事例に厚みが増したAWS Summit 2017レポート 第5回
スマホアプリからIoT、ECサイト、基幹システムまで全方位でのAWS利用
新サービス登場とともに旧システムを捨ててきたJINSのAWS活用
2017年06月06日 07時00分更新
企画とサービスにあわせてシステム自体も成長し続ける
2015年11月に発売されたJINS MEMEは、眼の動きから得られる情報を収集することで得られる「アタマ年齢」と頭の動きから得られる「カラダ年齢」をメガネ型のウェアラブル端末で収集し、さまざまなアプリを構築できるプラットフォーム事業として展開されている。ランナー向けの「JINS MEME RUN」や集中力計測アプリ「JINS MEME OFFICE」などのアプリのほか、アカデミックな利用を前提としたソフトウェアや開発者用のSDKの提供も行なっている。
JINS MEMEは同社初のウェアラブル端末・IoT事業ということで、IoTに対しての知見がまったくなく、立ち上げからラウンチまで約1年半くらいの時間がかかったという。「私がこのプロジェクトに入った時点であと半年で立ち上げると言われたが、IoTの基盤も含めて、まだなにもできておらず、収集したライフログのデータが安定していないなど、とにかくさまざまな問題があった」と澤田氏は振り返る。
また、ライフログを溜められるウェアラブル端末はできたものの、走りながら手探りサービスを開発していくプロジェクトだったこともあり、成果やゴールが見えにくいところも大変だった。たとえば、ライフログといっても、利用パターンは異なるし、動くモノから精度の高いデータを収集するのも敷居が高い。溜めたデータの利用方法も当初から決まっていたわけではなく、予算もどれくらいかけられるかわからなかった。手探りでのサービス開発で、システムの開発には柔軟性が必要だったわけだ。
こうしたプロジェクトでの試行錯誤を反映し、AWSのシステム構成もめまぐるしく変化を続けた。JINS PAINTと同じく、KinesisもLambdaもなかった3年前はとにかくローコストを目的にEC2で基盤を構築することにしたが、両者がリリースされてからはEC2を廃止し、KinesisとLambdaに順次切り替えを行なった。そして、販売開始時はKinesisやLambda、DynamoDB、S3を利用した基盤となり、結果的にサーバーレス化が実現でき、ランニングコストも抑制できたという。「簡単に言ってしまえば、新しいサービスが出たら、次々リプレースしてきた」と澤田氏は語る。
リリース前とはいえ、変化し続けたシステム。AWSから新しいサービスが出たら、古いシステムを惜しげもなく捨てるといった大胆なことがなぜできたか。前提に加え、澤田氏は、「パートナーの協力があったからというのはもちろんだが、大量アクセスに耐えるシステムをローコストで作るためには、とにかくなんでもやろうという大きな方針があった。1度作ったシステムでも勇気をもって捨てるという判断が重要だと思った」と振り返る。実際、新サービスの基盤は、JINS MEMEのみならず、他のサービスの基盤としても転用できているという。新サービスとともに妥協せずシステムを成長させていくことがクラウド利用の鍵となるようだ。
コラボ商品の予約販売で国産クラウドがダウン
そして今年行なったのが、ECサイト「JINS ONLINE Shop」の刷新だ。同社のECサイトは情報システム部とは別の部署が運用を行なっており、2013年10月から大手国産クラウドで稼働していたという。しかし、前述の通り、情報システム部としては国産クラウドでよいのかという不信感があったという。
不信感を持った背景について澤田氏は、「有名アニメとのコラボ商品を予約販売した際、アクセスに耐えきれず、サーバーダウンしたことがあった。その後、めいっぱいまでスケールアップしたけど、それでもダウンしてしまった」と振り返る。実際、1分間あたり1万というリクエストがサイトに集中したことで、国産クラウドの限界が露呈した。多くの問い合わせや意見を受けたこともあり、システム基盤をAWSに移行することに決定した。
AWS上ではセキュリティソフトなどを新システムに載せ替えつつ、OSSを活用することで余計なコストを削減。使っているサービスは一般的だが、サーバーのスケールアップやダウンを柔軟に行なえるように構成したという。結果的として、第2弾となるコラボ商品の予約販売は、前回よりもさらに多い1分あたり1万2000というリクエストが殺到したが、停止することなく乗り切った。しかも、ランニングコストが1/3になったことで、EC事業としては収益向上が実現し、しかもダウンタイムをなくすことが可能になった。クラウド事業者を名乗るところは多いが、使ってみるとサービスの設計思想や実現できることは大きく異なる。「クラウドの定義を考え直したのが、このプロジェクトだった」と澤田氏は語る。
全方位的にAWSを活用するジンズ、事業会社としてサービスを作り続ける
現在手がけているのが、グローバルでの基幹システムのクラウド化。中国や台湾などアジア圏に加え、米国までカバーするグローバルのITシステムを、少ない人数でいかに構築・運営するかは大きな課題だった。
そのため、同社は国内で使っているAWSのシステムを監視のシステムとともにそのままグローバルで展開。「海外事業はどれくらいの規模になるのか予想が付かないので、パッケージが動く最低限のスペックでシステムを立ち上げ、最初から余計なサイジングはしない」ということで、パートナーやアプリケーション担当者を中心に、国内からグローバルのインフラ構築・運用を進めたという。「AWSがグローバルで展開している事業者だからこそ、同じようなアーキテクチャや構成でシステム運用ができる」(澤田氏)。
結果として、同社は新規事業系のJINS MEME、JINS Paint、JINS Virtual Fit、JINS BRAIN、オンラインショップのJINS ONLINE Shop、データ分析を行なうDWH/BIやSalesforceとのマルチクラウド、そして基幹系システムまで全方位的にAWSを活用しているという。
次の取り組みとして澤田氏は、「バッチの運用管理ツールをAWSサービスで構築」「重いバッチ処理をAWS利用で高速化・最適化」「ジョブ管理を内製化」という3点を紹介。パートナーと試作したというバッチの監視ツールのデモを披露した。デモではフロー管理ツールであるStep Functionsから起動したAWS Batchが停止しているのを受け、アラートメッセージを送信。スマートフォンで受信した澤田氏はAmazon Connectを使うことで、電話だけでバッチを再開させた。
「初めてデモが成功した(笑)」という澤田氏は、「AWSのサービスを使うと、スマートフォンと組み合わせてこんなことまでできる。さまざまなAWSサービスを取り入れて、事業会社として新しいサービスをどんどん作っていきたい」と語り、パートナーへの謝意を示して、セッションを終えた。
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