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トヨタ・ホンダもついに標的に、「特許トロール」の恐怖

2017年05月29日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:123RF

自動車業界は“ラストリゾート”だ──。米アップルなどのハイテク企業に代わって、自動車・部品メーカーが狙われた。特許を盾に賠償金を得る「パテント・トロール」の標的になっているのだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

「ついに、自動車業界にも来たか──」。ある自動車メーカー幹部は、警戒モードに入った。

 5月1日、トヨタ自動車やホンダなどの自動車・部品メーカー25社が米企業の電動モーターの特許を侵害しているとの訴えを受けて、米国際貿易委員会(ITC)が調査をスタートさせたからだ。

 訴えたのは、インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV)なる米企業である。知的財産関係者の間では知らない者はいない存在だ。

 というのも、知財業界では、IVは「パテント・トロール(特許の怪物)」──自身が保有する特許権を盾にして、大企業からライセンス料や賠償金をせしめる企業──として認識されているからだ。

 これまで、米アップルや米グーグルなどのハイテク企業が、パテント・トロールの標的となり特許侵害訴訟に巻き込まれるケースが目立っていたが、ついに、自動車業界が餌食になった。

 今回、IVがやり玉に挙げたのは、日独の25社に上る。その内訳を見ると、トヨタグループ12社、ホンダ6社、日本電産2社、ミツバ2社の合計22社と、ドイツ勢のBMW3社。いかに、日系メーカーが狙い撃ちされているかが分かるだろう。

 従来、自動車メーカー同士、自動車部品メーカー同士では、競合が自社の特許権を侵害している疑いがある場合でも、損害賠償訴訟や販売差し止めといった強硬手段は回避し、クロスライセンス契約を結ぶなど円満に解決することがほとんどだった。

 特許侵害で訴訟を提起すると逆提訴されるリスクがあるし、むしろ友好的に部品を共同調達できるという利点がある。実際に、「米独の自動車メーカーの知財部門メンバーはみんな顔見知り。三重県・鈴鹿で情報交換のミーティングをやったこともある」とホンダ幹部は打ち明ける。

 突然降って湧いた知財リスク。仮に、ITCが特許侵害を認める判断を下したならば、対象部品が搭載された車を米国で販売できなくなる恐れがある。米国を主戦場と位置付ける日系メーカーにとっては大ピンチだ。

 しかし、実は、米国の特許訴訟件数は2013年をピークに激減している。この背景にあるのは、オバマ政権によるパテント・トロールへの規制強化策だ。今後も、パテント・トロールが訴訟提起先の裁判所を自由に選べなくなるなど(原告勝率が高いテキサス州の裁判所が人気)、締め付けは厳しくなる一方だ。

 追い込まれたパテント・トロールが、「残されたラストリゾート」(IV関係者)と位置付けたのが、自動車業界なのである。

 まず、市場が大きい。自動車メーカーや部品メーカーは、売上高が大きく幅広く事業展開している大企業ばかり。販売停止に追い込まれたときのダメージが大きく、不当な要求にも屈しやすい。

 次に、自動車は5~7年の開発期間を要するなど製品サイクルが長い。特許の存続期間は20年で、特許切れになるまでプレッシャーをかけられる。

 現状では、パテント・トロールを含む不実施主体(NPEs。製品・サービスの製造・販売をしない企業・人)による訴訟件数は、バイオ・製薬業界やエレクトロニクス業界で伸びているが、自動車業界もその一員に加わってしまうことになりそうだ。

50億ドル規模の運用資産

 ここで、ベールに包まれたパテント・トロール、IVの正体を明かしていこう。

 IVの組織形態は、特許を介在したファンドである。創業者で最高経営責任者(CEO)のネイサン・ミアボルト氏は、2000年にIVを創設するまで、米マイクロソフトの最高技術責任者(CTO)を務めた人物。創業時は、純粋な技術育成ファンドに近かった。

 昨年まで、IVには三つのビジネスモデルがあった(上図参照)。(1)特許を盾にライセンス収入・賠償金で稼ぐモデル、(2)斬新な発明の事業化で稼ぐモデル、(3)発明者のネットワーク化で稼ぐモデルである。何といっても、大黒柱は(1)で、「2万~2.5万件もの特許を保有しており」(野崎篤志・イーパテント社長)、ファンドの運用資産は50億ドル規模に上るといわれる。

 だが、あまりにも、(1)のビジネスの比重が大きくなったことで、パテント・トロールと名指しされるようになり、(2)や(3)のビジネスパートナーである発明者から警戒されるようになった。それに配慮したのか、昨年、(3)のビジネスは完全に分離し、ジノバという社名で独立している。

 IV自身は、(2)を手掛けていることから「公には、パテント・トロールであるとは認めていない。発明者のホワイトナイトという大義名分がある」(IV関係者)。

次に狙われる企業・技術

 だが、実態はパテント・トロールそのものだ。(1)に偏在した運用実績があり、「ファンドの運用益を捻出するために自動車を狙い撃ちした」(同)という見立てが有力だ。

 では、IVが次に標的にする企業・技術は何か。

 特許分析のパテント・リザルトによれば、17年3月時点でIVが保有する特許(対象は下図参照)は、3820件。うち、「他社から取得した特許」が9割強を占める。

 今後狙われるのは、気合十分で「自社出願した特許」と「最近、他社から取得した特許」だろう。

 前者では、16年に「位置情報に基づき自動車のスピードを制御するデバイス」など、自動車業界に関連する特許を出願している。

 後者では、16年以降に117件の特許を取得している。取得元企業を特許件数の多い順にランキングしたものが、下図だ。ランキングトップのENCAPテクノロジーズこそ、今回、自動車・部品メーカーを追い詰めた電動モーター特許のもともとの保有主である。この中に、狙われている特許があっても不思議ではない。

 トヨタやホンダは、燃料電池車関連の特許を一部開放している。自社技術を特許で囲い込むよりは、それを開陳して普及を早めたり、ロイヤルティーで稼いだりする方向へかじを切っているからだ。

 その一方で、自動運転や電動化対応で車のエレクトロニクス化が加速しており、自動車・部品メーカーの業容が、本来パテント・トロールの標的になっていたハイテク企業のものに近づいている。

 イノベーションを起こし続けるには、特許を開放すべきなのか、保護すべきなのか。標的とならないための防衛手段はあるのか。自動車・部品メーカーの知財戦略が勝敗を分けることになる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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