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急成長のコインランドリービジネスに潜む意外な落とし穴

2017年06月15日 06時00分更新

文● ダイヤモンド・オンライン編集部(ダイヤモンド・オンライン

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「車から出て8歩以内で店舗に到着」が理想だというコインランドリー。写真はコインランドリーデポ藤沢遠藤矢向店

半径5kmに10店舗!
増殖するコインランドリー

 神奈川県藤沢市の小田急電鉄「湘南台駅」からバスで20分ほど走った「湘南ライフタウン」。藤沢市と茅ヶ崎市にまたがるニュータウンには大きな団地が立ち並び、3万2000人余りが住んでいる。

 その一角に、コンビニエンスストアに併設する形で、いつも賑わっているコインランドリーがある。洗濯機と乾燥機、そしてスニーカー専用の洗濯機まで実に19台がずらりと並ぶ大型のコインランドリーで、40台の乗用車が停められる駐車場まで完備している。

 そんなコインランドリーデポ藤沢遠藤矢向店は、同チェーンの中でも最大の売り上げを誇る。日曜の昼下がりともなれば、隣接する横浜市戸塚区などからも客が訪れてるほどだ。衣類やタオルを洗濯し、乾燥機にかけていた夫婦は、「天気が悪い日が続いたときには、店の中で乾燥機待ちの列ができる。空いたと思ったら、すぐに次の人が利用するから混んでいて帰ったこともある」と話す。中には、隣接するコンビニのイートインスペースで洗濯の待ち時間を過ごしたりする人もいるという。

 そんな大賑わいのコインランドリーから目と鼻の先に、今年5月と6月、別のコインランドリーが相次いでオープン。これにより、湘南台駅を中心としたわずか半径5kmのエリアに、じつに10軒の店舗がしのぎを削る形に。まさに、コインランドリー激戦区だ。

 こうした状況は、湘南ライフタウンだけではない。東京近郊では、東京都大田区や江戸川区、足立区、神奈川県でも川崎市川崎区などで、コインランドリーのチェーン店が出店を加速させている。店舗や駐車場の用地取得が容易な地方都市でも、コインランドリーは急増している。

 その結果、店舗数は2013年度で全国1万6693店、03年度からの10年間でじつに3967店舗も増加している(厚生労働省「コインオペレーションクリーニング営業施設に関する調査」)。

 コインランドリーは1970年前後に日本に上陸、80年前後のバブル期は共働き世帯を支え、2000年前後にも拡大、15年から現在にかけてはフランチャイズ(FC)によって4度目のブームを迎えている。

ダニを死滅させる高温の乾燥機が人気を集める(コインランドリーデポ原町田店)

女性客を意識した清潔な店舗
フランチャイズで急成長

 数だけでなく、店舗の様子や客層も変化した。最近のコインランドリーは、かつて銭湯の横にあったような暗くて汚い、“一人暮らしの男性御用達”というイメージを一掃している。明るい照明の下、1時間で洗濯・乾燥ができる最新の機械やスニーカー専用洗濯機などを備え、店内は掃除が徹底されている。そうした努力が奏功し、あるチェーン店では客の約7割を女性が占め、ダニ・ハウスダスト対策として布団の洗濯に訪れたり、家族の衣類のまとめ洗いに来たりしているという。

 背景には、布団にいるダニ・ウィルスの吸引装置「レイコップ」(07年発売)のヒットをきっかけとしたアレルギー対策への関心の高まりや、低価格オフィスカジュアル衣料の普及によるクリーニング店の利用の減少、そして共働き世帯の増加などがあるようだ。

 顧客側の変化だけでなく、業界の環境も変わった。かつては直営店が中心だったが、今やFCの拡大が店舗数の増加を後押ししている。コンビニのようブランド(看板)と店舗運営のノウハウなどを加盟店オーナーに提供し、FCとして店舗網を拡大させている。

 FCの仕組みはこうだ。店や条件によって異なるが、一般に加盟店のオーナーは店舗・駐車場の地代、建物建設費、内装、看板、機械・設備といった「初期費用」を用意し、借地代、警備費、看板・商標使用料、運営委託費、変動経費(電気、ガス、水道、洗剤等)を毎月支払いながら経営することになる。これ以外にも、売り上げに対して20%程度の運営委託費(ロイヤルティ)や、機器のリース料などもかかる。

 そうした中、創業時から多店舗展開を計画し、FCの仕組みを使って急拡大しているのはコインランドリー大手・WASHハウス(宮崎県)だ。児玉康孝代表取締役社長は「大量出店を狙うなら、本部の財務体質強化のためにFCは欠かせない」という。

 なぜなら、コインランドリーは1店舗の売り上げの60~70%が機械や設備の減価償却費になるため、キャッシュフローが回っていても赤字になり、金融機関の融資を受けづらくなる。したがって、自ら出店・経営する「直営店型」で多店舗展開することは容易ではない。そこでFCの仕組みを活用し、機械や建物にかかる費用はFCオーナーに負担してもらうことで、FC本部(WASHハウス)のバランスシートからオフバランス化し、財務負担を軽減するというわけだ。

サラリーマンや退職者が
“副業”として投資対象に

 ただ、加盟店オーナーは店舗運営にはタッチしない。WASHハウスは、加盟店オーナーの役割を「土地や資金を出資するだけの投資家」と位置付けているからだ。店舗運営や売上管理、洗剤の仕入れ、清掃、小銭交換といった店舗サービスはすべてWASHハウス側が提供、その代わりに加盟店オーナーからロイヤリティを徴収する形だ。そのため加盟店オーナーは募集せず、狙いを付けた土地に直接アプローチすることがほとんど。その結果、加盟店のじつに7割強は法人オーナーとなっている。

 こうした戦略が当たり、昨年11月には東証マザーズに上場、店舗数は右肩上がりで、今や416店に上る(5月30日現在)。

 冒頭で紹介した神奈川県町田市に本社を構えるランドリーデポも、やはりFCの仕組みを使って店舗網を急拡大させているチェーンの一つ。東は岩手県から西は宮崎県までの202店を展開、うち42店がFCだ。こちらは、WASHハウスと違って加盟店オーナーを募集、店舗運営も手掛けてもらっている。「コンビニはオーナーが自店で働くが、コインランドリーなら無人でも成立するので、手掛けやすさを訴えて拡大させている」とランドリーデポ店舗運営本部の寺山幸弘部長は語る。

 一方で、こうした募集を見かけたサラリーマン投資家や、定年退職者がコインランドリー投資に注目している。コインランドリーの売り上げは1ヵ月に50万~60万円が平均的で、コンビニの1日分程度に過ぎないが、装置産業なので自分で働かなくていい利点があり、出資さえすれば毎月家賃収入が得られる「不動産投資」に近いイメージが持たれているからだ。

 そういう意味では、魅力的な“副業”にも見えるが、そうは問屋が卸さない。

 サラリーマンのハンドルネーム「埼玉swallows」氏は、昨年、FC形式で展開しているあるコインランドリーチェーンの加盟店募集に応募した。不動産投資で得た資金を運用したいとの思いからだ。営業マンが勧めた土地はロードサイドの好立地。現地に足を運んで一発で気に入った。

 ただ、半径2kmが商圏と言われるコインランドリーにおいて、500mの距離に競合店が出店していたのが気になった。しかし、担当営業マンに聞いてみると、店舗面積や駐車場数からして「圧勝です」との答え。投資効果のシミュレーションでも、月の平均売上高は初年度が65万円、店舗が認知される2年目以降は75万円と弾き出されていたので安心し、昨年7月に出店を決めた。

営業マンの口車に乗せられ
儲かるはずが月20万円の赤字

 ところがである。蓋を開けてみると予想が外れた。開店から10ヵ月間の平均売上高は37万円と、シミュレーションを大きく下回ってしまったのだ。近くにある競合店の影響も大きかったが、電気やガス、水道、洗剤などの経費についても25万円のはずが45万円もかかってしまった。売り上げから高額な機器リース費を引くと、毎月の赤字は20万円にも上った。

 頭にきて、営業マンを追及しても「申し訳ございません」の一点張り。埼玉swallows氏は、電気代削減のためにLED電球に代え、電気の契約プランも変更。利用者が少ない夜間はエアコンを切ったり、清掃のパートを週2日にしてみたりといった涙ぐましい努力を重ねているが、「今辞めたら1000万円余りの損になってしまう。機器のリース返済などを考えると、少なくてもあと7年は辞められない」と不満をこぼす。

 このように、FCと言ってもチェーンによってばらつきがあり、埼玉swallows氏のように本部の事業見通しやマネジメント、そして支援などがいい加減なケースもある。コインランドリーといえども、オーナーには変わりない。「資金だけ用意すれば、あとは何もしなくても儲かる」などと甘いことは考えず、経営者として運営する覚悟とノウハウが必要だといえそうだ。

(ダイヤモンド・オンライン編集部 松野友美)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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