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ヤフーの上司は「目標管理」ではなく「成長支援」をする ヤフーの人材育成「1on1」とは何か【最終回】

2017年06月16日 06時00分更新

文● 本間浩輔(ダイヤモンド・オンライン

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ヤフーの「1on1」が、人事の領域で関心を集めている。1on1とは、正しくは「1on1ミーティング」といい、原則として毎週1回、30分間、上司が部下と対話するという制度である。この制度導入の仕掛け人である、本間浩輔・ヤフー上級執行役員がヤフーの人材観について語る。

組織と働く個人の関係性を見直す

 人材育成の手法としてヤフーが実施している「1on1」は、業種を超えて多くの企業が注目しており、導入を試みる企業も少なくなありません。しかし、おそらく定着させることが簡単ではなく、まずはその根底にある人材に対する「思想」を理解することが必要です。今回は、ヤフーの人材観について紹介します。

 かつて、日本企業の多くに「キャリアは会社が決めるもの」という常識がありました。今もそうした人材観を持つ企業は少なくないかもしれません。

 私自身にも経験があります。新卒で入社したシンクタンクでは、人事異動は完全に会社都合であり、個々のキャリアについて働く人の意思が反映されることはまったくありませんでした。

「本間さんのキャリアは会社が考えてくれるんだから、仕事の好き嫌いなんて言っちゃだめだよ」と言われたこともあります。

 
 しかし、バブル崩壊と長い低成長時代を経て、経営を巡る環境は大きく変わりました。会社の言う通りにやっていれば雇用も賃金も保証する、という時代ではありません。その意味で、企業は社員の「キャリア自律」を促す必要に迫られています。

 そのようななかで、ヤフーは社員の「才能と情熱を解き放つ」ことで成長しようと考えています。「キャリア自律」も促します。そのために上司がすべきことは、部下が活躍する舞台を整えることで、1on1はそのためのコミュニケーションの場でもあります。

『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』
本間 浩輔 (著)
ダイヤモンド社刊 1944円

 かつての長期雇用が保証されていた時代、会社と社員は家族のような関係だったかもしれません。しかし、今は家族からチームに変わってきたように感じます。

 チームのなかで、社員はプレイヤーとして市場価値に応じた給料を得て、高いオファーがあれば、ためらわずに移籍していく。そのような時代になりました。

 2012年に思いがけず人事部長に任ぜられたとき、私は、それまで当たり前とされてきた会社と社員のありようそのもののギャップを修正していく仕事が必要になると考えました。

 組織と働く個人の関係性を見直し、お互いがパートナーとして適切な関係を保ち、その結果として、社員の利益と会社の利益が、最大化するような仕組みをつくることを理想と考えたのです。

 その考えを言葉にしたのが「人財開発企業」というスローガンです。このスローガンには、会社と社員は主従ではなくパートナーであり、会社は社員に給料を正しく払うだけでなく、社員の成長にも貢献し、社員の成長によって会社も成長していくという意味をこめました。

いろいろな人が見ていてくれて
出会いによってキャリアが拓ける

 1on1はヤフーが人財開発企業を目指すうえで、非常に大事な手法だと考えています。それは経験学習を促進し、社員の才能と情熱を解き放つための手段であるからです。

 もっとも1on1だけで、その2つが実現できるわけではありません。

 たとえば経験学習の促進については、人事異動を活発に行い、社員に多様な経験をさせるようになりました。

 そのことは経営が意識していないと、なかなかうまくまわっていきません。

 その人物が優秀であれば優秀であるほど、上長は彼(女)を手放して、異動させようとはしないからです。人事も現場に気を使って、人事異動をためらうこともある。それでは、人財開発企業になることはできないでしょう。

 人事異動によって、社員は複数の経験ができるだけでなく、複数の上長や職場の仲間から、観察してコメントをもらうことができます。異動せずに同じ部署にとどまるケースと比較すると、経験学習を深く浸透させることができるはずです。

社員は仕事を割り振られるのではなく、選ぶ

 ヤフーが人財開発企業になるためのもう1つの方法「社員の才能と情熱を解き放つ」はどうでしょうか。

 ヤフーでは、会社が決めた仕事を社員に割り振る(アサインする)のではなく、社員が自分の仕事を選ぶ(チョイス)することを理想としています。

 現実はそううまくはいきません。しかし、会社のために、組織が与えた仕事をするのではなく、自らが才能と情熱を解き放つ仕事を選ぶほうが、会社にとっても本人にとっても合理的であるという考え方をもっています。

 たとえば、目標管理制度(MBO)に代表される人事評価制度は、1990年以降、日本企業のスタンダートであったと思います。しかし、MBOによって、強く動機づけられた社員の話を不思議と聞きません。自分の経験を振り返っても、評価を上げるために頑張った経験は少ない。

 むしろ、誰かが自分を必要としてくれて、自分にも貢献できるという自信があったり、このプロジェクトで自分が成長できそうだという予感があるときのほうが、仕事を頑張ろうと思えたように思います。

 もちろん、お金がともなわなければ、仕事で頑張ろうとは思わないというのも事実だとは思います。しかし、それでも、これまでの人事評価の仕組みは、前述したように、誰かに必要とされ、自らの才能を伸ばしているという感覚や実感を軽視していたように感じます。

 同時に、ヤフーでは、社員が仕事に情熱をもつことも大切にしています。仕事に限らず、情熱を傾けている時、人は時間の経過を短く感じるのではないでしょうか。目の前の仕事に集中していて、昼飯を抜いてでもやり遂げたいと感じたり、仕事にのめりこんで終電を逃した経験はないでしょうか。

 ヤフーの1on1では「あなたか情熱が傾けられる仕事って何ですか」という上司からの問いや、「〇〇の仕事をしているときはイキイキとしているね」というコメントなどによって、社員が情熱を解き放つ仕事を見つける支援をしています。

 目標管理ではなく、成長支援。これがヤフーの上司が行うマネジメントの本質ということになります。

部下のキャリアについても対話する

 また、ヤフーの1on1は、個別業務の進捗確認にとどまらず、部下のキャリアについても対話します。いまの業務にどのように取り組み、さらには先々どのような仕事をしていきたいのか。それを聞き取ることも、才能と情熱を解き放つために重要だと考えているからです。

 会社ですから、希望する業務、希望する部署に、ただちに移ることができるわけではありません。それでも、各人が思い描くキャリア像を把握し、そこに向かって当面なすべきことを示唆し、希望に向かって補うべき経験をアドバイスすることは有益です。

 人には誰でも優れた才能がある、と私は信じています。しかし、その才能を見つけることは簡単なことではありません。ましてや、才能を伸ばしていくのはつらい作業だと思います。

 社員本位に考えたい、と私は考えていますが、それは決して社員を甘やかすことではありません。むしろ、なんらかのビジネス領域でプロフェッショナルになることを求め、異動によってさまざまな仕事経験を積むことも含めて、厳しい一面もあります。

 しかし、そうであっても、ヤフーは社員の才能と情熱と解き放つ会社になりたい。1on1はそれを目指したコミュニケーションのあり方なのだと考えています。

(ヤフー上級執行役員 本間浩輔)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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