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スペシャルトーク@プログラミング+ 第13回

みんな違う生き方をしてもそれを吸収できるように、コンピューターを発達させている。10年後には、きっとそうなっている

落合陽一のライバルはエジソン!? 「現代の魔法使い」の頭の中

2017年06月15日 12時00分更新

文● 吉川あかり

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 5月20日(土)、落合陽一氏による講演会「魔法の世紀を生きる子供たちへ」が秋葉原にて開催された。この講演は、株式会社UEIが手がける秋葉原プログラミング教室が主催し、子どもたちだけでなく一般にも解放したもので、これからを生きる子どもたちに向けて、メディアアーティストの落合氏がメッセージを送った。

 落合氏といえば、研究者、筑波大学学長補佐、またPixie Dust Technologies.IncのCEOである。「現代の魔法使い」とも呼ばれ、最近はテレビなどに出演し、そのたくさんの肩書きや見た目がミステリアスだ。彼は一体何者なのか、疑問に思われている方も多いだろう。今回の講演では、そんな彼の頭の中を覗けるような、興味深い考え方を聞くことができた。落合氏の研究分野であるプログラミングや表現だけでなく、これからの生き方・働き方にまで触れられ、大人が聞いても参考になる非常に充実した内容となった。今回は、この講演の中から特に面白かった部分を選んでお届けする。

みんなで同じことをしていてもしょうがない時代になってきた

 こんにちは、落合陽一です。僕は29歳なので、いま10歳の人はあと19年するといまの僕と同い年になりますね。最近、僕も子供が生まれたのですが、その子が10歳になる頃には、僕は40歳になるんだなぁと思っています。僕は、ふだんは大学の先生、自分の会社の経営、そして、メディアアーティストをしています。それ以外は世界経済フォーラムとか東京都とか大学運営とかに関わりながら、次の時代を探っています。

僕が最近にテーマにしているのは、人類にとっての「近代」と「現代」を終わらせるためにどうやって技術インフラを作れるのか。ちょっとお子さんには難しいと思うんですが。今日はその話をしていこうと思います。

 まず、何の話から始めようかな。制服って何のために着ていると思う? 「着ろ」って言われているから? 僕らが制服を着始めたのって、結構昔なんですね。例えばこの写真は明治時代くらいの、教育勅語が発令された頃の風景なんですけど、この頃から日本の小学校って前習え、気をつけをして、机で同じ教科書を持って勉強するってスタイルになっています。

明治時代の小学校の写真。このころから制服を着ている

 確かに、制服がみんなばらばらだったら統一感がないじゃん。変な服を着たら同じ服を着ている人たちからいろいろ言われるじゃん。もしかしたら普通の服を着るより安いかもしれない。全員同じ服をたくさん作ったら安いから。でもこの理屈って、軍隊教育にきわめて近くって、なぜかというと、近代では日本の国を強くしなきゃいけなかったから。全員で同じ目標に向かって、全員で同じことをして、全員で同じ教科書を読んで、全員で同じ言葉を喋って、全員で同じ時間割で行動するっていうのがものすごく大切だったんですね。そうすると何ができるかって言うと、日本が工業化していくときに、みんなで同じものが作れるようになる。工業製品が、お店で買ってきて全部バラバラな形してたら困るよね。たとえば、Mac買ってきてディスプレイが最初から動かなかったら困るじゃん。そんな風に、近代では全部の品質を保つというのがすごく大切なことだった。たとえば車とかiPhoneとか、20世紀の感覚の中では最高傑作だとは思うんだけど、僕らの時代ではもっと違うことをしていかないといけないんじゃないかなって僕は思っています。つまり、決まりきった工業製品みたいな人を作っても、それはコンピューターの方が得意なので、人間の出る幕はないなと僕は思っているわけです。つまり、みんなで同じことをしていてもしょうがない時代になってきたなあと僕は思っています。

 でも、ちょっと考えてみようと。なんでみんな朝同じ時間に学校に行かないといけないと思いますか? 学校って8時45分くらいに始まると思うんだけど、僕らが時間を決めて行動し始めたのって、今はみんなあたりまえに思っているんだけど、実は1700年代の終わりくらいから1800年くらいからなんですよね。それよりも前の人たちって、業界によって何時に起きても良いし、1年の分け方も違ってたりしたんだけど、昔マルクスっていうドイツの偉い人がいまして、その人が人間の生産活動を時間で決めると良いよって言ったんですね。それから僕たちはみんな腕時計をつけて時間に間に合うように行動したりとか、待ち合わせには遅れないのが普通だよって教えるようになりました。だから近代って時間でコントロールしてたんだけど、今では地球の裏側と仕事してる人にとっては時間って関係なかったりするし、みんな同じ時間に学校に行かなくても、頭いい子は午前中に授業終わっちゃっても良いと思わない? 本当は。僕はカリキュラムにそって同じ時間で行動する必要はないと思うんだけど。そういったような、みなさんが学校で習っていることって、今後全く当たり前じゃなくなっていくと思います。こういうことを今知っていると楽しいかなと思って、今日この講演を企画してもらいました。

バラバラのようなんだけど、でも全部やっているのはコンピューターをプログラミングすること

 僕自体は、普段は研究者をしています。何の研究をしているかというと、俗にいうとAIとか、コンピューターサイエンスの研究をしています。たとえば、レーザーで空間に絵を描く研究とかをしています。空気を直接光らせて空中に絵を描く研究なんですが、どうやっているかっていうと、レーザーを使って、空中に光を直接描くっていう。仕組みは非常に単純で、プラズマなんですね。あと最近やっている研究っていうと、これは赤いところだけ音がでるスピーカーとか。そういう研究をしています。

外出先ではホロレンズをつけて仕事をすることもある

 これらを会社で作って売ったりとか、研究室で研究したりとか、日本や海外で発表したりとか、そういうことをしています。僕らが得意にしていることは何かっていうと、そういう物質自体、モノとか光とかを、コンピューターを使ってプログラミングしていくことです。だから3Dプリンターでモノを作って、その構造がどうやって変形するのか、動くのか、っていうのをCGで設計して、コンピューターのプログラムに入れて、出てきたものを動かす、ということをしています。こんなことばっかり研究していて、3Dプリンターがいっぱいあったりとか、レーザーを打つ装置があったりとかします。全然バラバラのようなんだけど、でも全部やっているのは「コンピューターを使って人間には設計できないことをプログラミングする」っていうのが僕らの仕事です。プログラミングって言ったらだいたいプログラミングとかiPhoneのアプリを作ったりとか、画面にCGの映像を作ったりを思いつくと思うんだけど、それと同じ理屈で、どうやったら僕らが生きているこの世界にCGっぽいものを作ったり、形あるものを作れるか、って言う研究をしています。だから、やってることはすごい単純なんですよね。入出力の体験価値を見ながらソフトウェアの問題を解いているんです。

ライバルはエジソン

 僕がライバル視している人がいて、ぜひ紹介したいんですけど、この人です。知ってます? この人。トーマスエジソンです。いっぱい発明した人ですね。この人言っていることがめちゃくちゃでおもしろいんですが、たとえばこの人、映像装置は一人一個持つべきだって言っているんですね。エジソンはキネトスコープという覗き込んで映像を見る装置を作って、一方でリュミエール兄弟という兄弟がプロジェクターを作りました。プロジェクターはみんなで映像を見る装置で、キネトスコープは1人ずつ映像を見る装置です。どっちが当時売れたと思いますか? 当時、世界的にプロジェクターが普及しました。だけど、今我々が生きている世界ってスマホを持っているじゃないですか。つまり、1人1個映像装置を持っているんですね。エジソンの言ったことは、彼が生きていた時代にはコスト面で普及しなかったのですが、今は実現しているわけです。

 エジソンが言った面白いことは他にもあって、音楽は体験するものであって、蓄音機は他の用途で使うべきだ、例えば音声コミュニケーションとも言っています。蓄音機で音楽を聴いたエジソンは、音楽は生で聴いた方が良いよ、こんなもので聞くべきじゃないって言ったんですが、結局CDが流行ったわけじゃないですか。でも今スマホで音楽を聴くよりコミュニケーションをしていますよね。これも正しい見方だったと思うんですね。

ライバルはエジソン

人工知能で笑ってもらったエジソン

 極めつけは、エジソンは最初電気は直流でいこうと言っていて、もう一人テスラという人がいて交流がいいじゃんって言っていたんです。交流の方が遠くまで電圧を下げずに送れるんだけど、直流は直流で変換しなくていいから便利だと。コンセントって交流なんですけど、僕らが使っているものって、熱が発生するものとモーターで動いているもの以外は、だいたい直流で動いているんです。USBもそうだし、パソコンもそうだし、液晶もそうだし、そこにあるプロジェクターもそうだし、僕らは直流の世界で生きているんです。イメージしてもらうと、おうちのコンセントが全部USBだったらiPhone充電するの楽じゃん? でも、もし山奥でUSBしかなかったら家電とか動かないよね。だから、僕らが普段使っている冷蔵庫とか洗濯機には交流が便利なんだけど、それ以上の情報で使っているようなものってほとんど直流で動いている。だから、インフラとしては交流が便利なんだけど、それ以上は直流の世界になっていくのは目に見えていることで、エジソンはそれをわかってたんじゃないかなって思うんです。

エジソンはメディアアーティストなんじゃないかなって思っています

 エジソンは発明家って言われているんですけど、僕はメディアアーティストなんじゃないかなって思っています。エジソンが作ったものって、最初大幅にはずしているんですよ。覗き込む映像装置も誰も使ってなかったし。でも、エジソンが最初に作るからエジソンすげー!ってみんな思うわけです。エジソンの時代はコンピューターがなかったので、どうやったら電気から直接見えるものを作れるかっていうのが仕事で、僕らの時代は、どうやったらコンピューターを使ってエジソンがやったことをもっと新しい観点でやるかっていうのが大事なんだと思います。

Googleがない世界では算数はできないかもしれないけど、Googleがある世界では算数ができるんだから、劣等感を持つ必要はない

エジソンとフォードができたことを今やってもしょうがない

 フォードって知ってますか? エジソンとフォードは仲が良くて、フォードはエジソン電気会社に入社してきた社員なんですね。彼はそのあと自動車を発明します。この自動車は多分世界で1番売れた車の一つです。フォードのなにがすごいかというと、全く同じものを工場で並べて作るっていうことを普通にした人です。僕らがイメージする工場は、部品が並べられていて、歯車をつけて…というものですよね。そしてエジソンがその考え方で電化製品を作った人です。初めて自動車を作った人と初めて電化製品を作った人は友だちだったんですね。他にも、この2人は最初に電気自動車を作りました。時速40キロで100キロ走る良い車を作ったんだけど、エジソンだったらこのまま商業化して大失敗するのがいつものパターンなんですけど、フォードは感覚が良いので、「エジソンさんバッテリーを作るのがとてつもなく大変です、やめましょう」っていうことで実用しなかったんですね。だけど100年たったいま、あらゆる電気自動車メーカーができていて、100年前にできなかったことが割とできるようになったんですね。半分はコンピューターのおかげで、半分はいろんな技術のおかげです。

 だから、この時代にできたことを今やってもしょうがないと思うんですよね。工場でみんなで並んで同じものを作ることって、みんなで同じことをやっていた時代の人には合っていたと思うんですね。みんなで同じやり方をしていたら、バラバラな形のものはできないから。なんだけど、今ってもうそういう時代じゃなくて、みんなばらばらでどうやって生きていくかって時代だと思います。

落合氏が、子どもたちの意見を聴きながら行われたので、終始楽しい雰囲気だった

 みんな多分あと10年くらいしたら、学校でせーのって授業を聞く必要はなくなると思うんだよね。あと、試験でもスマホを持ち込めるようになると思うんです。僕は大学の先生なので、いつもどうやったらスマホを持ち込んでテストできるかって考えています。だって、インターネット使ったことない小学生いますか? Google使ったことない小学生、いないですよね。Google検索できない場所に缶詰にされて問題を解くっておかしくないですか? わからなかったらググれよ、って。今はインターネットがあるのに、わざわざインターネットのない世界でテストをするっておかしいですよ。それでわかる能力って、僕はインターネットのない世界では正解が答えられますっていうことじゃん。実際インターネットがある世界では誰でも解ける問題なら、それって意味ないなって思うんですよ。たぶん、将来の僕らってものの解き方を変えていかなきゃ行けないんだろうなって思っています。

 テストの時、Googleがない世界では算数はできないかもしれないけど、Googleがある世界では算数ができるんだから、劣等感を持つ必要はないよね。逆上がりができなくても、身体にロボットがついていない世界ではできないけど、ロボットがついていれば逆上がりができるんだから、問題ない。たとえば僕はスクーターに乗っていれば100メートル10秒以下で走れるわけですが、スクーターのない世界ではできないわけです。でもそれはずるじゃなくてパラメーターの問題ですよ。だからあんまり人と自分を比べてもしょうがないので、比べるものはテクノロジーで解決する世界になれば良いなって思います。

テクノロジーが発展したら、健常者も障がい者も区別はないし、人と機械も違いはないし、男だろうが女だろうが関係ない

コンピューターがあると、いろんな人たちが出てくる

 みんなに覚えてほしい重要なことがあって、今僕らが標準って言っている人間って、昔の人が人間とは何かというのを考えて、その上で法律を決めてつくったものが多いです。男女を平等にしようって言っているのも、標準的な人間とは何かを考えたから男女の違いが生まれたし、機械と人間の差を考えたから、機械がやれば良い仕事を人間がしていたりするし、健常者というものを定めたから障がい者というものが生まれたと思うんです。僕らの時代はここはもっとハイブリッドになっているので、あんまり関係ないんですよね。だって肌の色が何色かって関係ないわけじゃないですか。ポケモンGOだって肌の色を選べたりするわけです。腕がなくたって3Dプリンターで作って動けば何ら関係ないわけです。コンピューターがあると、いろんな人たちが出てくるわけです。それは今までできなかったからいなかっただけで、テクノロジーが発展したら、健常者も障がい者も区別はないし、人と機械も違いはないし、男だろうが女だろうが関係ないわけです。その違いは200年以上前の人が決めたことで、今もこれを守る必要ってないんです。そういうことが当たり前だと思わない大人になってほしいなって僕は思います。

 最近は自動で動く車いすの研究をしています。後ろで車いすを押す人って要らないと思うんですよね。その位置に360°カメラが合って周りの環境を認識すれば、自動運転できるわけです。そうすれば車いすに乗っている人は自分で自由に動けるようになる。もしお店で買い物するときは、ヘルパーさんがVRモードとかで入って、おつりください、って人間がやって、それ以外のほとんどのことは機械が自動運転で動かすことができるんです。

 他にも、今、日本は高齢化社会って言われてるんだけど、きっとポジティブになると思うんだよね。少子高齢化ってみんな言ってるでしょ? 少子高齢化って、だいたいみんなでおじいちゃんたちを支えようっていうイメージですよね。

高齢化社会は、きっとポジティブになる

でも今僕たちがとるべき少子高齢化の形は、おじいちゃんたちはいっぱいいるけど、支えるのはロボットや人工知能に任せて、僕たちは好き勝手やってっていう世界です。もしかしたらおじいちゃんおばあちゃんも、ただ支えられるんじゃなくて、頭にホロレンズつけたり、自動車いすに乗ったりして、自由に動いてる世界にもなるかもしれない。そのような世界を作るために、どのような装置を作るかって言うのが重要だと思います。

ワークアズライフ

 大人になると、ワークライフバランスが大事だって言われます。どういう意味かって言うと、よいワークがよいライフを生み出して、よいライフがよいワークを生み出すってよく言うんですね。僕はこれ、嘘っぱちだと思っています。僕は最近、ワークアズライフだと思っています。どういう意味かって言うと、みんなはもうタイムマネージメントの時代じゃないと思うんですよ。何が楽しくて何が楽しくないか、何がストレスで何がストレスじゃないかって時代に生きていくんだと思います。時間割に従うことなく、みんな同じことをやらなくても、みんなばらばらのことをやれる時代だと思います。20世紀までの標準化の時代、何が標準かって言うのを考えている時代だったと思うのですが、僕らの時代はどういうパラメーターがあなたにありますかっていう時代になると思うんです。時間でコントロールするんじゃなくて、どこがストレスでどこがストレスじゃないかっていうのが重要になります。

ワークライフバランスではなく、ワークアズライフ

 それってどういうことかって言うと、全員にプログラミングをやれって言っているわけではないんです。その人にとってストレスがかかることはやらないほうがいいっていうだけです。でも、ストレスがちょっとかかることをどれだけ混ぜていくかということによって、全部ストレスがない状態になるとあんまり発達しないので。10%くらいはストレスがかかることで、90%くらいはストレスがかからない環境をつくることが、これから伸びるために大切なことだと思います。僕は1日19時間研究していてもストレスでないので全然苦じゃないです。だけど、Excelは10分で嫌になります。なのでExcelには触らないようにしています。学校でExcelの書類が来たら絶対に書きません(笑)。あと僕はeメールが嫌いなので打ちません。電話の方が好きなので。ストレスのかかるeメールより、電話の方が早くてストレスがかかりません。

会場ではふしぎなおもちゃが回され、子どもたちは大盛り上がり

底に置いた1円玉が浮いて見えるおもちゃ

 人によって全然違う生き方があって、社会や会社でいきなり変われるかっていうと、急に変わるとぐちゃぐちゃになるのできっと難しいと思います。だけど、人によって違うツールを使ったり違う生き方をしたりしても、それを吸収できるように、我々がコンピューターを今発達させている途中です。そんなふうに10年後にはできるようになっていると僕は思っています。

落合陽一(おちあいよういち)

1987年生まれの29歳。メディアアーティスト。筑波大でメディア芸術を学んだ後、東京大学学際情報学府博士課程を学際情報学府初の短縮修了(飛び級)して博士号を取得。2015年5月より筑波大学助教・デジタルネイチャー研究室を主宰し、Pixie Dust Technologies.incを起業しCEOとして勤務している。また、同年経産省より「未踏スーパークリエータ」、総務省の変な人プロジェクト「異能vation」に選ばれた。2017年より筑波大学学長補佐、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。専門はCG,HCI,VR,視・聴・触覚提示法,デジタルファブリケーション,自動運転や身体制御。著書に『魔法の世紀(Planets)』『これからの世界をつくる仲間たちへ(小学館)』『超AI時代の生存戦略(大和書房)』など。


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