法によって働く女性が増え、家事を省力化しようということで食洗機需要が立ちあがってきた。小さなキュービック型の「NP-600」、通称「キッチン愛妻号」は発売1年で約3万台を売るヒット製品になった。システムキッチン流行に合わせてビルトイン式の食洗機も伸び、1991年には食洗機累計生産台数が50万台を突破した。

ヒット製品「キッチン愛妻号」すごい名前

洗える食器点数も増えてきた

 2000年代からはヒット製品のブラッシュアップを軸に洗浄力を上げ、省エネ性能を上げ、操作性を良くして、デザインを今風にして、地道に売上を伸ばしてきた。ちなみに欧米ではドアを前におろす食洗機が主流だが、腰を曲げなくても開けられるようにとパナソニックではタンスに似せた「引き出し式」を開発した。そうして技術進化を続けるうちに累計生産台数が1000万台を突破したのである。

最新製品。2段式で大量の食器が入る

 すごい話だが、30年も売れない製品を作りつづけた部署がよくつぶれなかったものだ。

 生産台数1000万台を超えたといっても日本の普及率はまだ3割程度で、普及率7割を超えるオーストリア、ノルウェー、デンマークなど欧州諸国に比べると市場規模は小さい。他のメーカーが撤退したのもむしろ自然という気さえする。だがいざ買おうとしたとき国内流通していないぞということになったら悲しいので、もちこたえてくれたのはえらいと思った。

 それにしてもなぜ日本でこんなにも普及が進まないのか。パナソニックでは、

★欧米は“お父さんの茶碗”のような区別がない
→同じような食器を大量に使うから洗いやすい

★日本は漆器のように食器の素材が様々ある
→食洗機NGなモノがあるのでとっつきにくい

 といった理由を挙げていた。

 とくに最初の理由は合点がいった。

 海外ドラマなどで食事というと、テーブル中央に置かれた巨大ボウルからパスタか何かをデカいフォークで各人の皿にドシャーと取り分ける場面が思い浮かぶ。日本の食生活は欧米化しているものの、多彩な食器、一汁三菜の食文化を含めた食事スタイルは日本的なのだ。

高温洗浄が便利

 置き場所がないといった理由もあって購入までのハードルは高いが、実際購入した人の満足度は高いという。購入者アンケートでは、

「家事がラクになった」94%
「気持ちに余裕ができた」86%
「手荒れがしなくなった」65%

 などの声が挙がったそうだ。「そりゃそうだよね自動で洗ってくれるんだもん」くらいに思っていたが、理由はほかにも2つある。

★きれいになる

 1つはこれ。洗浄力の強さだ。

 食洗器は洗浄用の湯温が60~80℃と高い。豚や牛の脂が溶ける温度は40~50℃程度。手洗いの30~40℃程度では落としづらい油汚れが落ちやすい。洗剤も特殊だ。一般の台所用洗剤が界面活性剤を主成分としている一方、食洗機専用洗剤は漂白成分やアルカリ成分などをブレンドしたもの。手荒れを気にしなくていいぶん、洗浄力の強い成分を使っていける。

 アツアツの温水で作った強力な洗剤液を高い水圧で食器にブシャーと吹きかけて洗うことで、人間にまねのできない洗浄力を得る仕組み。食洗機では手洗いよりもキレイにグラスが洗えるためビールの泡立ちがよくなるといい、食洗機を使っている飲食店もあるそうだ。

 余談だが、温水は家事の武器だ。洗濯に温水を使えば皮脂汚れがよく落ちる。生乾き臭のする洗濯物は熱湯につければ臭いの原因菌が死んで除臭できる。お風呂を上がる前に熱いシャワーを浴室にかければカビの発生を防げる。ただお湯が熱いとやけどしてしまうので、食洗機のように機械に頼る理屈は分かる。

食洗器で洗ったグラス(左)、手洗いのグラス(右)。ビールの泡立ちが違う

★節水になる

 もう1つはこれ。水道代節約だ。

 食洗機が使う水は、手洗いのじつに約7分の1という。パナソニックの説明によれば、手洗いでは食器点数44点で平均約82.6リットルの水を使う。食洗機を2回使うとバスタブ1杯分の節水効果があるという。「1年使うと小型プール1.5杯分節水。日本中が約10年間使うと琵琶湖ひとつ分の節水になる」とも言っていた。パナソニッキアン・ジョークである。


食洗機は国内産

 「食洗機の歴史と利点」のような座学が終わり、最後は工場見学だ。

こういう風景たまりません

 製造工程については説明すると長くなるのでレシピ風にした。

【ビルトイン食洗機の作り方】
(1台分 合計45分)

1.鋼板をプレスします
2.溶接ロボットで14箇所を溶接します
3.基幹部品を順に配置します
4.部品の上にタンクをはめあわせます
5.(2)に(4)を合体させます
6.扉・操作部を取りつけます
7.カゴを組み込み内蓋を取り付けます
8.品質を検査して梱包したら完成

 工場で一番興奮したのは巨大なロボットアームが高速でガシガシ鋼板を溶接する工程だったが(Webカメラで流し続けてほしい)、工場としては人が入っているところも多かった。

溶接をする巨大ロボットアーム。ずっと見ていたい

 人間が多く関わっているためか、工場自体に工夫があるのも面白い。

 たとえば「からくり作業台」。部品を入れた箱を下に落とすと自動的に新しい箱がスライドして出てくるおもしろ装置だ。従業員が自分で作ったらしい。部品置き場に番地(アドレス)を振り、決まったモノ・場所・量を置くという定位置管理的工夫もあるという。「3定」と呼んでいるそうだ。

 そしてサラッと書いたが1台を完成させるのに合計45分で速い。

 速いからといって品質管理がザルということではなく、細かいチェック機構が色々ある。たとえば作業現場にはカメラがついていて、正しい完了画像と照合した結果「OK」が出ないと次に進めない仕組みになっている。最終検査工程では無音室で運転して異音がないかの検査もしている。食洗機のお値段はこうした細かい工程の人件費が入っていると考えればいいのかもしれない。

カメラの画像認識で正しく作業が完了したかチェックしている


ちゃんと置けるか知りたい

 工場を出たところで食洗機の勉強は終わった。あらためて思う。食洗機ほしい。

 わが家は賃貸なので買うなら卓上タイプだ。キッチンも狭いのでシンクの脇にアルミラックでも置いて載せることになるだろう。運転したときガタガタうるさくないか、排水ホースが邪魔にならないか、そもそも面積的に置けるのかといったところをたしかめたい。

 とくに「手間がなくなる」「水道代が削れる」「洗浄力が強い」という3つの話によって、ほしさに拍車をかけられた。なんとかスムーズに導入する方法を模索したい。


訂正のお知らせ:1960年発売の「MR-500」価格に対する当時の背景紹介が誤っていたとメーカーから連絡があり、該当箇所を訂正しました。(6月27日)




書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中

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